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「GROW with SAP」でAWSが選択可能へ AWSでSaaS型ERPを動かすメリットとは

GROW with SAP on AWSは、企業がSAP S/4HANA Public Cloud Editionをより容易に導入できるように設計されている。他のERPに比べてどのような強みがあるのだろうか。

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 SAPは、自社のクラウド型ERPを「Amazon Web Services」(AWS)で新たに提供する「GROW with SAP」の取り組みを通じて、中堅・中小企業向けのクラウド型ERPの市場におけるシェア拡大を目指している。

 SAPによると、2024年12月2日(現地時間、以下同)の週にラスベガスで開催されたカンファレンス「AWS Re:Invent」で、「Amazon Web Services」(以下、AWS)で「SAP S/4HANA Cloud Public Edition」(S/4HANA Cloud Public Edition)を利用できる「GROW with SAP on AWS」が発表された。

GROW with SAP on AWSの概要

 2023年3月に開始されたGROW with SAPは、中堅・中小企業がS/4HANA Cloud Public Editionを導入しやすいように、移行や管理の負担を軽減し、コスト削減のためのソフトウェアとサービスを提供している。

 「SAPがサブスクリプション形式で提供するGROW with SAPの標準パッケージには、中核となるS/4HANA Cloud Public Editionが含まれている。また、開発および統合のための『SAP Business Technology Platform』(以下、SAP BTP)、業界のベストプラクティスを事前に設定したテンプレート、組み込み型AIと自動化プロセス、迅速な導入を支援するサービス、学習リソース、ローコードおよびノーコードのアプリケーション開発が可能なSAP Buildへのアクセスも提供される。

 GROW with SAP on AWSの活用により、顧客は生成AIプラットフォーム「SAP AI Core」やSAP BTPを通じてAIモデルにアクセスできるようになる。また、「Amazon Bedrock」の生成AIホスティングサービスを通じて利用することも可能で、AI21 LabsおよびAnthropic、Cohere、Meta、Mistral AI、Stability AI、AmazonのAIモデルが含まれている。

 GROW with SAPのモデルでは、S/4HANA Cloud Public EditionはSAPのクラウドインフラで運用および管理される。SAPでクラウド型ERPを担当するヤン・ギルグ氏(プレジデント兼チーフプロダクトオフィサー)によると、GROW with SAP on AWSは、顧客が自社で使用しているハイパースケーラーのインフラでS/4HANA Cloud Public Editionを運用できる初めてのプランだという。

 「私たちは新規顧客向けに、S/4HANA Public Cloud Editionの基盤としてGROW with SAPを積極的に推進しており、需要を拡大できるチャネルや、このプランに適した顧客層にアプローチする方法を模索している」(ギルグ氏)

 ギルグ氏によると、GROW with SAP on AWSは主に中堅・中小企業を対象としているものの、あらゆる規模の企業がS/4HANA Cloud Public Editionを導入および運用する際に役立つ可能性があるという。

 ギルグ氏は「GROW with SAP on AWSは、『AWS Marketplace』で提供されており、顧客はそこで詳細な情報を得た後、SAPのパートナーを通じて購入手続きを進めることができる」と述べた。AWSの顧客が購入を決定した場合、AWSのクラウドクレジットを購入費用に充当できる。

 「S/4HANA Public Cloud Editionは複雑な製品であり、オンラインで購入してすぐにアクティベートできるようなものではない。通常、デモや販売前の説明が必要であり、顧客は実際に製品を試してみたいと考える。そのため、パートナーは顧客とともに販売プロセスを進めることになる」(ギルグ氏)

 ギルグ氏によると、AWS MarketplaceでGROW with SAP on AWSを提供することにより、顧客が製品を入手しやすくなり、「Amazon Nova」のような新しい基盤モデルをはじめとして、SAPとAWSのツール間での連携を活用できるようになる。

 ギルク氏は「GROW with SAP on AWSの提供はすでに開始されており、最初の顧客による導入は2025年初頭になる見込みだ」と述べた。

SAPは競合製品に対する優位性を確保できるのか

 企業向けの分析フォーラムであるDiginomicaのジョン・リード氏(アナリスト)によると、GROW with SAP on AWSは、すでにAWSを利用している企業などのSAPの顧客にとって好ましいニュースだという。同氏は「SAPは、S/4HANA Public Cloud Editionをより標準化された環境に移行し、クラウドプロバイダーで運用できるようにする取り組みを進めている」と語った。

 リード氏が指摘したGROW with SAP on AWSの特徴の一つは、中堅・中小企業を主な対象としているものの、SAPがあらゆる規模の顧客に対してPublic Cloud Editionの導入を可能にする姿勢を示している点だ。

 『これまでSAPは、S/4HANA Public Cloud Editionを主に子会社および中堅・中小企業向けの製品として位置付けてきた。しかし、現在SAPは、大企業にもPublic Cloud版の導入を積極的に検討するよう促しており、これは理にかなった展開だ。AWSで運用することで、本ソリューションが他のAWSサービスと同様に拡張可能だと企業に示せるためだ」(リード氏)

 リード氏によると、顧客をS/4HANA Cloud Public Editionに移行させることで、SAPは生成AI型ツール「Joule」を含むAIサービスを顧客に提供できるようになるという。

 「同じデータモデルで大きなカスタマイズなしに製品を運用している顧客に対するAIサービスの提供がはるかに容易になる。AIサービスに容易かつ迅速にアクセスできるようになることこそが、パブリッククラウドの大きな利点の広るだ」(リード氏)

 企業向けソフトウェアの調査を実施するTechnology Evaluation Centersのプレドラグ・ヤコブレヴィッチ氏(プリンシパル・インダストリーアナリスト)は「『GROW with SAP on AWS』は、顧客が投資を即決するほどの競争優位性を提供しているわけではない」と述べた。

 ヤコブレヴィッチ氏によると、本製品はAWSのインフラでS/4HANAのパブリッククラウド版を提供するものだが、この点だけでは、中堅・中小企業向けのクラウド型ERPの競合製品である「Oracle NetSuite」や「Microsoft Dynamics 365」よりもS/4HANA Cloud Public Editionを選択する決め手にはならないという。

 ヤコブレヴィッチ氏は「Amazon NovaのようなAWSのAIツールにアクセスできることも、同様に優位性を確保する要因にはならないだろう」と指摘した。

 ヤコブレヴィッチ氏は、次のように付け加えている。

 「『Microsoft Azure』や『Google Cloud Platform』などの他のハイパースケーラーのサービスでも、AIや大規模言語モデル(LLM)を活用できる。そのため、それらを活用できる点がどのように差別化につながるのか疑問だ」(ヤコブレヴィッチ氏)

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