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企業がiPaaSを“遠巻きに見る”理由は? 複雑な業務プロセスの「迷宮」に苦しむ企業のリアル【実態調査】iPaaSの利用状況(2023)/前編

SaaSの利用拡大やハイブリッドクラウドの運用が広まる中で、データやシステムをいかに連携するかは企業にとって重大な課題だ。そうした課題を解決する手段の一つであるiPaaSは認知度が上昇する一方で、導入はなかなか進まない。調査結果を基にiPaaS導入の「壁」に迫る。

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 新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の感染拡大によるテレワーク普及を背景として、企業におけるクラウドサービス利用は国内外問わず飛躍的に増加した。それに伴ってアプリケーションの乱立が業務プロセスの複雑化を招くという課題も頻出しており、システムやデータを連携するiPaaS(Integration Platform as a Service)に注目が高まっている。インドのMordor Intelligenceによれば、世界のiPaaS市場は2023年には96億ドルに達し、年平均成長率は35.2%だ。2028年には434億2000万ドルに達すると見込まれている(注)。

 キーマンズネットでは前年に続き「iPaaSの利用状況(2023年)に関する調査」を実施した(実施期間:2023年11月6日〜27日、回答件数:244件)。前編となる本稿では、導入数が増えているSaaSの運用課題や、その解決策の一つとなるiPaaSの認知度や導入率について調査した結果を紹介する。

iPaaSの認知度は上昇 それでも導入に至らない理由とは?

 テレワークの普及や働き方改革を背景として企業におけるSaaS利用は拡大の一途をたどっている。SaaSの利用シーンが増えたことでシステム環境にも変化が生じている。今回実施した調査の結果、SaaSの利用拡大によって企業が抱えている課題が浮かび上がった(図1)。

図1 SaaSの普及によって業務プロセスにおいて抱えている課題
図1 SaaSの普及によって業務プロセスにおいて抱えている課題

 多い順に「基幹システムのデータとSaaSのデータを機動的に連携できない」(41.0%)、「SaaSアプリケーションが乱立して業務プロセスが複雑化している」(31.1%)、「似たような機能を持つSaaSアプリケーションが複数あり、業務プロセスが混乱している」(24.2%)が挙がった。

 その他に自由回答として「疎結合連携が進まないため、構築にコストがかかりすぎている」「個別業務はSaaSでシステム化されているが、基幹システムが導入されていない」といったコメントが寄せられた。全体に占める割合は少ないものの「SaaSを使用していない」との回答も複数見られた。

 規模別に結果を見ると、基幹システムとSaaSのデータ連携については企業規模に関わらず共通課題となっている。SaaSアプリの乱立や機能重複による業務プロセスの複雑化については、大企業の方が中堅・中小規模よりも大きな課題感を抱えているようだ。

 こうした課題に対し、複数システムの統合や連携、プロセス自動化といった機能を提供するのがiPaaSだ。認知度は年々高まっている。iPaaSを「聞いたことがない」(35.7%)や「名前は聞いたことがあるが、何をするものかは知らない」(34.4%)との回答は、2022年12月実施の前回調査(iPaaS(Integration Platform as a Service)の利用状況(2022)/前編iPaaS(Integration Platform as a Service)の利用状況(2022)/後編)からそれぞれ10.0ポイント、7.3ポイント減少しており、ニーズの高まりとともに認知度が高まっている様子がうかがえる(図2)。

図2 「SaaSとSaaS、あるいは既存のオンプレミスシステムとSaaSをAPIを介して連携、統合させるiPaaS」についての認知度
図2 「SaaSとSaaS、あるいは既存のオンプレミスシステムとSaaSをAPIを介して連携、統合させるiPaaS」についての認知度

 特に、情報システム部門で導入・検討や運用に関わる立場の回答者の中では「聞いたことがない」は21.3%と全体よりも14.4ポイント低くなった。「名前も具体的に何をするものかも知っている」が19.1%あることからも、SaaS運用課題を持つ企業の増加に合わせ、iPaaSのような解決策を探索している担当者も増えていることが想像できる。

 また、「名前は聞いたことがないが、機能の存在は知っている」との回答も16%ある。iPaaSという名称と結びついてはいないものの、「連携する」機能の存在自体の認知は、「名前も具体的に何をするものかも知っている」と回答した13.9%よりも高いことが分かった。

