導入済みPCのOSという観点だけでなく、もう少し視点を広げた場合にはどうだろうか。ビジネス用途のIT活用においては「業務システムのクラウド移行」が徐々に進みつつある。クラウド環境で提供されるアプリケーション(SaaS)やフレームワーク(PaaS)にはブラウザで利用するものが多い。そのため、「業務システムのクラウド移行が進めば、端末側はブラウザだけで事足りるようになるのでは」といった意見もある。
さらに、昨今ではPCだけでなく、ウェアラブル端末(スマートグラスなど)やドローンのビジネス活用事例も登場してきている。そこで、年商500億円未満の企業を対象にさまざまな端末環境の活用意向について尋ねた結果が以下のグラフである。
念のため、選択肢に登場する各用語の定義を記載しておく。
デスクトップ仮想化
通常は端末側で動作するOSやアプリケーションをサーバ側で動作させ、端末とサーバの間で画面表示や、キー操作のみをやりとりすることで端末側にはOSやアプリケーションの導入が不要となる技術。
ウェアラブル端末
眼鏡、リストバンド、グローブなどのように身に着けることが可能な形状を持ち、スマートデバイスと同等の機能を持った端末。
ドローン
カメラを備え、遠隔操作や自律動作によって飛行する能力を持った機器。
「クラウドの普及により、PCなどの端末側の環境は重要でなくなる」の回答割合は7.9%にとどまっている。つまり、多くのユーザー企業は「業務システムのクラウド移行が端末側の重要性をすぐに下げてしまうわけではない」と考えていることが分かる。
だが、その一方でデスクトップ仮想化、ウェアラブル端末、ドローンといった広い視点での端末環境への活用意向も4〜9%程度にとどまっている。つまり、「業務システムのクラウド移行が進んだとしても端末側の重要性は変わらない。ただし、新たな端末環境の活用はまだ黎明(れいめい)期である」というのがビジネス用途におけるクライアント端末環境の現状ということになる。
冒頭でも触れたように、こうした現状に変化をもたらす契機となるのが「IoT」である。「IoT」は昨今最も多く目にするIT関連用語の1つであり、その指し示す内容もさまざまだ。本稿では「IoT」を以下のように定義している。
センサー、スマートデバイス、ドローンなどを通じて得たデータをシステム側で収集/分析することにより、機器やシステム同士が双方向または自律的に動作し、新たな付加価値や全体の効率化および省エネ化などを実現しようとする取り組み。
ここで重要なのが「機器やシステム同士が双方向または自律的に動作し、新たな付加価値や全体の効率化および省エネ化などを実現しようとする」という点だ。例えば、小売店の店内にカメラもしくはビーコンを設置し、顧客の動線を把握/分析するという事例を考えてみよう。カメラおよびビーコンが上記の定義における「センサー」に該当する。
「顧客が店内をどのように歩き回るか」をセンサーで把握し、その情報を基に商品の配置を最適化するわけだ。しかし、小売店の取り組みはそこで終わりではない。センサーから得られたデータを分析した結果、時間帯によって商品配置を変える必要が生じる可能性もある。
そのため、在庫管理システムを利用するクライアント端末上に「○○時になったら△△の商品を**の棚に並べる」といった指示を表示するなどの仕組みが必要となる。定義の中に「機器」だけでなく、「システム」という単語が含まれているのはこうした理由からだ。
「IoT」というと、「Bluetoothなどの無線通信によって測った温度をスマートフォンに転送できる体温計」などのようにデバイスがネットワークに接続したモノが具体例として紹介されることが多い。だが、大切なのは「それによってどのような付加価値を生み出すのか」である。体温計の例で言えば、測った体温をデータ分析して健康面の助言を行うサービス」などが考えられる。
小売店の場合には「タイムリーな商品配置による在庫回転率の向上」が新たな付加価値に相当する。それを実現するためには単にセンサーがネットワークに接続されるだけでなく、そこで得られたデータを分析し、業務担当者が利用するクライアント端末環境に具体的な指示を明示することが重要となってくるわけだ。
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