なぜRPAを入れても“手作業”はなくならないのか? 「コストじゃない理由」が判明:業務自動化に関するアンケート調査 2024
RPAの導入など、業務自動化に取り組む企業は年々増えている。一方で、効果を高めるためには多くの課題が存在することがキーマンズネットの調査で明らかになった。
「生成AI活用元年」とも言われる2024年、業務自動化の手段に生成AIが本格的に加わり、業務自動化を実現する選択肢は多様化している。
業務自動化の「現在地」を明らかにするために、キーマンズネットは毎年、調査を実施している。最新の「業務自動化に関するアンケート調査 2024」(期間:2024年8月6〜30日、有効回答数:359件)結果から浮かび上がった業務自動化の現状とは。
スケールしない理由は「コストじゃなかった」
RPA導入をはじめとする業務自動化をスケールさせるのはなぜ難しいのだろうか。
今回の調査から浮かび上がったのは、業務自動化に取り組む企業は2023年の前回調査よりも増え予算も増加傾向にあるが、「部署を横断する取り組みに拡大できない」「全社にスケールしない」ことに課題を抱える企業の姿だった。
また、こうした課題は従業員規模を問わず業務自動化に取り組む企業に共通していることが分かった。
まず、PCでの定型的な繰り返し作業、あるいは一部非定型な作業をデジタルツールに代替させる業務自動化への取り組み状況を尋ねたところ、「取り組んでいる」という回答が50.4%で2023年に実施した同調査(業務自動化に関するアンケート調査 2023)(注1)よりも約6ポイント上昇していることが分かった。
ただし、企業規模別に見ると、従業員数1001人以上の大企業は約7割が取り組んでいる一方で、500人以下の中堅・中小企業では4割以下と進展が遅れているのが現状だ。特に100人以下の中小企業では「取り組んでおらず、今後検討する予定もない」(29.0%)という回答を選んだ割合が「取り組んでいる」(25.8%)という回答を選んだ割合を上回った。
業務自動化に充てる予算としては、「100万円未満」の企業が21.9%で最も多いものの、「10億円以上」を選択した企業も1.4%あった。2025年以降の予算については「ほぼ同じ」が38.5%に上り、「増額予定」(12.2%)が「減額予定」(4.2%)を上回った。増額予定と回答した企業の増額幅は「6〜10%」(48.6%)が最も多いが、「15%以上」の増額を予定している企業も25.7%に上った。
業務自動化の目的は何か。優先度の高い順に1〜3位を選んでもらったところ、1位として最も多く選ばれたのは「全社的な業務効率の向上」(23.3%)で、「人的ミスの防止、削減」(22.3%)、「人件費を中心としたコストの削減」(18.3%)が続いた。2位、3位に選ばれたものもおおむね同じ項目で、2位では「繰り返し作業からの解放による従業員の負担軽減、モチベーションの向上」(14.3%)が3つ目に多く選ばれている。
業務自動化の取り組みによる効果は過半数の企業が「目標通りだった」(55.8%)と評価した。評価する軸として最も多く挙がった項目は「削減できた時間」(68%)で、「人件費の削減」(27.6%)、「現場担当者の感覚値」(22.7%)を大きく引き離した。
業務自動化の課題は?
一方で、課題も多く挙がった。深刻度の高い順に1〜3位を選んでもらったところ、1〜3位を合わせて回答者全体が最も多く選択したのは「スキルのある人材が不足しているため、業務自動化プロジェクトが拡大できない」という項目だった。
特に1位として選んだ回答者の割合(32.6%)は、2番目に多く票が集まった「業務自動化に充てる予算が十分にない」の割合(17.7%)を10ポイント以上引き離し、多くの企業に共通する課題であることがうかがえる。
他に多く票が集まった項目は「業務自動化ツールの運用コストの方が、繰り返し作業に携わる従業員の給与よりも高いため、スケールできない」「部署を横断した自動化にスケールできない」で、自動化が拡大、スケールできないことに対して課題意識を持つ企業が多いことが分かった。
こうした「自動化がスケールできない」背景にはどのような事情があるのだろうか。
一つのヒントになりそうなのが、「拡大できない」「スケールできない」という文言を含んだ選択項目の中で、前述のように最も多くの回答者が選んだのが「スキルのある人材が不足しているため、業務自動化プロジェクトが拡大できない」だったことだ。
今回の調査では企業規模によって業務自動化への取り組み状況に大きな差があることを示唆する結果となったが、課題を問う設問では100人以下の企業を除く全ての層が「スキルのある人材が不足しているため、業務自動化プロジェクトが拡大できない」を最大の課題として選んだ。また、100人以下の企業でも該当項目は、「業務自動化に充てる予算が十分にない」(36.7%)に次ぐ割合(30.0%)に上った。
つまり、業務自動化プロジェクトを拡大できない理由に悩む企業は人材やコスト面で比較的恵まれていそうな大企業も含めて、「スキルのある人材の不足」をスケールできない理由として考える傾向が強いようだ。
「スキルのある人材の不足によってスケールできない」悩みを抱えている企業は同時に何に苦しんでいるのだろうか。業務自動化における課題の1位として「スキルのある人材が不足しているため、業務自動化プロジェクトが拡大できない」を選んだ企業は、2位以下では「現場担当者がツールを使いたがらない」「ツールを管理する負担が重すぎる」「部署を横断した自動化にスケールできない」「どの業務を自動化すべきかが判断できない」「システムが分散しているため、十分な効果が出ていない」といった項目を、「業務自動化に充てる予算が十分にない」よりも選択しており、自動化プロジェクトに予算をそれなりに割いている企業でも「スケールできない」様子が見えた。
実際、業務自動化に5001万円以上の予算を費やしている企業でも課題の1位、3位として「スキルのある人材が不足しているため、業務自動化プロジェクトが拡大できない」の項目を最も多く選んでいる。スキルのある人材不足の問題は、コストをかけたからといってすぐに解決するわけではないようだ。採用や人材育成の難しさがうかがえると同時に、自動化予算が増加傾向にある2025年以降も同様の課題が残ることが予想される。
業務自動化プロジェクトの推進役は?
