RPAオワコン説は本当か? “利用しない勢”が挙げた「コスト以外」の理由【調査】:業務自動化に関するアンケート調査 2024
かつてのRPAブームは過ぎ去り、頭打ちとも言われるRPA。RPAの利用を取りやめた企業の「コスト以外」の要因がキーマンズネット調査から浮かび上がった。それは何か。
かつて業務自動化の代名詞的な存在だったRPA(Robotic Process Automation)だが、最近は伸び悩みが指摘されることも増えてきた。生成AIやAIをはじめ、業務自動化ツールの選択肢が増える中で、RPAが衰退に向かっているというが、本当だろうか。
RPAはもうオワコン? そうとも言い切れない「2つの理由」
キーマンズネットが実施した調査「業務自動化に関するアンケート調査 2024」(期間:2024年8月6〜30日、有効回答数:359件)によると、RPAを「利用している」と回答した企業は全体の40%だった。前回調査の「業務自動化に関するアンケート調査 2023」(注1)でRPAを導入済み(「トライアル実施中」「トライアル完了」「本格展開中」「本格展開完了」と回答した企業の合計)の企業の割合は46.9%だった。
また、2024年調査で「導入を検討していたが、取りやめた」(6.9%)、「以前利用していたが、中止した」(3.1%)という回答の合計は10%だったのに対し、2023年調査でRPAを「一度は導入、または導入を検討したが、取りやめた」という回答は5.6%だった。
2023年と2024年では回答者数が異なり、設問の内容や選択肢にも相違点があるため、単純に比較できないことに注意が必要だが、導入率は若干減り、利用を取りやめる企業は若干増えているように見える。
では、RPAはやはり「オワコン」なのか。キーマンズネット調査の結果からは「そうとは言い切れない2つの理由」が見えてきた。
本稿で取り上げるトピック
- 「RPAはオワコン」とは言い切れない2つの理由
- RPAで成果が出るかどうかを分ける施策とは
- 大企業と中堅・中小企業のRPA利用に隔たり
- RPAを利用しない企業が明かす「その要因」
RPAが衰退傾向にあるとは言い切れない2つの理由とは、RPAに対する満足度が比較的高いことと、大企業での利用が拡大傾向にあることだ。どういうことか具体的に見ていこう。
まず、RPAが期待通りの成果を上げているかどうかを尋ねたところ、「想定以上の成果を挙げている」(4.6%)と「概ね想定通りの成果を上げている」(59.9%)を合わせると65.5%の企業がRPA導入の成果を実感していることが分かった。具体的な導入効果として多くの回答者が挙げたのは「プロセスの効率化とタスクの自動化による業務プロセスのリードタイム短縮」で、「業務の洗い出しやプロセス改善」「エラーや人的ミスの削減」という回答も多かった。「ルーティン業務からの解放による授業員の専門性・創造性向上」にもある程度の票が集まった。
一方で、RPAの導入効果が「想定を下回る」と回答した人からは、フリーコメントで「現場の一部のマニアのおもちゃで終わっている。ITオタクで業務素人、ビジネス素人ではスケールしない」といった手厳しい声や、「幾つかPoC(概念実証)を実施したが、期待以上の効果は得られない」といったPoCから先に進まないケース、「作成したRPAの一部が、業務の仕様変更への対応修正が行われずに廃棄された。新しいRPAの作成は進んでいない」「複数のシステム間の連携が手作業」といった、連携されたアプリや対象業務の変更への対応の負担の重さを指摘するコメントが寄せられた。
効果が出るかどうか 違いが出た施策は?
