生成AI時代、RPA活用はどう変わる? 今、見直したい業務自動化の手段:IT導入完全ガイド
生成AI搭載、あるいは生成AIとの連携をうたうRPA製品が増える今、製品選定のポイントは何か。また、生成AIが登場したことで「自社に最適の業務自動化の手段」の選び方はどう変わるのか?
「ChatGPT」をはじめとする生成AI(人工知能)の業務での利用における試行錯誤が続く中、業務効率化に生成AIがどのように“効く”のか、期待が寄せられている。一方、一時期加速度的に利用が広がったRPA(Robotic Process Automation)に以前のような勢いは感じられない。
生成AIの登場はRPAツールにどのような変化をもたらすのか。自然言語が使える生成AIによってRPA活用のハードルは下がるのだろうか。また、「生成AIがあれば、RPAはいらない」という議論は妥当なのだろうか。
生成AIの登場によってRPAツールの活用方法がどう変わるかを紹介するとともに、生成AI時代における自社に最適な業務自動化の手段の選び方を解説する。
なぜ中堅・中小企業はRPAを“敬遠”するのか?
ITRの舘野真人氏(シニア・ アナリスト)によると、かつてほどの勢いはないものの、RPAの市場規模は依然として拡大している。2022年度の市場規模は対前年比14%増の400億円だった。2019年度の対前年比約30%増、20年度の同約40%増と比較すると落ち着いてはいるものの、2桁成長を維持している。
市場規模拡大の背景には、既存ユーザーによるリプレースやRPAの適用範囲が拡大したことが挙げられる。一方でRPAを新規に導入したいと考えている企業の割合は2年連続で減少しており、特に中堅・中小企業の新規導入率は鈍化傾向にあるという。この理由はなぜなのか。
舘野氏は「中堅・中小企業には、コストメリットを十分に得られるほどの定型業務がないのではないか」と分析する。また、人材不足も大きな課題だ。RPAは一般的なシステムと異なり、開発後も継続的なメンテナンスが欠かせない。そのため、開発に加えてロボットを管理・運用する人材が求められるが、特に中堅・中小企業では必要な人材を確保するのが容易ではない。こうしたことが新規導入率の鈍化につながっているというのが同氏の見立てだ。
一方、RPAベンダーのUiPathはRPA市場全体での成長と中堅・中小企業での新規導入の減退傾向のギャップについて、日本市場の特徴を指摘する。「RPAが拡大し始めた頃、日本でよく使われていた製品はシンプルなタスクの自動化を得意としており、RPAも単一業務を自動化する製品として受け入れられた。単一業務の自動化がある程度進んだ段階で『やり切った』と満足したユーザーと、より多くの人々が関わるプロセスの自動化に進んだユーザーに分かれた」(UiPath)
プロセスの自動化に取り組むユーザーはさらに自動化対象を拡大し、APIなどで他のソリューションと連携させながら高度な自動化に進む傾向にあるという。「自動化の高度化に取り組むユーザーは今、既存の業務だけでなくこれまで人手やコストがかかりすぎてできなかった業務の自動化に取り組み始めた。そこで重要なのが、生成AIをはじめとするAIの活用だ」(UiPath)
「生成AIがあればRPAはいらない」? 生成AIの登場で業務自動化はどう変わるのか
生成AIの登場は、RPAによる業務自動化にどのような影響を及ぼすのか。
舘野氏は「生成AIは企業のRPA利用にプラスの影響を及ぼす」と述べる。
生成AIは、自然言語を利用して業務の効率化や自動化が可能になる点が注目を集めている。舘野氏は、生成AIによって自動化にさらに注目が集まることで、自動化の手段の一つとしてRPAが再浮上する可能性があると話す。
さらに生成AIによる業務効率化では、大量の定型作業が生まれることが予想される。自社専用のプロンプトを作成する際には、膨大な社内データから必要なデータを取り出す作業が必要になる。また、生成AIを使って顧客データを分析し、個々の顧客に適した電子メール文面を100通り作成した場合、100人に向けて送信する作業も発生する。
