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BIツールと何が違う? プロセスマイニングでしかできないことは? 2024年版業務改善ツールの選び方IT導入完全ガイド

複雑化、属人化が進んだ業務をどう可視化し、改善すべきか。生成AI搭載で注目度が高まっているプロセスマイニングとBIツールの違いや、プロセスマイニングによる業務改善に適した企業の特徴などを解説する。

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 複数部門にまたがる業務が長い年月とともに複雑化、属人化が進み、業務改善に困難を抱える企業は多い。複数部門にまたがる業務の改善が思うように進まないのはなぜなのか。

なぜ複数部門にまたがるプロセスは改善しづらいのか?

 現状を把握する難しさが一つの理由だろう。さまざまな部門がどのように作業を進めているのか、どのプロセスで手戻りがどの程度発生しているのかといった詳細をどうすれば把握するのに、従業員からの聞き取りは有効だが、聞き取りのみで正確な状況を把握するのはなかなか困難だ。

 では、複雑な業務の全貌を正確に把握するためにはどうすればいいのか。業務プロセス改善のためのツールの助けを借りるのは選択肢の一つとなるだろう。

 プロセス改善のツールの中で、比較的新しいプロセスマイニングは、BI(Business Intelligence)ツールと何が違うのか。生成AI搭載によって「データに関する専門的な知識がなければ使えない」というイメージのあったプロセスマイニング導入のハードルは下がるのだろうか。

 本稿では、プロセス改善を志向する企業のITツール選定担当者に向けて次の5点を解説する。

  • プロセスマイニングでできること
  • BIツールとプロセスマイニングの違い
  • 活用するメリット
  • プロセスマイニングによる改善を必要とする業務の特徴
  • プロセスマイニングによる業務改善に適した企業の共通点

BIツールと何が違うの? プロセスマイニングでしかできないこと

 プロセスマイニングは、基幹システムに蓄積されたイベントログデータを収集して分析することで、業務プロセスを「プロセスモデル」として可視化する取り組みを指す。

 プロセスマイニングは、RPA(Robotic Process Automation)が日本でブームになった2018年頃に自動化対象業務の選定手段として注目を集めた。しかしコストの高さや、データ整備や分析に関する専門的知識が必要といった理由から、幅広く定着するには至らなかった。

 プロセスマイニングの2023年度における全世界の市場規模は約16億ドルだが、ITRの投資動向調査によると、日本におけるプロセスマイニングの導入率は徐々に伸びているものの、約14%程度と10%台前半で推移しているのが現状だ。

プロセスマイニング市場の推移(出典:ITRの提供資料)
プロセスマイニング市場の推移(出典:ITRの提供資料)

 一方で、ソフトウェアライセンスの売り上げを対象にした「ITR Market View」によると、プロセスマイニングの2022年度の市場規模は17億5千万円で、2023年度は27億4千万円が見込まれている。ITRの舘野真人氏(シニア・アナリスト)は、この結果を踏まえて次のように話す。

 「現時点では、2027年度頃までは年率約28%の伸びが続くと予測しています。注目される市場の一つと考えていいでしょう」(舘野氏)

BIツールとプロセスマイニング、何が違うの?

 デジタル化の重要性が高まるにつれ、RPAやBIツールによる業務改善に取り組む企業は増えている。Celonisは、RPAやBIといったツールは現場担当者レベルの課題を解決する際に威力を発揮する一方で、部門を横断する業務の場合、一連の流れを可視化するのはプロセスマイニングが適していると強調する。

 「例えば保険金の支払い業務は契約内容の確認や査定、支払い、顧客への連絡などをそれぞれ別の部門が担当しています。プロセスマイニングを活用すれば、『査定のところまでは順調に進むが、業務の逼迫によってその後のプロセスに時間がかかっている』といったプロセスの“詰まり”が可視化できます。各部門の担当者には把握しづらいボトルネックを見つけて改善することでサービス全体の質が向上し、顧客離れを防ぐといった効果が期待できます」(Celonis)

プロセスマイニングを活用するメリットとは

 プロセスマイニングを活用して業務プロセスを改善するメリットは何か。

舘野氏は、「継続的な可視化によってPDCAを回せる」「自動化の例外処理をなくし、RPAツールの費用対効果を改善する」という2点を挙げる。

 業務プロセスの改善は、一時的なプロジェクトの要件定義レベルであれば、コンサルタントによる人力の業務分析でも問題のないケースが多い。しかし、売り上げに大きなインパクトをもたらすコアな業務のプロセスに対しては、継続的な可視化によってPDCAを回せるプロセスマイニングが適しているという。

