あなたのパスワードが危ない:5分で分かるパスワード
パスワードはサイバー攻撃に対する最初の防御手段としてそれなりに役立つ。安全なパスワードを設定するにはどうすればよいだろうか。
パスワードは自分や会社の情報を守るための最初の防衛線だ。パスワードだけでサイバー攻撃から逃れることはできないとはいえ、攻撃者から狙われにくいパスワードを選ぶべきだ。
多要素認証やパスキー、パスワード管理ツール、さらにはゼロトラストセキュリティなどを導入すればパスワードの弱点を保護できる。だが、まずは自分のパスワード自体を強化しよう。無償ですぐ実行でき、効果的だからだ。以下で取り上げる内容は従業員のリテラシーの底上げにも役立つ。社内システムの設計の際にも役立つだろう。
「5分で分かるパスワード連載」ではパスワードにまつわるさまざまな話題を取り上げる予定だ。第1回のテーマは「危険なパスワード」だ。
6種類の危険なパスワード
一口に危険なパスワードと言ってもさまざまな種類がある。以下では6つの危険なパスワードの種類を紹介する。順に見ていこう。
短いパスワード
まずは短いパスワードだ。システムによってパスワードの最低の長さや最長の長さが決まっている場合が多い。その場合、なるべく長いパスワードを選ぼう。なぜなら短いパスワードはあっという間に突破されてしまうからだ。
次の図はさまざまな長さのパスワードを力任せに突破(ブルートフォースアタック)するために必要な計算時間を示している。
パスワードの文字数ごとに時間を見ていくと、8文字の場合、数字だけを含むパスワードは1秒も掛からずに解読されてしまう。数字+英大文字+英小文字+記号という複雑なものでも7時間しか持たない。
さらに4文字追加して12文字にすると、数字だけなら25秒だが、最も複雑なパスワードであれば3万年も持つ。これなら安心だろう。
使われる頻度が高いパスワード
長いパスワードであっても利用者が多いパスワードは危険だ。次のリストはNordPassが調査した日本の企業で利用者が多いパスワードだ。
順位 | 文字列 |
---|---|
1 | password |
2 | 12345678 |
3 | 123456789 |
4 | 1qaz2wsx |
5 | asdfghjk |
6 | nyanmage |
7 | aa123456 |
8 | 1234567890 |
9 | 12qwaszx |
10 | asdf1234 |
11 | 1q2w3e4r |
12 | 11111111 |
13 | 123456 |
14 | q123456789 |
15 | asdfghjkl |
16 | qwer1234 |
17 | qwertyui |
18 | himawari |
19 | abcd1234 |
20 | takahiro |
単純な数字「12345678」やキーボードのキーの位置を使ったもの「1qaz2wsx」が目立つ。このようなパスワードを使ってはいけない。「1234567890qwertyuiop」のように文字数を増やしたとしても駄目だ。パスワードには国ごとの偏りがあり、日本では「nyanmage」や「himawari」「takahiro」が特徴的だ。
ここに挙がっているパスワードは絶対に使ってはいけない。このリストの情報は攻撃者にも広く知られているからだ。
危ない4桁の数字パスワードとは
4桁の数字のパスワードを求めるサービスは少なくない。4桁の数字にもパスワードと同じ問題がある。使われる頻度が多いものと少ないものに偏りがあり、頻度が高いものは危険性が高い。
次の図は流出した3200万件の4桁の数字のパスワードをケンブリッジ大学の研究者が分析した結果だ。図中のX軸が最初の2桁、Y軸が後ろの2桁を表す。
4桁の数字パスワードの頻度 出典(A birthday present every eleven wallets? The security of customer-chosen banking PINs)
この図では頻度が高いものを濃い青で、少ない部分を薄い青で示している。頻度の対数を取って表示しているため、色が濃いものは非常に危険だと言える。
最も多かったのが「1234」(全体の3.7%)で最も少なかったのは「8439」(0.0006%)だった。つまり強い偏りがある。
図を見ると最初の文字が「19」と「20」のものは色が濃く、頻度が高い。これは「1995」や「2002」などのように生まれた年を選んでいるからだろう。X軸、Y軸とも31までのものが濃くなっている(さらに13〜31は少し薄い)のは誕生日を選んでいるためだ。対角線が濃くなっているのは「2727」のような繰り返しを選ぶユーザーが多いことを示す。「1234」や「4321」の色も濃い。
自分だけのパスワードだと考えていたとしても、このような数字を選んではいけない。4桁の数字を選ぶならこの図で色が薄い部分のものにしよう。
意味のあるパスワード
意味のあるパスワードも危険だ。英単語やローマ字表記の日本語だったり、固有名詞を含むパスワードを選んではいけない。攻撃者は単語のリストを持っており、それを攻撃に使うからだ。
ただし、複数の関連性のない単語をつないだ文字列の危険性は下がる。例えば「giraffe-octopus」(キリン+タコ)のようなパスワードだ。
自分の属性に近いパスワード
個人の属性はSNSなどで容易に収集できる。例えば第一営業部に所属していて、パスワードに「ichiei」を選ぶとしよう。このような偏りは攻撃者にもすぐ分かってしまう。自分の名前+誕生日のようなパスワードは最悪だ。
デフォルトのパスワード
ルーターなどのハードウェアはもちろん、ある種のサービスにはデフォルトパスワードが設定されている。デフォルトパスワードの情報は公開されており、攻撃者はそのような情報を収集している。デフォルトパスワードのまま使い続けてはいけない。
使い回したパスワード
サービスAで使っているパスワードをサービスBで使ってはいけない。なぜならパスワードは高い確率で漏えいするからだ。2014〜2018年、大規模ホテルチェーンMarriott Internationalは持続的なサイバー攻撃を受けた。この攻撃では3億人以上のアカウント情報に不正アクセスがあった。これは米国の全人口とほぼ同じ規模だ。
このような攻撃で漏えいしたパスワードはダークWebなどで販売され、攻撃者の武器になる。サービスAで漏えいしたパスワードをそのまま使って、サービスBに入力する単純な攻撃がある。サービスごとにパスワードを変えなければパスワードの意味がなくなってしまう。
使い回しにはあと2つのパターンがある。定期的にパスワードの変更が求められるサービスで、パスワードa、パスワードbを交互に使うやり方だ。これも良くない。パスワードが漏えいすることを考えると、これでは守ることができない。
最後のパターンは「password」「password01」「password02」……というパターンだ。これも攻撃者には通用しない。
次回以降もパスワードについて触れていく。
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