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「生成AIブーム」でも、企業が“足踏み”なのはなぜ? 調査で分かった利用停滞の理由

キーマンズネット会員424人を対象に「生成AIの利用状況」を調査した。「生成AI元年」ともいわれた2023年、実際に生成AIを利用していた企業は何の業務に使っていたのか。また、生成AIを巡る課題感とは。

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 キーマンズネット編集部は2024年に注目すべきトピックスとして「セキュリティ」「SaaS」「コミュニケーション/コラボレーション」「生成AI」「システム内製化」「データ活用」「Windows 11」の7つのトピックスを抽出し、読者調査を実施した(実施期間:2023年11月10日〜12月8日、有効回答数424件)。企業における2024年のIT投資意向と併せて調査結果を全8回にわたってお届けする。

 第3回は「生成AI」の調査結果を見ていく。

「生成AIブーム」でも“足踏み” その理由は?

 生成AI(人工知能)ブームのきっかけとなったAIチャットbot「ChatGPT」の登場から1年以上が経過し、2024年は生成AIを本格的にビジネスに活用する年になるといわれている。こうした中、既に生成AIを利用している企業はどのような業務に利用し、どこに課題を感じているのか。

調査サマリー

  • 2023年12月時点で生成AIを正式に利用している企業は21.9%
  • 汎用(はんよう)性の高い業務への導入が目立つが、専門性の高い一部の業務でも利用されている
  • 実際に利用している企業の課題は2つに大別できる

 まず、「生成AIを業務で公式に利用していますか」という質問に対する回答で「利用している」は21.9%にとどまった。現時点で最も多いのは「現時点では何も決まっていない」(35.4%)だった。「利用していないが、導入を検討中」(27.4%)も合わせると、検討段階にある企業が過半数に上ること分かった。

図1 生成AIを業務で公式に利用しているか
図1 生成AIを業務で公式に利用しているか

 「利用している」を選んだ回答者による自由記述に「試用段階」が目立つことも考慮すると、現時点では多くの企業が検討・試用段階にあるといえる。

 従業員規模別にみると、「利用している」との回答は5001人以上の企業が36.5%で最も多く、1001〜5000人(31.2%)が続いた。「利用している」という回答が最も少なかったのは101〜500人の8.3%で、100人以下(15.1%)がそれに次ぐ状況だ。

 逆に「利用しておらず、今後も利用しない」という回答は100人以下の企業が23.6%と最も多く、101〜500人(17.7%)が続いた。中小企業が生成AIに対して大企業よりも慎重な姿勢を保っていることがうかがえる。

 この足踏み状態の現状を変え、活用を進めるヒントはどこにあるのだろうか。

 最近は「生成AIを導入したもののうまく使えず、利用を中止した」という話も聞くが、今回の調査で「利用しているが、利用を中止する予定」との回答は0.7%にとどまった。ただし、後述の失敗を尋ねる質問に対して回答者全体のうち11.1%が「導入したものの、現場が使いこなせず使われなくなった」と回答していることから、全社としては利用中止の判断に至っていないものの、現場レベルでは既に使われていないという企業も一定数存在すると考えてよさそうだ。

 また「利用している」と答えた回答者の中で「使っている従業員はいるが、自分自身は使っていない」と記述する人が複数いた。導入後、いかに浸透させるかが今後の課題なるだろう。

生成AIが実際に使われている業務 トップ3

 生成AIを利用する業務、あるいは利用を想定している業務としては「資料の要約や議事録の作成」(60%)が最も多く、「計画書、企画書の下書き」(41.5%)といった業種や職種を問わない、汎用性の高い業務への利用が続いた(複数回答)。

 上記より回答数は少ないものの、汎用性の高い業務としては「顧客対応や社内対応業務のQ&Aチャットbot」(25.5%)や「電子メールの下書き」(23.1%)、「コールセンター業務」(8.5%)などに利用されていることが分かった。

 専門性の高い業務としては「開発業務(プログラミング生成、バグ修正)」(36.3%)や「翻訳業務」(29.7%)が上位に挙がった。

図2 生成AIが利用されている(利用を予定している)業務
図2 生成AIが利用されている(利用を予定している)業務

 自由記述では「壁打ち」「情報収集」といった企画書などの文書作成時の準備段階における活用が目立った。「需要予測」といった専門性が高い業務で利用している人もいた。

 なお、「利用している」と回答した企業における利用例として最も多かったのは、全体と同じ「資料の要約や議事録の作成」だった。他にも「計画書、企画書の下書き」「開発業務(プログラミング生成、バグ修正)」「電子メールの下書き」に多くの回答が集まり、回答者全体とほぼ同じ傾向が見られた。

多くの企業が利用するツールは?

 実際に利用されている、あるいは利用予定のツールは何だろうか。

 「ChatGPT(無料版)」(44.3%)が最も多く、「Microsoft 365 Copilot」(28.8%)、「ChatGPT(有料版)」(24.1%)と、OpenAIとMicrosoftの製品が上位3位を占めた(複数回答)。

 OpenAIとMicrosoft以外の製品で多く導入されていたのはGoogleが提供する「Google Bard」(9.4%)やAmazonの「CodeWhisperer」(2.4%)で、GAFAM勢が目立った。「Perplexity AI」(1.9%)もGoogle出身者が設立したスタートアップPerplexity AIが提供するものだ。

 GAFAM勢以外ではNotionの「Notion AI」、Adobeの「Adobe Firefly」がともに1.4%で、「Notion」や「Adobe Acrobat」など企業で多く導入されているソリューションを手掛けているベンダーの製品に票が入った。