では、導入効果が想定を上回った企業と下回った企業にはどのような違いがあるのだろうか。
特に違いが出たのが、RPAを現場に定着させる施策だった。「社内事例の広報活動」について、「想定以上の効果を挙げている」「概ね想定通りの成果を挙げている」企業は40.2%が「実施中」を選択したのに対して、「想定をやや下回る成果だった」「想定を大幅に下回る成果だった」企業で「実施中」を選択した割合は17.2%にとどまり、「必要ない」(24.3%)との回答が上回った。
その他にも、「ライセンスなどの管理の効率化」「ロボットの標準化や自動化部品のポータル化」「全社的な導入目的の周知」「スキル向上のための研修実施」「活用時のガイドラインやルールの策定」といった施策について、導入効果が想定を上回った、あるいは想定通りとした企業の方が、効果が下回ったとした企業よりも実施率がおよそ20ポイント以上高かった。
一方、「想定以上の効果を挙げている」「概ね想定通りの成果を挙げている」を選んだ中でも、「資金の増量」を実施している企業は14.2%にとどまり、「実施していないが必要性を感じる」(61.4%)を大幅に下回った。成果を実感しているツールでも予算の増加をためらう企業が多いのが実態のようだ。
中小企業のRPA利用拡大を阻む「壁」
今回の調査では、従業員規模によってRPAの導入率や利用方法に隔たりがあることが分かった。
従業員規模が100人以下の中小企業で「RPAツールを利用している」と回答した割合は12.9%だったが、5001人以上の大企業で同様の回答を寄せた割合は55.6%に上った。
一方で、「現在導入しておらず、導入予定はない」という回答は101人以下の企業では46.2%に上ったのに対し、5001人以上の企業では14.4%にとどまった。
なお、中堅企業も含めた500人以下の企業に範囲を拡大すると、「RPAツールを利用している」は23.1%と、100人以下に絞った場合に比べて約10ポイント上昇し、「導入予定はない」は36.3%と約10ポイント下落するが、やはり利用している割合が大企業の方が30ポイント以上高い。
他に大企業と中小企業を比べた時に目立つのが、外部企業の支援を受けているかどうかだ。運用に当たってコンサルティングやシナリオ開発を外部企業に依頼しているかどうかを聞いたところ、100人以下の企業は「全て自社で開発、運用している」が最も多かったのに対し、5001人以上の企業では「自社で行うことを中心に、一部パートナーの力を借りて開発、運用している」が最も多かった。
大企業と中堅・中小企業で見解が分かれた「定着のための施策」
現場にRPAを定着させるための施策について、500人以下の企業では1つを除いた施策全てで「実施していないが必要性を感じる」との回答が過半数に上った。
中堅・中小企業で多く実施されている施策は「社内事例の広報活動」(15.5%)で、実施率が10%を切る施策は8つに上る。必要性を感じながらもなかなか実施に漕ぎ着けられない様子が浮かび上がった。
一方、5001人以上の大企業では「RPA開発、運用人材の育成のための社内勉強会」(61.5%)の実施率が最も高く、「全社的な導入目的の周知」「活用時のガイドラインやルールの策定」の2つも実施率が50%を上回った。
大企業と中堅・中小企業で見解が分かれたのが「RPAロボットコンテストといった社内イベント」だ。5001人以上の企業では30.8%が実施し、40%が「実施していないが必要性を感じる」と回答したのに対し、500人以下の企業は実施率が1.7%で、「必要ない」という声が過半数から上った。
利用しているRPA製品の数(ベンダーごとにカウント)は 中堅・中小企業だけでなく大企業も「1」が最多だったが、「2」以上を選んだ割合が、500人以下の企業は34.5%だったのに対し、5001人以上の企業は63.1%に上り、「5以上」を選んだ大企業は9.2%あった。
RPAの利用方法にも違いが見られた。RPAと連携している機能について、500人以下の企業は「ノーコード/ローコードによるアプリ開発ツール」(19%)が最も多く、「AI-OCRや画像認識AIを組み合わせた自動文字認識とデータ入出力」(15.5%)、「テキストマイニングによる契約書などの文書確認に関わる処理の効率化」(12.1%)、「RPAのシナリオに対するテストの自動化、効率化」(10.3%)と続くが、いずれも10%代だった。
5001人以上の企業では「テキストマイニングによる契約書などの文書確認に関わる処理の効率化」(29.2%)、「AI-OCRや画像認識AIを組み合わせた自動文字認識とデータ入出力」(24.6%)、「プロセスマイニングによる業務プロセスのリードタイムの可視化や例外処置の検知」(23.1%)が多い。連携している企業の割合は、500人以下の企業と比べていずれも約2倍に上った。他にも「ノーコード/ローコードによるアプリ開発ツール」「RPAのシナリオに対するテストの自動化、効率化」「テキストマイニングによる契約書などの文書確認に関わる処理の効率化」が20%を超えた。
今後、連携させたい機能を尋ねたところ、500人以下の企業が「ノーコード/ローコードによるアプリ開発ツール」(25.9%)以外の機能についていずれも20%を下回ったのに対し、5001人以上の企業は「ノーコード/ローコードによるアプリ開発ツール」(32.3%)を含めて4つの機能を連携させたいと答えた。大企業は中堅・中小企業に比べて、さまざまな機能と連携して利用したいと考える傾向が強いことが分かった。
RPAの拡大、展開時の課題については、5001人以上の企業では「ロボットの管理が煩雑」(36.9%)、「期待したROI(投資対効果)が出ない」(24.6%)の2点が500人以下の企業よりも選んだ割合が高かった。一方、500人以下の企業では「新たに自動化すべき業務が見つからない」(25.9%)、「プロジェクトのための組織体制を築けない」(25.9%)といった自動化範囲を拡大するための仕組みづくりに関する課題が目立った。
なお、「RPAロボットのスキルを持った人がいない」「運用費用」「ロボットが停止する」は、企業規模に関わらず共通する課題となっているようだ。
まとめると、500人以下の企業は大企業に比べて1社のRPAツールを使っている割合が大きい。連携している機能は少なく、連携先の機能が増加するスピードは遅そうだ。また、第1回でも取り上げたように、業務自動化に取り組む企業の多くが「自動化がスケールしない」という課題を抱えているが、500人以下の企業のRPAにおける「新たに自動化すべき業務が見つからない」という課題もこれに通じるものがあるようだ。自動化対象の業務を決定する際に、業務プロセスの「詰まり」をデータで可視化するプロセスマイニングツールやBPMツールを利用している500人以下の企業の割合は、5001人以上の企業の3分の1にとどまる。
同一内容の繰り返し作業が大量に発生しやすい大企業の方がコストメリットが出るというRPAの特徴や、500人以下の企業に自社のみで運用する意向が強い点も、新たな自動化対象を見つけられないことの背景にあるのかもしれない。
逆に、5001人以上の大企業は全体に比べてプロセスマイニングやBPMツールを利用して自動化対象を決定する割合が大きい。自動化プラットフォームに含まれるプロセスマイニングツールを利用している割合は全体の約2倍に上った。
また、5001人以上の企業は、業務自動化戦略におけるRPAの位置付けを「ある程度重要な位置付け」としている割合が全体より約15ポイント高く、「ほとんど重視されていない」とする割合は全体よりも約10ポイント低かった。
読者が利用しているツールは?