「こうしたケースで何らかの自動化ソリューションが求められるようになる。生成AIによる業務効率化には、“手足”として動いてくれる自動化ソリューションが必要だ。そこで、柔軟な自動化手段を提供できるRPAが改めて注目される可能性もあるだろう 」 (舘野氏)
生成AIとRPAに、自動化の起点となる作業を担当する生成AIと“手足”のように動くRPAという以外の“形”はあるのだろうか。UiPathは「生成AIとRPAが連携することで、RPAが自動化できる対象は広がる。生成AIを利用することで時間が短縮できるのは大きなメリットだ」と語る。自然言語を使った自動化ワークフローの開発や、開発時に不明点をアドバイスする機能に生成AIは使われるという。
「生成AIを活用した自動化のワークフロー作成は、開発者だけでなく、いわゆる『市民開発者』と呼ばれる業務部門で働くユーザーにも十分可能だ」(UiPath)。
同社によると、ワークフローの自動作成に必要なITスキルは最低限でいいという。自動化したい業務の内容やプロセスをしっかりと把握していること、どの作業を自動化すると効率が良くなるかをしっかりと見極められることが重要だというのがUiPathの意見だ。「将来的には、生成されたワークフローがうまく動かない場合、自動的に修正できる仕組みも出てくるだろう」
生成AIを利用した自動化ワークフローの開発について、舘野氏は慎重な姿勢を取る。
「生成AIを使って自然言語で自動化のワークフローを作成することは、これまで自力で開発をしてきた人の作業時間を短縮する効果は期待できるだろう。一方で、人材不足を理由にRPAの導入を見送ってきた企業が、生成AIを開発や管理・運用人材の代わりとして位置付けられるかどうかは疑問だ」(舘野氏)
今後、さまざまな形で生成AIとRPAの融合が進むことが予想される。
舘野氏は、RPAにおける開発と実行のフェーズよりも、むしろその前後に位置する自動化対象業務の選定や、費用対効果の測定と分析の部分で生成AIが活用されることを期待していると話す。なぜなら、この部分には「人の判断」が必要な作業が含まれるからだ。
「生成AIの登場によって、業務効率化はRPAを適用すべき部分と生成AIを適用すべき部分に明確に分かれる。RPAと生成AIをつなげて使うことは十分に考えられるが、必ずしも一つのITベンダーが全てを担う必要はない」(舘野氏)
生成AIとRPAの共存の在り方については、UiPathも舘野氏と近い未来予想図を描いているようだ。「業務、あるいは部門全体、さらには企業全体の自動化を実現するためには一つの製品が全てを担うことは難しい。RPAを基盤として生成AIをはじめとしたAI、iPaaS(Integration Platform as a Service)、API連携などを組み合わせ、業務を自動化するという“答え”を実現すべきだ」(UiPath)
ただし、UiPathが描く生成AIとRPAの在り方は、より融合に近い。「『生成AIがあれば、RPAはもういらないじゃないか』という声もあるが、生成AIとRPAはお互いを必要としている」(UiPath)。具体的には、RPAが生成AIに必要なコンテキスト収集や出力結果のシステム入力などを行う。一方、RPAに生成AIを組み合わせることで自動化の幅を広げたり、自動化ワークフローの開発を効率的に進め、作成するだけでなく、自動化で利用するAIのモデルのトレーニングに生成AIを活用することで精度を上げるという使い方もあるという。
「導入したけど、使われなかった」を避けるためのポイント
生成AIの登場で、RPAの製品選びのポイントは変わるのだろうか。
従来の製品選びでは、自社が利用しているシステムやアプリケーションに対応しているかどうかが重要なポイントだった。加えて、一定の安定性を確保して自動化できることを確認する必要がある。RPAはUIの変更に弱いという特徴があり、エラーの発生を完全に防ぐことは難しい。エラーが起こりにくく確実に処理ができるかどうか、エラーが発生した場合にすぐに対応できる機能が備わっているかどうかは導入前に必ず確認しておきたい。
