iPaaS(Integration Platform as a Service)の利用状況(2022)/後編
広範囲な業務の自動化を目指す「ハイパーオートメーション」の文脈でiPaaS(Integration Platform as a Service)の有用性がうたわれている。一方で、「エンドユーザーコンピューティングという地雷の再来ではないか」という不安を口にする人もいる。
キーマンズネットは2022年9月9〜29日にわたり、「iPaaS(Integration Platform as a Service)の利用状況」に関するアンケートを実施した。iPaaSは“Integration Platform as a Service”の略称。APIを利用して複数のシステムをまたいだプロセスやデータの連携を実現するクラウドサービスだ。製品によってはローコードで連携プロセスを開発できるため、内製化によるコストや開発期間の削減も期待される。
近年は、業務自動化の文脈でRPAを補完するとして紹介されることもあるiPaaS。前編ではiPaaSの導入率や普及の可能性を紹介したが、後編となる本稿は業務自動化ツールとしてのニーズや活用時の懸念を明らかにする。一部の企業はRPAを補完するツールとして認識している一方で、「エンドユーザーコンピューティングという地雷の再来ではないか」と感じる人もいるようだ。
「一部しか自動化できない」「自動化プロセスがサイロ化する」業務自動化の課題
まず、自社で業務自動化がどのくらい進んでいるのかを聞いた。「全ての業務を自動化している」(1.7%)、「ほとんどの業務を自動化している」(9.1%)、「一部の業務を自動化している」(51.4%)と、まとめて62.2%が業務の自動化を実施していることが分かった(図1)。特に従業員規模が1000人を超える企業においては約8割が何らかの形で業務を自動化していた。
自動化の手法としては「ワークフローツール」が61.5%、「Excelマクロによる集計」が37.6%、「RPAやAI技術を使った自動化」が28.4%で、APIを利用した「SaaS連携ツール」による自動化は14.7%、スクラッチ開発による自動化は13.8%だった(図1)。N数が少ないので参考値となるが、RPAやAI技術を活用した業務自動化は1001人以上で最も実施率が高かった。
関連して業務自動化の課題も聞いた。最も多かったのは「ツール導入のコストがかかる」(35.8%)、「一部の業務しか自動化できずスケールしない」(31.2%)で、「スキルを持った人材がいない」(31.2%)、「部分最適のツール導入によって自動化のプロセスがサイロ化している」(25.7%)と続いた(図2)。
「ツール導入のコストがかかる」「スキルを持った人材がいない」についてはあらゆるシステム導入で浮上する課題だ。さらに「一部の業務しか自動化できずスケールしない」「部分最適のツール導入によって自動化のプロセスがサイロ化している」という課題が浮上することも、上記で自動化の手法として挙がったワークフローツールやExcelマクロが、それぞれ申請・承認業務やExcel内の定型業務の処理といった一部の用途に特化していることから、不思議ではない。
複数アプリケーションをまたぐ作業を自動化できるRPAも、導入規模が大きくなるほど「エラーが発生して安定稼働できない」「ロボットの開発やメンテナンスに工数が掛かる」といった課題に直面し、横展開につまずくという話をよく聞く。ステップ数が多い業務はシナリオが複雑化してローコードノーコードによる開発が難しくなり、結局は局所的な自動化にとどまるケースも見られる。
こうした業務自動化の課題をふまえ、広範囲な業務の自動化を目指す際に有用だとしてiPaaSを紹介する動きがある。前編で紹介したように、APIを通じて内部的にデータを連携できるiPaaSは、画面UI変更といった外部環境の変化に強く、大量のデータを安定的に連携できる。さらに、自動化シナリオの開発時に「ボタンを押す」「コピーする」といったステップを積み上げてフローを作成するわけではないので、メンテナンス性が高いとも言われている。
ただ、iPaaSはAPIを持たない基幹システムの連携に向かず、CSVやExcelなどのファイル連携機能を使うといった一工夫が必要になる。日本企業においては米国のようにはクラウドサービスの利用が進まず、既存オンプレミスシステムがAPIを持たないケースも多々あるため、RPAその他の自動化ツールやiPaaSを適材適所に活用して全社的な業務の自動化を実現しようというのが一部のベンダーやアナリストの主張だ。
