経団連調査「テレワーク実施率97.8%」の一方で、一般企業が悩むテレワークの課題
緊急事態宣言発令からおよそ2週間が経過し、企業のテレワーク事情はどう変化したのか。経団連の調査では97.8%の企業がテレワークを実施していると回答した一方で、紙やはんこ文化、組織づくりの課題も明らかとなった。テレワークに関する調査ニュースをまとめた。
新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の流行に伴う緊急事態宣言が2020年4月7日に発効されてから2週間が経過した。テレワークや時差出勤の推奨、対面の打ち合わせ制限などが求められ、企業の働き方は実際にどのように変化したのだろうか。日本経済団体連合会(以下、経団連)は同年4月21日、独自調査の結果97.8%の企業がテレワークに取り組んでいると発表した。民間企業によるテレワーク関連調査の結果では、テレワーク推奨企業の課題も明らかとなった。本稿では、テレワークに関するニュース4本をまとめて紹介する。
テレワークに関する調査のニュース
- 経団連調査「テレワーク実施」97.8% しかし対象社員は限定的
- IT業界のテレワーク導入率は84.5%、紙業務とセキュリティルールの見直しが先決
- 緊急事態宣言後も稟議申請・決裁は31.4%が「紙」 出社して提出するケースも
- テレワークの長期化で組織の士気低下の可能性 対処法とは
経団連調査「テレワーク実施」97.8% しかし対象社員は限定的
経団連は会員企業を対象に、新型コロナウイルス感染症対策への取り組み状況を調査した「緊急事態宣言の発令に伴う新型コロナウイルス感染症拡大防止策 各社の対応に関するフォローアップ調査」(2020年4月14日〜4月17日に実施、406社回答)の調査結果を公表した。同調査結果では97.8%がテレワークに取り組んでいると回答した。一方、テレワークを実施している従業員の割合を尋ねる設問では、金融、電力、医薬や生活必需サービスなどの事業を除き、「従業員の8割以上がテレワークを実施している」とした回答は36.1%、7割以上8割未満が16.3%で、7割以上とした企業は52.4%にとどまった。
IT業界のテレワーク導入率は84.5%、紙業務とセキュリティルールの見直しが先決
コラボレーションツールを提供するヌーラボは2020年4月22日、同社が提供するプロジェクト管理ツール「Backlog」ユーザーを中心とした580人を対象に実施した「第2回新型コロナウイルス感染症に伴ったテレワークの導入に関する調査」の調査結果を公表した。同調査結果によると、緊急事態宣言以降IT業界のテレワーク導入率は84.5%まで上昇した。2020年2月時点では、テレワークの許可が下りていても実際にテレワーク制度を活用している人の割合は57.9%にとどまっていたが、3月には76.9%、4月には91.6%と利用率が急激に増加していることが分かった。
また、緊急事態宣言の発令後は、非IT業界の企業でもテレワークの導入が76.3%まで増加したという。また、企業のテレワーク対応として挙げられた回答は「業務見直し」と「テレワーク対象社員の拡大」が目立った。「業務見直し」については、紙や押印が必要な業務の簡素化やセキュリティルールの見直しなどがあった。
緊急事態宣言後も稟議申請・決裁は31.4%が「紙」 出社して提出するケースも
ワークフローやチームコラボレーションツールを提供するエイトレッドは2020年4月20日、テレワーク導入企業における稟議申請・決裁の実態を把握するために実施したアンケート調査結果(2020年4月15日〜4月16日に実施、テレワーク導入企業で働く従業員324人が回答)を公表した。調査結果によると、システムを利用した申請・決裁という回答が最も多く43.5%となった一方で、テレワーク導入企業でも稟議の申請・決裁は紙媒体で実施しているという回答が31.2%で2番目に多い回答となった。さらに、紙媒体で稟議の申請・決裁をしている回答者の39.6%は「そもそも在宅では稟議の申請・決裁ができない」と回答したという。自由回答では「押印文化が根強くオンライン化できない」「リモートワークで資料を作成した上で出社した際に印刷して提出している。数日以上かかることもある」という声も寄せられた。
テレワークの長期化で組織の士気低下の可能性 対処法とは
人材サービスを提供するパーソルプロセス&テクノロジーは2020年4月21日、人材サービスや組織改善サービスを提供するアトラエと共同で、テレワークと従業員の組織に対するエンゲージメントの関係についての分析結果を公表した。調査方法はパーソルプロセス&テクノロジー内で働き方改革を専門とする組織「ワークスイッチコンサルティング」からテレワーク実施従業員を約20人を選出し、2019年10月に人事異動があった組織と人事異動がなかった組織の2グループを対象に、2019年10月〜2020年3月の期間でエンゲージメント調査サービス「wevox」でのスコアを分析した。調査結果によると、テレワークを長期継続したところチームワークや組織への共感度合いが悪化する場合があること、テレワークと異動が重なると、エンゲージメント率が悪化する場合があることが分かった。同社によると、この結果は、長期間のテレワークで組織が直接顔を合わせなくなる時期が続き、帰属意識や貢献意識が弱まってしまう可能性があることを示唆しているという。また、エンゲージメント向上の取り組みとしては、オンラインでの1on1の実施、組織方針の明確化と共有が有効だとしている。
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