アクティビティーの種類が豊富で幅広い操作に対応していること、直感的な操作で非ITエンジニアでも開発しやすいことも事前に確認する必要があるだろう。
舘野氏は、生成AI登場後のRPAの製品選びは、基本的には従来と変わらないと話す。生成AIの登場の影響としては、ほとんどの生成AIサービスはAPIを利用できるため、APIを活用した自動化にどの程度対応しているかもポイントだという。
UiPathも同様にAPIをはじめとする他製品との連携手段を重視した方がよいとアドバイスする。「RPA導入後、自動化の対象を広げようとした際に、『SAP』や『Salesforce』といった自社で利用している既存のソリューションとの連携手段がないために、RPAを導入し直す企業は多く存在する」(UiPath)。こうしたケースに陥らないためには、なるべく多くのシステムやアプリケーションと連携可能な製品を選ぶことや、API連携などが容易に実装できるなど、効率的に開発が可能なRPA製品を選ぶことを視野に入れるのもよいだろう。
また、製品を選択する際には「何ができるか」に注目しがちだが、UiPathは「どう管理するか」「効果をどう見極めるか」も重要だと指摘する。
「RPAの導入後、増える一方のロボットをどう管理するか、どのようにガバナンスをきかせるか。管理の方針を定めたり仕組みを整備したりすることが重要だ。さらに、RPAの導入による効果を客観的に把握できるように測定するのも重要だ。一度導入したものの、大して効果が出ていないのであれば継続する必要はないという判断を下す材料になる」(UiPath)
管理に必要な情報を可視化するツールや、自動化の効果を測定するツールを用意している製品を選ぶことも一つの選択肢だという。
IT製品を選定する上で最も避けたいのが、「導入したけれども業務部門で使われなかった」という状況だろう。こうした状況を避けるためには、手厚いサポートプログラムを提供しているベンダーやSIerから支援を受けること、ユーザー間でのノウハウ共有が期待できる、ユーザー数の多い製品を優先的に検討することをUiPathは勧める。
また、業務自動化の取り組み自体を頓挫させないためには体制づくりが重要だという。「業務部門全体の自動化を実現するためには、最低一人は、しっかりと自動化に取り組む担当者が必要だ」(UiPath)
プログラミング経験はなくて構わないが、趣味やボランティアなどではなく、業務として時間をかけられる環境を用意すべきだという。「(先ほどの発言と矛盾するようだが)ローコードツールを使いこなし、自動化ワークフローが開発できるようにするためにはある程度の時間が必要だ」(UiPath)。実際にプログラミング未経験者がしっかりと時間をとって自動化に取り組むことで、自動化プロジェクトが成功した例もあるという。
RPAのライバル製品は? AIアプリケーションの可能性
生成AIの登場によって、業務の自動化を実現するための選択肢は増えている。
UiPathは「生成AIのみを使った自動化、RPAのみによる自動化、AI-OCRなど特定の目的に特化したAIとの連携による自動化、iPaaSやAPIを利用して他のソリューションと組み合わせた自動化などが可能だ。自動化の対象によって複数の選択肢を適切に組み合わせるべきだ」と語る。
舘野氏は、今後の業務量の変化を見据えた上で最適な自動化の手段を選ぶべきだと強調する。
「デジタル化によって、デジタルの作業量は現在の2〜3倍に増加すると見込まれる。1〜2年後の業務量がどう変化するかを見据えて自動化の範囲とレベルを見極めることが重要だ。また、RPAありきでなく、自動化の対象とする業務ごとに適切な手段を選択すべきだ」(舘野氏)
