kintone導入のつまづき、どう解決した? 創業75年の工場が「紙での在庫管理」から脱出した話
kintoneはプログラミング知識のない非IT人材にも業務アプリが開発できるノーコード開発ツールだが、導入や開発を自社で実施するのが難しいケースもある。kintone導入で一度つまづいた老舗ニットメーカーは、在庫管理のデジタル化や業務アプリ開発にどのようにこぎつけたのか。
内製化の手段としてだけでなく、AIブームの影響を受けてノーコード開発ツールの人気が高まっている。しかし、非IT人材が導入や開発に取り組もうとすると、必ずしもうまくいくパターンばかりではないようだ。
ある老舗メーカーの例を見てみよう。
社長自らがkintone導入、業務アプリ開発に取り組んだが……
今井機業場は、富山県南砺市に2つの工場を構える、経編ニット(トリコニット)生地の開発・製造企業だ。国内有数の織物の街である南砺市で、同社は高い商品開発力と技術力を強みとして、年間300点以上の商品を開発・製造している。
これまで同社はニットの原材料となる原糸の在庫を紙の台帳で管理していた。この方法では原材料の残数の確認に時間がかかり、リアルタイムでの管理ができなかった。計算ミスや記入漏れなどのヒューマンエラーが発生することも課題になっていた。
今井機業場の導入プロジェクトでは、まず社長自らがkintone導入を試み、アプリを構築したが、業務アプリの設計や集計用プラグインの設定段階でつまづきがあったという。
その状況を同社はいかに挽回したのか。
導入でつまづいた今井機業場は、kintone導入を伴走支援するコムデックの支援を得ることにした。コムデックは「原材料の在庫管理をkintone化したい」「原材料の残数も自動集計できるようにしたい」といった今井機業場の要望を踏まえ、対面開発でともに業務アプリを構築する方法を採用した。
kintoneの標準機能では複数のアプリにまたがるデータの集計ができないため、サードパーティー製のプラグインであるkrewの「krewData」を利用した。krewDataを使えば、複数アプリにまたがるデータを自動で集計・加工できる。プログラミングの知識がなくても、パズル感覚で集計フローを設定できるのも特徴だ。krewDataは集計したいタイミングによって、2つの料金プランが選べる。日次や月次など、決まったタイミングで実行したい場合は「スケジュール実行プラン」、アプリの操作に合わせて実行したい場合は「リアルタイム実行プラン」が使える。
今井機業場は既にkintoneの導入段階で、構築前のステップとして在庫管理の業務フローを整理していた。この業務フローを踏まえて、「入庫管理」「出庫管理」「在庫台帳」などのアプリが必要になることが分かっため、コムデックはまず「入庫管理アプリ」を構築した。
入庫管理アプリでは発注日や原糸名、入庫数量、出庫数量、残量などを確認できる。過去の入庫履歴や入庫伝票のPDFも表示できるようにした。
さらに、登録したデータはkrewDataと同じくkrewが提供するプラグイン「krewSheet」を使って一覧表示させるようにした。krewSheetは、kintoneデータをExcel感覚で表示・編集できるプラグインで、集計結果を一覧表示する「Sheetモード」と、集計しながらデータを入力し、ピボットテーブルを表示する「Xrossモード」がある。
必要なアプリを用意した後、krewDataで集計フローを構築することになった。今井機業場のケースでは、日々の入出庫をリアルタイムに把握できるようにするため、「リアルタイム実行プラン」を使用した。原糸の種類ごとに「在庫数=現在の数量+入庫数−出庫数」で算出するように設定し、集計結果の表示にもkrewSheetを利用した。
これにより、入出庫のアプリに情報が登録されると、リアルタイムで在庫台帳のアプリに反映され、在庫の自動集計が可能になった。
在庫数については下限値をあらかじめ決めておき、その値を下回る場合は色を変えて表示できるように設定した。これにより発注すべき原材料をひと目で把握できるため、在庫切れを防げるようになった。
開発成功のポイントは?
今井機業場は今回、kintoneで在庫を管理する環境を構築したことで、PCやスマートフォンがあればリアルタイムに情報を確認できる環境を実現した。自動集計されるため、残数を計算する手間がかからず、計算ミスや記入漏れなど、ヒューマンエラーを防ぐといったメリットも享受できる。これまでは「日ごと」の入出庫履歴しか見られなかったが、今回のアプリ開発によって「原材料ごと」のデータも確認できるようになった。
コムデックによると、はじめに試用版の業務アプリを作成し、実際に利用しながら細かい部分を調整してから本番環境に導入したことが今回の開発成功のポイントだという。これにより、新しいシステムで現場が混乱したり、大きな不具合を起こして業務に支障が出たりするのを防げたとしている。
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