読者が多く利用しているRPAツールは何か。
代表的なRPAツールについて利用経験の有無と、ツール名を認知しているかどうかを尋ねたところ、「現在利用している」「利用したことがある」の合計の割合が全体で最も高かったのは、Microsoftの「Power Aoutomate Desktop」(合計で24.8%)で、2位はNTTデータの「WinActor」(合計で19.5%)、3位はUiPathの「UiPath」(合計で17.5%)だった(複数回答可)。
従業員規模別に見ると、500人以下の企業ではPower Aoutomate Desktop(合計で21.2%)が、2位以下のUiPath(合計で10%)やWinActor(合計で9.4%)に比べて倍以上の利用経験があることが分かった。
5001人以上の企業でもPower Aoutomate Desktop(合計で37.8%)が最も多く使われていた。2位以下にはWinActor(合計で32.2%)、UiPath(合計で27.8%)、「BizRobo!」(合計で14.5%)、「Automation Anywhere」(合計で11.1%)が続いた。
また、500人以下の企業ではRPA製品の認知度が5001人以上の企業に比べて低いことも分かった。認知度(100%から「知らない」という回答の割合を引いた数)が過半数に上ったRPA製品は、上記10製品の中で5001人以上の企業が4製品あったのに対して、500人以下の企業ではPower Aoutomate Desktop(「知らない」という回答が44.4%)のみで、この層で利用経験がある企業の割合が高かったWinActor、UiPathについても過半数が「知らない」を選択した。
まとめると、5001人以上の大企業は自動化戦略の中でRPAを重視する傾向が強く、RPAと連携している機能の数や今後連携させたい機能の数、現場に自動化を浸透させる施策の実施率、UiPathやAutomation Anywhreといった自動化プラットフォームを利用している割合のいずれも全体よりも高かった。また、RPAに年間2001万円以上の予算を費やす割合が約3分の1に上った。こうしたことから、5001人以上の大企業ではRPAに多額の予算を割き、導入後はさまざまな浸透策を実施して定着を図り、PDCAサイクルを回して自動化の効果を向上させる取り組みを実施している割合が中堅・中小企業に比べて大きいようだ。
企業がRPAの利用しない理由
今回の調査では何らかの理由でRPAを利用しない、あるいはRPAの利用を取りやめたと回答した企業が合計で34.7%に上った。
回答の内訳としては、「現在導入しておらず、導入予定はない」(24.2%)、「一度はRPAを導入したが、利用を中止した」(2.5%)、「導入を検討したが、取りやめた」(5.8%)、「RPAツールから他の自動化ツールに乗り換えた」(1.1%)、「RPAツールからMicrosoft Excelなどスプレッドシートのマクロによる自動化に切り替えた」(1.1%)だ。
これらの企業に理由を尋ねたところ、「導入による効果がコストに見合わなかったから」(32.9%)が最も多かった(複数回答可)。
ただし、ここでも大企業と中堅・中小企業に違いが見られ、500人以下の企業で最も多い回答が「導入による効果がコストに見合わなかったから」だったのに対し、5001人以上の企業では「業務自動化施策全体を見直すから」という回答が最多だった。
ここまで、RPAの利用状況を見てきた。生成AIをはじめとする業務自動化の手段が増え、自動化の対象となる作業も拡大する中で、RPAから他の自動化ツールに完全に乗り換える例はまだ少ないが、大企業を中心に業務自動化施策全体を見直す動きが出始めているようだ。
来年以降の調査では、業務自動化戦略全体を見直す企業がどのような青写真を描いているのか、どこをどう変えていくのか、RPAはその中でどのような立ち位置になるのかを探っていきたい。同時に、RPA離れとも言える動きがやや見られる中堅・中小企業の業務自動化戦略の今後も同時に追いたい。
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