図3 利用している(利用を予定している)生成AIツール
図3 利用している(利用を予定している)生成AIツール

 なお、「ChatGPTを基に自社用にカスタマイズしたもの」(22.6%)、「自社独自開発の生成AIサービス」(5.7%)など、自社でカスタマイズ、開発したAIを利用している企業も多い。

 企業規模別にみると、「ChatGPTを基に自社用にカスタマイズしたもの」が中小から大企業まで幅広く利用されている一方で、「自社独自開発の生成AIサービス」の利用は1001人以上の企業に限定されている。

 後段の生成AIへの懸念点を尋ねる質問への回答からも分かる通り、ビジネスで利用するに当たって情報漏えいを心配する声は大きい。漏えい防止のための必要性などから、カスタマイズ需要は企業規模を問わず高いことがうかがえるが、少なくともアンケート実施時点で自社開発に踏み切れるのは大企業に限られるようだ。

「生成AIブーム」でも利用しない理由

 生成AIを「利用しておらず、今後も利用しない」「現時点では何も決まっていない」と回答した人に、生成AIを利用していない理由を尋ねたところ、「業務に利用する具体的なイメージが湧かない」(40.6%)でトップに挙がり、「利用したい業務が特に存在しない」(37.7%)が続いた(複数回答)。

 今後さまざまなユースケースが出てくれば変化する可能性もあるが、アンケート実施時点では利用するイメージが湧かなかったり、自社の中で利用したいと思える業務がなかったりする企業はそれなりに多い。「利用するために必要なスキルを持った人材がいない」(29.7%)、「利用するためのIT環境整備に割くコストがない」(17.5%)が多くの回答者に選ばれていることから、人材とコストの不足も利用に至らない理由として大きいようだ。

ユーザーの“失敗”から何が学べるか

 生成AIの利用に当たって、ユーザーはどのような失敗を経験しているのだろうか。

 全体では「導入する目的をしっかりと定めておらず、役立たなかった」(18.1%)、「生成された内容を精査するのに時間がかかりすぎた」(14.9%)、「導入にかかるコストがかさむ」(13.9%)がトップ3を占めた(複数回答)。

図4 生成AIの利用における失敗経験
図4 生成AIの利用における失敗経験

 業務での利用を検討中と回答した企業に絞った場合も、「導入する目的をしっかりと定めておらず、業務に役立たなかった」(21.6%)が首位だった。「現場が使いこなせず使われなくなった」(18.1%)にも多くの回答が集まったことから、足踏み状態が長びくようであれば、そもそも何のために生成AIを利用するのか、その目的を現場担当者と共有できているのかどうかなどを見直す必要がありそうだ。

 実際に利用していると回答した企業では「生成された事実に基づかない内容を精査するのに時間がかかりすぎた」(24.7%)がトップに挙がった。生成AIが生成する情報に含まれる“うそ”への対応に苦慮する様子がうかがえる。「プロンプトの作成や改善がうまくいかなかった」という回答も多く集まった。自由記述の中にも「有効利用できていない」「使いこなせていない」「具体的な利用方法についての情報がない」が目立つことから、導入企業に知識やスキルが十分でないことを実感しているユーザーが一定数存在している可能性が高い。

 多くの従業員が「使いこなせていない」状況が続くようであれば、より良い回答を得るためのプロンプトを作成方法や、虚偽の情報の見抜き方といった実践的な学びの機会の提供が企業に求められるかもしれない。

「利用したい業務のイメージが湧かない」 生成AIの課題は?

 生成AIの業務での利用における課題は何だろうか。

 「虚偽の情報を含んだ内容を生成すること」(44.8%)が回答者全体のトップに挙がった(複数回答)。実際に利用している企業に絞った場合も同様にトップに挙がった(52.7%)ことから、前述の「生成された事実に基づかない内容を精査するのに時間がかかりすぎた」という回答と合わせて、虚偽の内容が生成されることへの課題感の大きさが浮き彫りになった。

 回答者全体では「利用したい業務のイメージが湧かない」(43.2%)、「生成AIを効果的に利用するための環境整備に手間やコストがかかる」(30.9%)が上位に挙がり、導入の前段階で足踏みしている様子がうかがえる。

 なお、実際に利用している企業からは「個人情報をはじめとするデータ漏えいへの懸念を払拭(ふっしょく)できない」(41.9%)といった情報漏えいへの懸念や、「業務に利用できるよう精度を上げるためのプロンプトの作成や修正が難しい」(33.3%)といったスキルや知識の不足によって苦戦する姿が垣間見える回答が多く集まった。

図5 「利用している」と回答した企業の課題感
図5 「利用している」と回答した企業の課題感

 自由記述では課題として以下の回答が挙がった。

  • 学習データの精度が低いため、業務に向かない
  • 情報漏えいが発生した場合の責任の所在が不透明
  • 思った通りのクオリティーが生成されない場合の対処
  • データの信頼度
  • 利用者のスキル

 今回の調査全体を通じて、分かったことは以下の通りだ。

  • 多くの企業は生成AIを業務でどう活用するかを検討・試行している段階にある
  • 既に導入している企業にも実際には利用していない従業員がいる。全社に浸透させるためには学習会の実施などの施策が求められるかもしれない
  • 実際に利用している人は、生成AIが生成した内容に虚偽の情報が含まれている可能性があることや、それを精査するために時間がかかることに課題感を抱いている
  • データの漏えいへの懸念の他、スキルや知識の不足を課題としている利用者が多い

 回答数としては少ないが、「生成AIに食わせる学習データの精度の低さ」を指摘する声もあった。生成AIのアウトプットの精度は利用するデータに大きく左右されるため、データをしっかりと整備できるかどうかは企業が生成AIを活用できるかどうかを決める要因の一つになるだろう。

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