自動化のための戦略立案やツールの選定、ツール利用のための説明会の開催、有志の勉強会の開催といった業務自動化のための推進役を担っている部署としては、「IT部門(情報システム部門)」が33.3%と最も多かった。「全社的なCoE(Center of Exellence)」は6.9%にとどまり、「DX推進部門」も20.8%と10ポイント以上の差がついた。
なお、3番目に多かったのが「各部署、各従業員がバラバラに取り組んでいる」(17.4%)だった。この項目を選択した回答者は業務自動化の課題として「スキルのある人材が不足しているため、業務自動化プロジェクトが拡大できない」(38.0%)を選ぶ回答者の割合が全体(32.6%)に比べてやや多く、自動化に当たって、ベンダーからや外部パートナーからの支援を「現在は受けておらず、今後も受ける予定はない」と回答する割合が6割以上に上った。
次回取り上げる自動化対象業務の選定方法は、「各部署、各従業員がバラバラに取り組んでいる」と回答した企業では「現場従業員へのヒアリング」が8割を占め、プロセスマイニングやBPMなどのデータによって業務プロセスの課題を洗い出す手法を選択している割合は4.0%にとどまった。
ベンダーやパートナーに何を期待している?
なお、現在、あるいは過去に業務自動化に取り組み経験がある企業全体にベンダーや外部パートナーからの支援の有無を尋ねたところ、「導入時から現在まで継続して受けている」が21.0%だった。
「導入時は受けていたが、現在は受けていない」(13.3%)、「導入、運用支援を受けていた」(5.7%)を合わせるといずれかの段階で支援を受けた企業が40%に上り、特に5001人以上の大企業では「導入時から現在まで継続して受けている」という回答が38.5%と他の企業帯に比べて10ポイント以上高く、「導入時は受けていたが、現在は受けていない」(17.9%)、「導入、運用支援を受けていた」(7.7%)と合わせると、約半数がいずれかの段階で支援を受けた経験があることが分かった。
一方で、従業員規模1000人以下の中堅・中小企業では4割前後の企業が「現在は受けておらず、今後も受ける予定はない」と回答しており、企業規模による差が大きいことが分かった。
ベンダー企業に期待する支援内容としては、これまでいずれかの段階で支援を受けた経験を持つ企業が「(部署、あるいは全社の)業務を洗い出し、プロセス改善や自動化の対象とする業務を決めるための助言」「自社の業務に合わせた自動化ユースケースの提案からツール選び、実装、トラブル対応に至るまでの伴走型支援」「自動化ツールを使いこなす社内人材の育成支援」を重視しているのに対し、現在は支援を受けておらず、今後も受ける予定はないと回答した企業は「とにかくコストをかけず、支援内容は最小限でいいのでピンポイントで助言だけ求めたい」(39.6%)という項目が最も多く選ばれた。
自由回答でも「予算が取れれば伴走型支援を求めるが、すぐには取れないので最小限度のサービスしか受けられそうにない」というコメントがあり、支援の必要性は感じているが、コストが原因で選択肢から外している層も多そうだ。
なお、回答者からは「内製化ありきではない支援」「ロボット作成業務の請け負い」といったアウトソーシングを求める声や、「結果に対するコミットメント。自分ごととして考えて行動してほしい」といった成果を強く求める声も寄せられた。
ここまで、業務自動化に取り組む企業の状況について、課題を中心に取り上げた。次回以降の記事では次のトピックを取り上げる予定だ。
1.RPAで自動化する業務、どう決めている? 洗い出しフェーズで見直すべきこと (公開済み)
業務自動化で効果を出すためには、現状の業務プロセスがどのような課題を抱えているかを正確に把握することが不可欠だ。企業はどのような手段を使って業務プロセスを可視化し、課題の改善に取り組んでいるのだろうか。
2. 業務自動化ツールとして、最も使われているツールは?
業務自動化を推進する中でツール選びは重要な要素の一つだ。企業が実際に利用しているツールは何で、どのようなユースケースに利用されているのか。生成AIはどの程度使われているのか。
3. AIは業務自動化ツールとして「使える」のか?
生成AIをはじめとするAIは業務自動化の新たな選択肢となった。ユーザーはAIを業務自動化ツールとして利用するに当たって、どこに課題を感じているのか。
4. 実際に効果が出ている業務自動化ツールは?
取り組む企業が高い効果を実感している業務自動化ツールや取り組み体制にはどのような共通点があるのか。
5. RPAは「オワコン」か?
一時期ブームになったRPA(Robotic Process Automation)は、近年導入率の伸び悩みが指摘されている。RPAの利用状況とユーザーの満足度を探る。
6. 業務自動化に関する情シスの悩み
情報システム部門は業務自動化の推進を任される傾向が強い一方で、負担感に悩んでいる。具体的な悩みやその解決策を探る。
7.【まとめ】大規模調査から読み解く業務自動化の現在地
トピックを振り返り、業務自動化の現状と展望を総合的に分析する。
業務自動化は、企業全体の生産性を向上させ、無駄を省くことで従業員の意欲を引き出し、リソースをコア業務に集中させるために必要な取り組みだ。単にツールを導入するだけでは実現しない。業務自動化がより効果を出すための取り組みのヒントを、調査結果に基づいた8本の記事を通じてお届けしたい。
(注1)「業務自動化に関するアンケート調査 2023」の調査結果を基にした記事はこちら
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