実際に、iPaaSの導入目的として「RPAの補完」とした回答もあった(図3)。
エンドユーザーコンピューティングという地雷の再来か
業務自動化による全社最適の手段として押し出されているiPaaS。今後、iPaaSを選定・活用する際に重視するポイントや活用に向けての懸念点を調査した。
選定・活用時に重視するポイントについては「導入費用が安価」(65.1%)、「セキュリティ機能が充実している」(39.4%)、「システムを連携させるコネクターが豊富」(33.1%)が上位に挙がった。前年調査と同様に、複数システムを連携させるためのコネクターの数といった機能面よりも、まずは導入コストやセキュリティ面に関心が集まっていることが分かる(図4)。
iPaaSへの不安要素についてはフリーコメントで回答を募ったが、「セキュリティ・ガバナンス」や「保守性」「抵抗勢力」を懸念する声が集まった。
<セキュリティ・ガバナンスに関する懸念>
- 結局システムフローがスパゲティ化して属人化のスパイラルに陥る
- 管理の行き届かないプロセスが不安要因にならないか
- 20年ほど前のEUCが流行したころと同じで、プロセスが情報システム部門の管理から外れる他、内部統制上問題のあるシステムやツールが生まれる懸念がある。
- 自分や担当者が退職した際にきちんと引継ぎできるかどうかが心配
- 野良プロセスや野良APIが作成されるのではないか
- エンドユーザーコンピューティングという地雷の再来ではないか
- APIの乱立によって統制が阻害される
- ネットワーク、認証などセキュリティ面での問題がないか心配
- 「iPaaSがあるから」という安心感からデータの点在化がさらに酷くなる
- シャドー開発の危惧がある
<開発・保守・メンテナンスの工数に関する懸念>
- iPaaSの導入時に業務フロー変更の必要性が出てくる
- 自動化対象システムの変更に伴うフロー変更の必要性と保守性が不安
- 扱える人が誰もいない
- 既存システム更新時にトラブルが発生するのではないか
- APIなどのエラーをどのように早期発見するのか
- オンプレミスのサーバ更新が面倒にならないか不安がある
<コストに関する懸念>
- 費用対効果を体感できない
- 維持管理費とバージョンアップ時の費用がかさむ恐れがある
<機能に関する懸念>
- 想定通りに連携ができるのかどうか不安がある
- レガシーシステムが対応できるかどうか不安が残る
- エンドユーザーの利便性がどの程度向上されるのかが疑問である
- iPaaSの自動化対象範囲が、自社に適合するのかどうかが疑問である
- 自社制御システムはインターネットからファイアウォールで切り離されているので連携できない
<抵抗勢力など組織の理解関する懸念>
- 経営層の無理解がある
- iPaaSの導入に対して日本の経営者が懐疑的なことが多い
なお、こうした課題を生まず、iPaaSをRPAその他の自動化ツールと組み合わせて全体最適を目指すためには、組織体制の整備も必要になる。業務自動化プロジェクトの主体を聞いた質問では、「情報システム部門」とする回答者が37.6.%、「ユーザー部門と情報システム部門」が23.9%、「部門ごとに実施しているため分からない」が22.9%、「ユーザー部門」主体が12.8%と続いた。「自動化プロジェクトの専任部門(CoE)」の設置率は4.6%と低い数字にとどまった(図5)。
全社的な業務自動化プロジェクトを継続的かつスピーディーに推進するためには、組織を横断してツールの管理や整備やガバナンスの確保、KPIの設定や効果の評価、リソースの配分などを担う組織が必要だ。情報システム部門がプロジェクトの主体を担うような企業では、既存業務を抱えた人材がプロジェクトをどのように進めているのかといったことも気になるポイントだ。キーマンズネットでは読者調査や取材を通じて継続的に追っていく予定だ。
なお、全回答者数175人のうち、情報システム部門が32.0%、営業・販売部門が10.9%、製造・生産部門が19.4%、経営者・経営企画部門が5.1%と続く内訳であった。グラフ内で使用している合計値と合計欄の値が丸め誤差により一致しない場合があるので、事前にご了承いただきたい。
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