結局「HRテック」とは何なのか? 機能やトレンドを総復習(3/4 ページ)
近年、関心を集めている「HRテック」の分野。キーワードとして一般に浸透してきた印象だが、具体的に何を指すのだろうか。
HRテックの最新トレンド
近年の国内におけるトレンドは、人事関連システムのクラウド化であろう。しかし加藤氏は「国内企業は2000年代半ばにオンプレミス型のシステムを導入して以降、ほとんどの企業がそれを利用し続けている。クラウド型(SaaS)での良質なサービスが2013年頃から登場し、その後続々と機能進化を続けているものの、まだ十数年前のシステムを使い続けていては、生産性向上が進まずに世界におくれをとる」と警鐘を鳴らす。一方、グローバルでは多くの機能をフルパッケージ化した「Workday」をはじめ、SaaS型の人事システムが多数登場している。人事関連システムにおけるクラウド化推進は待ったなしの状況のようだ。
以下では、クラウド型の人事関連システムについて「採用管理」「タレントマネジメント」「ラーニングマネジメント」「エンゲージメント」「ピープルアンリティクス」のカテゴリーごとに最新のトレンドを紹介する。
採用管理のトレンド
従来の採用管理システムは、面接や応募の進捗管理の機能を主要な機能として備えていた。しかし、現在は応募者とのリレーションを緊密にするCRM(Candidate Relationship Management)や、リファーラル(友人紹介)促進機能などが追加されている。これが機能におけるトレンドだ。またその他にも、過去の応募データから適任者を発見する機能や、あらかじめ業務のシミュレーションをオンライン体で験させることで適性を評価する仕組み、あるいは個々のキャリアや能力、スキルの特徴に応じてカスタマイズされたプログラムを提供するためのオンボーディング機能も強化されている。
もう1つのトレンドは、採用活動に必要なプロセスを自動化するプロダクトの増加だ。例えば、応募者などのデータを常にアップデートさせるための自動メンテナンスや、応募者の自動スクリーニング、LinkedInのデータから適格者を自動的に発見するサービス他、応募者とのコミュニケーションを行うチャットボットといったサービスが挙げられる。
米国では2017年の半ばからこの種のプロダクトが登場しているという。Googleも、新人材採用支援サービス「Hire」を発表し、HRテックに参入してきた。このサービスが提供されているのは現時点で米国に限られているが、大量の応募者データが活用されるようになれば他ベンダーにとって脅威になりそうだ。
タレントマネジメントのトレンド
日本はタレントマネジメントシステム導入が極端に遅れている国の1つだと加藤氏は話す。例えば、米国では2012から13年にかけてタレントマネジメントシステムの活用が既に始まっている。一方、日本では最近になって、同システムを導入し始めた企業が出てきたという状況だ。もちろん、データがなければピープルアナリティクスも成り立たない。まずはシステム導入とデータ整備が必要というのが現状のようだ。
また米国では、従業員のパフォーマンスマネジメントの領域で「リアルタイムフィードバック」と呼ばれる機能が注目されている。数週間単位、あるいは月単位で従業員の目標設定や評価が行える機能だ。従業員の在籍期間が短い米国では、年単位のサイクルで個人の目標設定やその評価を行う仕組みはニーズにそぐわない。そうした課題に応えた機能だという。また、短期間で目標設定や評価のサイクルを回すことで、個人の承認欲求を満たすことが期待できるという。
ラーニングマネジメントシステムのトレンド
ラーニングマネジメントシステムのカテゴリーでは、スマートフォンで利用できるラーニングシステムが増加中だ。従来のEラーニングシステムが利用できなかった「ノンデスクトップワーカー」――つまり店舗や工場などで働く従業員を考慮したシステムだという。
また従業員ごとにスキルの測定と改善提案を行う「マイクロラーニング」もトレンドだ。これはAI技術を利用することで、今の仕事を行うに当たって、どのようなスキルのギャップがあるかを分析し、個人向けの研修プランを立てられるというもの。その他、VRによるトレーニングシステムも1つのトレンドになっていると加藤氏は話す。
エンゲージメントシステムのトレンド
日本で現在最も注目されているのが「エンゲージメントシステム」のカテゴリーである。加藤氏によれば、このカテゴリーでは「パルスサーベイ」と「個人間のレコグニション」の機能がトレンドだ。
パルスサーベイとは、従業員の状況を調査できる仕組みである。少ない質問数で、従業員が簡単に回答できるよう配慮したアンケートを2週間や1カ月といった短いスパンで行い、従業員満足度調査でだけでは分からない個人の状況を確認できる。
また「個人間のレコグニション」は、上司の評価や数字で表れる成績以外に、従業員同士が互いに評価し合える仕組みのことだ。例えば従業員が手持ちのポイントを、「よい仕事をした」と思う同僚にメッセージ付きで贈れる。付与されたポイントはボーナスとして給料に加算することも可能だ。これによって、従業員が褒められる回数や従業員の行動に対するリアクションの回数を増やし、モチベーションを上げる。また、従業員間のコミュニケーション機会も増やせるという。
ピープルアナリティクスのトレンド
加藤氏は、米国では人事にデータサイエンティスト(ピープルサイエンティスト)を配置するのがトレンドになっていると話す。同氏の独自調査によれば、LinkedInで「ピープルサイエンティスト」と名乗る人々は実に79万6000人にも上るという。「約1年前は19万8000人だった」という話からも分かるように、1年で4倍のピープルサイエンティストが生まれているという。
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