生成AIの利用によって定型業務が増えると見込まれる企業は、RPAの導入を前向きに考えるべきだろう。一方で業務量はそれほど増えないが、人の判断が必要な業務として「契約書のチェック」「製品の品質管理」「金融の与信審査」を自動化したいのであれば、最初から生成AIを組み込んだアプリケーションを開発した方が効率が良いというのが舘野氏の意見だ。
また、舘野氏は「生成AIの登場によって、業務自動化の手段を見直す動きが出る可能性がある」と指摘し、RPAに対抗し得る選択肢として「AIアプリケーションの自社開発」を挙げた。
これまで自社の業務に対応したアプリケーションを開発するハードルは高く、代替手段としてRPAで既存のアプリケーション業務を自動化してきた。
しかし近年、さまざまなノーコード/ローコード開発ツールが登場し、アプリケーション開発のハードルが下がっている。また、GoogleやMicrosoftといったメガベンダーは、生成AIを組み込んだアプリケーション開発基盤の提供にかじを切っている。今後、自社開発のAIアプリケーションはRPAと並ぶ自動化の手段としてさらに注目を集めそうだ。
自動化戦略の策定と自動化の再定義が重要だ
生成AIの登場によって、業務自動化はどう変化するのか。これに対してUiPathは自社、あるいは業務部門の未来の姿を描いた上で、自動化戦略を策定すべきだと強調する。
「競争力を高めたい、ミスを減らしたい、コンプライアンス強化を図るために作業から人手を排除したい。こうした目的のために自動化は有効だ。自動化の対象となるシステムやアプリケーションを洗い出し、それらを自動化するための開発にかかる工数を考慮して、効率的に自動化できるかどうかを考える必要がある」(UiPath)
一方で、人手不足の深刻な中小企業にとっては、「誰もやりたがらない仕事」を自動化することも戦略の一つだという。「残業が多すぎる、誰もやりたがらない仕事を押し付けられるといった理由で若手が辞め、人手不足に悩む中小企業は多い。ROI(投資収益率)も大切だが、『メンタルコスト』を重視して、働きがいや従業員満足度の向上を目指すという視点もある 」(UiPath)
舘野氏は、今後、業務自動化はPDCAサイクル全体をカバーする方向に進むと予測する。
「RPAベンダーは、PDCAサイクル全体をカバーする自動化プラットフォームを目指して積極的に生成AIを活用するベンダーと、RPAの開発と実行というコアの部分に特化するベンダーに二極化するだろう。中堅・中小企業の場合、今後はどの業務を自動化すればよいかを判断したり、自動化の効果を測定したりする人材の需要が高まるかもしれない」(舘野氏)
舘野氏も重要なのは自社の自動化戦略の策定であり、自動化の再定義だと強調する。
「『生成AIかRPAか』の前に、自社の自動化戦略をしっかりと策定する必要がある。ワークフローを可視化し、人が足りているか、体制が整っているかといった現状を明らかにする。その上で自動化する業務と自動化しない業務を明確にし、人員や体制を決めていくべきだ」(舘野氏)
自動化戦略が策定されて初めて、どの業務をどのレベルで自動化すべきかという方針を立てられる。そこで重要なのが、自社における自動化の再定義だ。「自動化を再定義することで、かえって『RPAができることは意外とある』という結論が出るかもしれない」(舘野氏)
インボイス制度や電子帳簿保存法改正を受けて新たな業務が発生したように、制度が変わったりデジタル化が進んだりすると、定型業務が増加する。生成AIの登場によって業務が増加する可能性がある今、RPAを含めた業務自動化ソリューションの注目度はさらに増すと予想される。
その中で、業務の洗い出しや自動化すべき作業の仕分け、管理の徹底といった基本にいかに徹底して立ち返るか。生成AIという大ブームの到来で企業が問われるのは、一見愚直なこうした姿勢を取ることができるかどうかなのかもしれない。
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