人事・人材管理システムの利用状況(2020年)/後編
働き方改革の文脈で注目が集まっている「従業員満足度」。読者アンケートからは実施側の経営層と受け取り手の従業員間で、大きな溝があることが分かった。
キーマンズネット編集部は、2020年2月25日〜3月6日にわたり「人事・人材管理の取り組み」に関する調査として人事・人材管理システムの「導入状況」や「導入形態」「満足度」などについてアンケート調査を実施した。
今回は「従業員満足度(ES:Employee Satisfaction)」向上のための「取り組み実施有無」や「取り組み内容」「今後期待する取り組み」など、企業におけるES向上への取り組み状況を把握するための質問を中心に展開した。2社に1社の割合でES向上に取り組んでいるものの、経営側と従業員間でギャップがあることが分かった。
前編では全体の約7割が人事や人材管理にシステムを導入していることに触れ、今後システムに操作性や安定性だけでなく、リモートワークなど柔軟な働き方に対応した機能が求められていることを紹介した。
今回取り上げるのは、“生産性の向上”や“優秀な人材の確保”といったトピックとともに注目が集まっている「従業員満足度」についてだ。従業員満足度の向上に向けて、今、企業がどのような取り組みをどこまで進めているのか。アンケート結果を紹介したい。
「従業員満足度」の取り組み、48.6%が実施中
全回答者(107人)に、従業員満足度向上のための取り組みを実施しているかを尋ねたところ「実施している」は48.6%と半数近い結果となった(図1)。
企業が取り組んでいる施策を知るため、前項で取り組みを「実施している」とした回答者に自社の施策内容を聞いたところ「社内コミュニケーションの促進」67.3%、「職場環境の整備」57.7%、「マネジメント、評価体制の可視化(1on1面談、360度評価など)」46.2%などが上位となった(図2-1)。
次に、現在ES向上のための取り組みを「実施していない」と答えた回答者を対象にどういった取り組みを実施してほしいかを聞いたところ、前述の実施されている取り組みとは乖離(かいり)した結果となった。また、実施されているES向上施策への不満や改善点をフリーコメントで聞いたところ、経営と現場間で大きな溝が生まれていることも分かった。寄せられた声を見ていきたい。
「上位者からの押し付け」……経営と現場のギャップ、生の声
現在ES向上のための取り組みを「実施していない」と回答した方に、今後どのような取り組みを実施してほしいかを聞いたところ「職場環境の整備」47.3%、「業務負荷の最適化」41.8%、「福利厚生制度の拡充」40.0%などが挙げられた(図2-2)。
実施/未実施の回答結果を比較してみると、現状取り組みの進むES向上施策は、組織のコラボレーションに関するものが多い。メンバー間や上司とのコミュニケーションを活性化させることによって、仕事の進めやすさや承認感を得るなど“心理的なモチベーション”を向上させることで、満足度の向上を図ろうとしているようだ。
一方で、実施を希望している施策は、ワークライフバランスを実現する就業規則の変更や勤務体系の新設など、就業環境の改善や福利厚生の拡充といった“物理的なモチベーション”の設置を求める回答が多かった。
ここまでに垣間見えたギャップは、実施企業の従業員に聞いたES向上施策への不満や改善点とも合致している。フリーコメントでは、「上位者からの押し付けばかり」「改善を提案する側と受ける側の認識があっていない」など、施策が従業員の現状課題と乖離している点に多くの不満が寄せられた。
さらに、「従業員満足度実態の収集がない」「社員の話を聞かない、聞くだけは聞くが経営や改善に反映されない」など、“従業員”の満足度向上を目的とした施策にもかかわらず、従業員の意見が収集されなかったり反映されなかったりしていることが指摘された。
相次ぐ有能社員の人材流出と採用難
最後に、全体の回答者に対して人事面の現状課題をフリーコメントで聞いた。最も多く回答が寄せられたのは、人材不足や人材流出に関する課題だ。
回答として目立ったのは「退職者が多い、特に有意の人材」「中途退職が多い。中途採用も含めて応募数が目標に届かない」と、優秀な人材の確保に苦労している声だ。その他「十分な教育環境が整備されていない、育成できる人材が少ない」など、育成体制が十分でなく、戦力化に時間が掛かっていることも多く指摘されていた。
では、どうすればいいのか。人材流出を食い止め、優秀な人材を獲得する“採用力”を高めるために必要な改善策として寄せられた回答は「タレント管理による最適配置」「評価の一貫性・平等性」だ。人事・人材管理システムを活用して従業員一人一人の経歴やスキル、特性などを一元管理し組織横断的に最適配置していくことで、全体最適はもちろん、個人の能力が最大限発揮できる可能性も見込める。そうすれば結果として、従業員のストレス軽減や評価アップにつながるだろう。
能力に応じた適正評価はもちろん、個人の適性や資質、能力に応じた人材開発・育成といった観点でもタレント管理は重要だ。少子高齢化の波が押し寄せる日本にとって“人材不足”は多くの企業が直面する経営課題で、人事・人材管理面での環境整備は今後早期に検討すべき項目となりそうだ。
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