組織コミュニケーションの実態が明らかに ビジネスチャットがイマイチ“盛り上がらない”ワケ
キーマンズネット読者1329人を対象に、組織におけるコミュニケーションスタイルについて尋ねた。ビジネスチャットが登場して久しいが、それらの利用はイマイチ盛り上がっていない。その理由とは。
キーマンズネット編集部では2020年に注目すべきトピックスとして「セキュリティ」「クラウド活用」「情報共有」「DX人材」「AI導入」「RPA」「働き方改革」の7つのトピックスを抽出し、読者調査を実施した(実施期間:2019年11月22日〜12月20日、有効回答数1329件)。企業における2020年のIT投資意向と併せて調査結果を全8回でお届けする。
第3回のテーマは「情報共有」だ。
調査サマリー
- 組織の主なコミュニケーション方法は「メールが中心」で63.5%
- 64.1%が「ビジネスチャットは組織のメインコミュニケーションツールにならない」と回答
- チャットツール浸透の障壁となるのは「企業文化」
国内におけるメッセージツールの歴史を振り返ると、1997年頃から「AOL Instant Messenger」が使われ始め、その後「MSN Messenger Service」「Yahoo!メッセンジャー」と続き、徐々にリアルタイムコミュニケーションツールの利用が広まった。これらは初め、個人がプライベートなコミュニケーションをとるツールとして普及した。
2003年には「Skype」が登場。その頃から企業は業務にリアルタイムコミュニケーションツールを取り入れ始めた。やがてビジネスコミュニケーションに「チャット」という選択肢が浸透し、ここ数年で組織におけるビジネスチャットツールの活用が急速に進んだ。普及と共にツールも進化を重ね、今では多くが音声通話やファイルの共有などの機能を備える。
企業におけるコミュニケーションスタイルは電話からメールへ、そしてチャットツールへと変わりつつある。そのような中、組織におけるコミュニケーション方法、情報共有方法はどう変化したのだろうか。アンケート調査から実態を探る。
チャットが組織のコミュニケーションの中心にならないワケ
まず、読者に対して勤務先でのビジネスコミュニケーションスタイルについて尋ねたところ、「メールが中心」が圧倒的に多く63.5%、次いで「電話、メールとチャットツールが同割合」が15.6%、「電話が中心」が13.6%で、「チャットが中心」と回答したのはわずか6.5%だった。新しいツールを活用したワークスタイル変革による組織内外でのコラボレーション推進が叫ばれる一方で、多くの企業がメールに依存している実態がうかがえた。
次に、「チャットツールが中心」「電話、メールとチャットツールが同割合」と回答した層に対してチャットツールの利用状況を尋ねた。その結果、「全社統一のツールを利用している」が63.3%、「複数のツールを併用している」が35.4%となった。
「複数のツールを併用している」と回答した層に対して利用しているツールの数について尋ねたところ、ボリュームゾーンは「2〜3つ」で90.4%、次いで「4つ」が3.8%となった。中には「5つ以上」と回答した層も3.8%存在した。複数のツールを併用する理由として、「社内外でツールを使い分けている」「利用するシーンや機能によってツールを使い分けている」といった事情や、「Office 365」や「G Suite」などオフィスツールに備わるチャットツールに加えて組織統一のツールを導入しているなどの可能性が考えられる。
本調査で、ビジネスコミュニケーションはメールによるやりとりが主だという結果が得られたが、チャットツールが企業のメインコミュニケーションツールに置き換わる可能性はあるのだろうか。そこを探るために、「今後ビジネスチャットツールを社内のメインコミュニケーションツールにする計画があるかどうか」を尋ねたところ、「ある」と回答したのは半数にも満たず35.9%、64.1%が「ない」と回答した。
即時伝達性や手軽にメッセージを送信、返信できる、複数人と同時に会話ができるといった利点からビジネスチャットツールの利用が広まっているが、この調査結果から勘案すると、チャットが完全に組織に定着するまでにはまだ時間がかかりそうだ。
1329人が答えた勤務先のコミュニケーション課題
ここからは、自由回答形式で読者に尋ねた結果、得られたフリーコメントを紹介しよう。
ビジネスチャットツールを社内のメインコミュニケーションツールとする計画、またはチャットツールを導入する計画が「ない」と回答した層に対してその理由を尋ねると以下のようなコメントが寄せられた。
フリーコメントを見ると、チャットツールをコミュニケーションの中心に置かない理由として「組織文化に合わない」「従業員のITリテラシーの課題」といった回答がコメントの多くを占めた。組織内のコミュニケーションを変えるには、単にツールの導入だけでは難しく、どう組織の文化をシフトさせるかや従業員教育が課題になりそうだ。
- 導入のハードルが高い(従業員への利用方法の説明、ガイドラインの策定など)
- ITリテラシーの課題
- 電話または直接話した方が伝わるから
- メール文化をチャット文化に変えるのが困難
- セキュリティ面の課題が不透明
- 社内文化に合わず浸透しないと思われる
- 電話とメールで不便を感じていないから
- サブとしてなら理解できるが、年配の方々からの抵抗が激しい。
- コミュニケーションが希薄になる
- メンバー間の距離が近いので普通に話す
- 記録に残す必要がある内容はメールで文字化している
- チャットツールだと履歴管理(雑談、業務連絡、決定事項などの分離分類)が難しい
最後に、アンケート回答者全員に対して勤務先のビジネスコミュニケーションの課題を尋ねた。寄せられた回答を見ると、こちらも組織文化に関わる回答が多く「対面でのコミュニケーションが定着している」といった旨の回答だ目立った。次に、チャットツールを利用していても「ルームが乱立する」「音声またはビデオ通話のときに音声や画像が劣化する」といったチャットツールの運用、またはそれ自体に対する不満などが挙げられた。
- 従業員の性格や業務の性質に応じたコミュニケーション手段を用意し、運用すること
- 結果的にどんなツールが提供されても電話に頼る社員が多く、コミュニケーションツールが浸透しない。誰でも使える電話に落ち着いてしまう。エビデンスが残らないため、社員間で言った言わないで時間が無駄に時間が費やされる
- メールが経営者に盗聴されており、本音のコミュニケーションができない
- 電話が多く取り次ぎが面倒
- 管理職が積極的にチャットツールを使いたがらない
- 画面共有のコミュニケーションツールで打ち合わせをしている際に、遠距離と結んだ会議だと音声や画像が劣化するときがある
- 細かい仕様やニュアンスを伝えるには対面でのコミュニケーションが必要
- チャットツールを導入しているが、ごく一部の社員しか使ってくれない
- face to faceの文化の残存
- チャットルームが乱立し、何の目的のチャットか分からなくなる
コミュニケーションスタイルを変えるには、単にツールやコミュニケーション手法を変えるのではなく、組織の考え方や古くから根付いた文化を根本から変える必要がありそうだ。
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