 調達業務をはじめとする請求処理や契約に付随する作業も含めた業務プロセスでは、「昔からの得意先で、長期間にわたって納品前に代金を支払ってきた」といった例外対応を実施しているケースが多い。RPAを導入しても自動化できない例外処理が多くなり、期待したような費用対効果が得られないこともある。舘野氏は、こうしたケースにプロセスマイニングを活用して適切な業務プロセスを検討し、採用することで費用対効果の改善が見込めると話す。

 Celonisも同様に、プロセスマイニングは新たなデジタルプロセスを高度なレベルで測定し、支援するのに役立つと話す。

 「マーケットにおける優位性のために設計したデジタルプロセスが、想定通りになっているのかどうか。想定通りになっていないのであれば、どのように対処すべきかをモニタリングする仕組みとしてプロセスマイニングは注目されています」(Celonis)

「プロセスマイニング向き」の業務の特徴

 日本では大企業を中心にプロセスマイニングが導入されており、その約半分を製造業が占めている。中でも2022〜2023年度に特にユースケースが増えている業務が調達業務だ。インフレーションや国際紛争、半導体不足などを背景に製造業における調達業務のプロセスは複雑化が進んでいる。コストを削減して収益を改善する目的でプロセスマイニングの導入を検討する企業が多い。

 製造業の次に活用が増えているのが、金融業だ。金融業には口座開設や保険などの多様なサービス業務が存在する。顧客とのやり取りを透明性を高めて可視化するためにプロセスマイニングを活用する企業が増えているという。

 プロセスマイニングの対象として選ばれることの多い業務には、「企業の成長あるいは継続にとって必要不可欠」「システム化やデジタル化が十分に進んでいない」といった特徴がある。舘野氏は、プロセスマイニングはコア業務における業務の詰まりを解消するための補助ツールとして利用されていると推測する。

 「日本で登場した当初は、プロセスマイニングはRPAで自動化すべき業務を見つけ出すための手段として紹介されることが多かったのですが、用途をそれだけに限定するとコストが高すぎる点が課題でした。プロセスマイニングで業務プロセスを可視化した先には業務自動化も当然視野に入るでしょうが、今は企業の主要事業におけるコア業務のプロセス改善に使われることが多いようです」(舘野氏)

 プロセスマイニングのベンダーであるCelonisは、製造業や金融業における利用が増えている理由について、次のように分析する。

 「製造業の調達業務や金融業の保険業務は、業務プロセスの“塊”といえます。保険業務は新規契約時だけでなく、保険金の支払い時にも申請や査定、本人確認といった部門を横断する業務が発生します。最近では事故の発生時刻や契約者が電話をかけた時間といった詳細なログも取れるようになっています。こうした部分にプロセスマイニングを活用することで、顧客の満足度を下げないオペレーションの構築に役立てているようです」(Celonis)

プロセスマイニングの活用が適している企業

 プロセスマイニングの活用が適している企業として、舘野氏は次の5つを挙げる。

  1. 収益に大きく影響を及ぼす、ある程度大規模で複雑なプロセスが社内にある企業
  2. コンプライアンスを重視し、透明性を確保しなければならない企業
  3. 多拠点でビジネス展開している企業
  4. 将来的に自動化を推進しようとしている企業
  5. 基幹系システムが整備され、業務データが蓄積されている企業

 コストに大きな影響を及ぼす社内のコア業務に問題が発生しており、具体的な問題が特定されていなかったり、不確実な状況に対応しなければならない場合、プロセスマイニングによる業務可視化の適合性は高まる。

 受注や発注などの請求処理や契約周りの業務で透明性の高さを重視する場合や、多拠点でビジネスを展開し、複数の工場で似たような業務を実施している場合もプロセスマイニングで業務プロセスを可視化するメリットは大きい。

複数の部門にまたがる業務のプロセスを可視化(出典:Celonisの提供資料)
複数の部門にまたがる業務のプロセスを可視化(出典:Celonisの提供資料)

 将来的に自動化を推進しようとしている企業は言わずもがなだ。自動化が進むと人が業務に介在しなくなることで実態が見えにくくなるため、「業務がどう回っているか」を客観的に把握する手段としてプロセスマイニングは有効だ。

 ここまでプロセスマイニングについて押さえておきたい基礎知識を解説してきた。

 後編では、生成AI搭載によってプロセスマイニングはどう変わるのかや、プロセスマイニングを活用するために必要なシステム、ツール選定のポイント、運用時の注意点などを解説する。

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