 一方で注目したいのが、導入率は7.4%と1割に満たないことだ。2022年に実施した前回調査(1.7%)より増加しているものの、2021年の調査(7.4%)と変わらない数字にとどまった。「導入していないが具体的な導入に向けて検討中」(4.5%)や「導入していないが興味はある」(27.0%)を合わせると、約4割が前向きな姿勢を示しているため今後上昇する可能性があるが、iPaaSへの懸念が足かせとなって現時点では導入に踏み切れていないとも考えられる。

 iPaaSへの懸念についての回答内容は後編で詳しく紹介するが、iPaaS導入の「壁」になりそうな点を本稿でも簡単に紹介したい。

 自由記述で回答された内容を大きく分けると、「セキュリティリスク」と「iPaaSを含むシステムの管理」に多くの懸念が集まった。システムの管理については「APIの管理があいまいとなり、野良のものが発生する懸念がある」「野良スキームを生み出すリスクがある」などのコメントが寄せられた。

 他には、IT人材の確保や体制構築のハードルの高さをうかがわせるコメントも多く、この辺りがiPaaS導入を阻む課題として考えられるだろう。

 企業規模別に見ると、従業員数301人以上の企業で導入率が高くなっているのが分かる(図3)。

図3 従業員規模別のiPaaS導入率
図3 従業員規模別のiPaaS導入率

 従業員数5000人以上の企業が最も導入率が高く(10.9%)、1001〜5000人(8.5%)、501〜1000人・301〜500人(ともに7.7%)と、企業規模が大きいほど導入率が高い傾向がみてとれる。

iPaaSへの期待は「連携コストの削減」や「データ管理の省略化」

 それでは、iPaaSの導入はSaaS運用課題の解決策になっているのだろうか。「導入済み」または「検討中」「興味がある」と回答した人に導入目的を聞いたところ、「SaaSとオンプレミスシステムをまたいだ業務プロセスの自動化」(48.1%)や、「SaaSとSaaSをまたいだ業務プロセスの自動化」「オンプレミスシステムとSaaSなど、異なるシステム間でのデータ同期」(ともに41.5%)に回答が集中した(複数回答)。どれもSaaSの運用課題として多く挙がるものだが、とりわけ自動化へのニーズが高い様子が伺える。

 iPaaS導入に期待する効果を聞いたところ「システム連携のコストの削減」(61.1%)や「データ管理の省力化」(50.0%)、「大量なデータを連携する際のスピード向上」(44.4%)が上位に挙がった。

 システム連携では従来、データ抽出から変換、転送などに多大な実装コストがかかっていた。iPaaSには現場担当者がローコードによってシナリオを内製する機能を持つ製品もあることから、大幅なコスト削減や開発スピードの向上が期待できる。iPaaSはデータ収集だけでなく整理、分析を自動化してダッシュボードで一元管理したり、検索やレポーティング機能を充実させたりするなど、システム連携によるデータ活用を見据えた展開も実施されている。

 実際に導入している企業は83.3%が「おおむね想定通りの成果を上げている」、16.7%が「想定以上の成果を挙げている」と回答しており、iPaaSをSaaS運用課題の解消に役立てられていると見てよさそうだ。

iPaaS導入を阻む「壁」 APIやプロセスの”野良化”や”対応コスト増”への懸念も

 次にiPaaSの選定時に重視するポイントについて取り上げる。「導入費用が安価」(54.9%)が最も多く挙がり、「システムを連携させるコネクターが豊富」(33.2%)、「セキュリティ機能が充実している」(31.1%)が続いた(図5)。

図4 iPaaSを選定する際に重視するポイント
図4 iPaaSを選定する際に重視するポイント

 特にセキュリティの不安についてはiPaaSへの懸念を尋ねた質問(自由回答)でも多く寄せられたので、選定・活用時に必ず確認すべきポイントとなるだろう。

 以上、本稿では増加するSaaSの運用課題と、それらの解決策の一つとなるiPaaSの認知度の推移や導入実態を紹介した。後編では、iPaaSが利用されている業務の内容やiPaaSに対する懸念点について実際に寄せられた回答者のコメントを紹介する。またiPaaSに期待する効果として多く挙がっている自動化のニーズにも着目し、調査結果を基に自動化の実施状況や運用課題を掘り下げる。

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