あなたの会社もやっていないか? 「目的なきデータ分析」という時間と予算のムダ
BIツールを導入し、ダッシュボードを作った。それでも現場の判断や行動は変わらない――。データ活用を進める企業で、こうした悩みは少なくない。人手不足を背景に、少人数で業務を回すためのツールやAI活用が求められる中、データ活用を「見える化」で終わらせず、業務改善につなげるには何が必要なのか。EBILABの常盤木龍治氏に聞いた。
近年、大企業やテック企業を中心に多くの企業が積極的にデータを活用してDXを進める一方で、日本企業の多くを占める中堅・中小企業では、その必要性を認識しながらも、データ活用が思うように進まないケースがある。少子高齢化に伴う人手不足の課題がますます深刻化する中、本来その影響を真っ先に受けるであろう中堅・中小企業こそ、デジタル技術を活用して業務の効率化や省力化を進めるべきだが、思うように進まない理由はどこにあるのか。
データ活用は手段であり目的ではない
全国の中堅・中小企業にDXのコンサルティングサービスを提供しているEBILABにおいて、取締役ファウンダー、CTO(最高技術責任者)、CSO(最高戦略責任者)を務める常盤木龍治氏は、企業の経営陣と現場の双方に課題があると指摘する。
「経営者が喫緊の課題である『人手不足』の解消を目的にDXをトップダウンで進めようとした結果、DXの本来の目的である事業そのものの変革にまで意識が至らず、結果的にベンダーに言われるがままにツールを導入して局所的な業務効率化で終わってしまうケースが多く見られます。一方で現場側にも、既存業務を大きく変えることへの不安や抵抗感があります。その結果、DXと言いながらも、単なる効率化にとどまるケースが多いと感じています」
もちろん、デジタル化/データ活用に失敗している企業ばかりではない。常盤木氏がDXを支援する全国の中堅・中小企業の中には成果を挙げている企業も多いという。では、うまくいかない企業には何が足りないのか。原因は幾つか考えられるが、常盤木氏は一例としてBI(Business Intelligence)ツールに注目する。
「BIツールを導入する目的は、ビジネスの意思決定をすることにあります。現場の従業員がツールの画面にくぎ付けになるのでは本末転倒です。画面を見なければならない頻度を減らし、その上で正確で迅速な意思決定を可能にする。その結果として、例えば従業員の残業を抑止したり有給を取得したりしやすくするといったことがBIツール導入の本来の目的でしょう。このような『目的ドリブンな分析』ができているかどうかが、DXの成否を分けると考えます」
AIの進化により広がるデータ活用の可能性
データ活用を考える上で、ツールの使い方以外で課題になるのは「データをどう整理するか」だ。データ自体は社内にあっても、BIツールやAIで判断に使える形に整理されていなければ活用は進まない。常盤木氏も、「これまで中堅・中小企業の間でBIがなかなか普及しなかった最大の理由は、BIツールで分析するためのデータがそもそも社内に存在しなかったことにあります」とその実態を語る。
ただしこうした状況は、近年におけるAI関連技術の急速な進化で変わりつつあるという。
「これまでは、従業員が業務システムに入力するデータの質や粒度が個人や部門ごとにばらばらだったので、それらをBIツールで集約し、分析するのが困難でした。しかし、生成AIなど高性能なAIをうまく活用すれば、ばらばらなデータを自律的に整形したり構造化したりできます。そうすればデータ集計のハードルは一気に下がります」
また、AIを日常生活の中で当たり前のように使いこなしている従業員(常盤木氏は「AIネイティブ世代」と表現した)の台頭も企業にとって追い風となる。AIネイティブ世代は「自分や同僚の雇用がAIによって脅かされるかもしれない」という懸念に縛られることなく、AIを業務課題の解決手段として自然に扱えると常盤木氏は評価する。
「これまでのIT化の延長線上で物事を考えるのをやめて、AIを使った新たな発想に基づくデータ活用に乗り出すべきです。これまでのようにアプリケーションの実装方法についてあれこれ考える時間を減らして、その代わりにAIを使って事業成長により資するデータ活用を実現する手段について議論する時間を増やすべきでしょう」
AIになじみがない従業員に「AIでここまでのことが可能になっている」という実態を広く知らしめるために、AI勉強会のような場を設けるのも有効だという。本質的なデータ活用の議論を深めるためには、部門を横断した全社レベルでの議論の場を設けることも欠かせないと同氏は力説する。
「各部門内に閉じたデータ活用の議論をしても、あまり意味はありません。全社レベルで業務フローを俯瞰(ふかん)して、どのプロセスがボトルネックになっているのか、それによって他のプロセスにどのような影響が及んでいるのか、経営指標にはどれだけの影響があるのかといった実態を可視化する必要があります」
特に、業務フローの中でそれぞれ上流と下流に位置し、日頃は互いのことをほとんど意識することがない部門同士でこそ、改めてそれぞれのデータを突き合わせて、互いの関連性と業務全体に与える影響を定量的に可視化する必要があると同氏は強調する。
データ活用の仕組みを構築する際におさえておくべきポイント
ここまでデータ活用やBI導入の目的から、AIによる可能性などについて説明してきた。ここで視点を実務寄りに移し、データ活用の仕組みを構築する際に注意すべき点を聞いた。
常盤木氏は、社内のデータガバナンスが確立されていない中堅・中小企業も多いため、まずはデータ管理の基盤やルールを作ることから始めるべきだという。
具体的には、それまで部門や個人ごとにばらばらの場所に保管していたデータを、全社で統一された保管場所で一元管理するようルールと体制を整える。その上で、これらのデータに対して全文検索をできる仕組みを導入し、「何かについて調べたり、情報を探したりしたいときには、この場所で必ず見つかる」という状況を作り出す。これを実施するだけでも、それまで仕事で必要な情報を探すために従業員が日々費やしていた時間を大幅に削減できると常盤木氏は説明する。
データを集めることができたら、次はデータ運用のポリシーやルールを定める。例えばデータを保管する際のディレクトリ構造や、ファイルの命名規約、各種IDの採番ルールなどを定め、従業員がこれを順守するよう社内に周知徹底する。
改めて言うまでもないが、従業員が生成AIを会社に無断で利用することで機密情報漏えいリスクが生じる「シャドーAI」の問題が顕在化している。こうしたリスクを未然に回避するために、AIやBIツールなどの仕組みを従業員に提供する前に、ガバナンスについてしっかり議論し、社内ルールを定めるとともに、ガバナンスについて責任を持つ部門を定めておくことが重要だ。
一方で、ルールやガバナンスを一方的に現場に押し付けるだけでは、従業員はリスクを回避してAIやBIツールを利用しなくなってしまう。AIやBIツールを通じたデータ活用に自ら積極的に取り組んでくれるようにするためには、より現場の利便性に配慮した仕組みが求められると常盤木氏は強調する。同氏は一例として「プル型ではなくプッシュ型のデータ活用」を提案する。
「BIツールを導入する最終的な目的は、従業員を“システムの画面”から解放することにあります。そのためには、従業員が必要なデータを取得するために自らBIの画面を見に行く『プル型』ではなく、システム側から適宜通知が上がってくる『プッシュ型』の仕組みの方が、ニーズに即しています。結果的に、迅速な意思決定にも貢献できるでしょう」
既存業務の延長ではなく、判断と行動を変える設計へ
ポリシーやルールを整備し、徹底する。そして、データ活用が進みやすい仕組みを構築する。こうした取り組みを進める上でIT部門にはどんな立ち回りが求められるのか。常盤木氏が重視するのは「攻めの姿勢」だ。
「データ活用を含むDXは、新たに利益を生み出すための“攻め”の施策です。一方、できるだけミスを避けてシステムの安定的な運用を維持するといった取り組みは“守り”の施策です。IT部門が守りの施策を重視するのであれば、そこにカルチャーギャップが生まれてしまいます」
IT部門がデータ活用やDXを全て請け負うと、現場の業務課題との距離が生まれやすいというのが常盤木氏の見解だ。そのため同氏は、IT部門と業務部門との間に立って、コミュニケーションを円滑に運んでくれる仲介役を挟むことを勧める。
「そうした仲介役はざっくり言うと『愛嬌があってノリが良い人』が向いています。具体的には、IT部門や事業部門といった区切りをあまり気にせず、それぞれの立場を理解しながら、深刻になりすぎずに話を進められる人です。そうした人物がいれば、IT部門と業務現場との間の溝を埋められます」
また、そうした仲介役を中心に、既存の運用設計に捉われずに業務改善について部門横断で話し合う場を定期的に設けるといったことも有効だという。部門横断型の業務改善検討の場を設けることで、それぞれの部門に課せられた既存のKPIの枠に捉われず、全社的な視点に立った建設的な改善アイデアを現場から吸い上げることが可能になるからだ。これは裏を返せば、横断的な取り組みでなければ本来の意味でのDXは実現しないということでもある。
常盤木氏は、従来のやり方に改善を加えるだけの方法ではせいぜい業務効率が数%改善する程度の成果しか上がらず、抜本的な改革は難しいと指摘する。
「業務効率の向上は確かに改善ではありますが、ただでさえ人手不足で、現場はぎりぎりの人数でオペレーションを回しているのに、その程度の効果しか上げられない施策に貴重な人手と時間を割いていては、結局トータルでは生産性は低下してしまいます。もう従来型のアプローチでは利益が出ないことは明らかなのですから、AIを活用した全く新たな発想のデータ活用に思い切って乗り出すべきです」
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