中部電力は「問い合わせ地獄」からどう脱出した? 導入後1カ月で効果を出す方策(2/2 ページ)
中部電力はあるITSM(ITサービス管理)ツールの導入によって、膨大な問い合わせ件数の削減をはじめとするDXに取り組んでいる。同社が導入したツールとは何か。また、導入後たった1カ月で成果を出すために実施したこととは。
「開発経験ゼロ」の従業員が市民開発にチャレンジした理由は?
中部電力における市民開発へのチャレンジは、ライセンス管理のアプリケーション(アプリ)をServiceNowで開発できないかという依頼がきっかけとなったという。
これまでBI(Business Intelligence)ツールのライセンス発行や、使用者や使用者数などのライセンスマスタの更新に関する申請内容を「Microsoft Excel」(以下、Excel)に手入力して管理する非効率な運用体制となっていた。それまで同社が利用していた市民開発ツールでは受付者と申請者に電子メールを自動送信ができないという課題もあった。
こうした課題を解決するために、ServiceNowによるアプリケーション開発の検証がスタートした。開発を担当したのは2023年度入社の吉村氏だった。「学生時代の専攻は情報系ではなく、システム開発経験も全くなかった。市民開発でDXの裾野を広げたい。システム開発経験がない私だからこそ、従業員の気持ちが分かるはずという気持ちで、ServiceNowのノーコード/ローコードツールである『App Engine Studio』の検証、習得に取り組んだ」(吉村氏)
App Engine Studioで開発する前に、同氏は次の3つの準備を実施した。
- 全体のフローの作成、およびステータスの可視化
- フロー作成時に出てきた画面のイメージの作成
- フローで作成したもの、画面イメージで作ったものを基に、どのような情報が必要なのかをServiceNowのテーブル構成に合わせて整理し、可視化
こうした3つの準備のために、同氏はServiceNowによるオンデマンド研修やハンズオン研修への約30時間にわたって参加した。その後、依頼元の従業員のヒアリング結果を基に、先輩従業員の指導を受けつつ約20時間かけてExcelでテーブル設計などを作成したという。
吉村氏は、3つの準備とApp Engine Studioを利用することで、約10時間でアプリ開発を完了させた。しかし、これだけでは市民開発のすそ野を拡大できないと考えられる課題に直面した。
「アプリ開発は1人でもできるが、市民開発アプリやITSMなどを支えるプラットフォームに関してはユーザー情報の管理やグループのロール権限の管理、バージョンやバックアップの管理などが必要だ。ITSMの領域に影響が出ないように市民開発側に制約を設けることが必要になった」(吉村氏)
市民開発のすそ野を拡大するためには、アプリ側からITSMで利用するテーブルを更新したり参照したりできなくするといったルールの策定、ガバナンスの策定が必要になる。プラットフォーム担当者と協調しながら進める重要性を実感したという。
「アプリを作るだけでなく、多くの従業員に使ってもらうための提案や開発をクイックに進めるためのチームの必要性、市民開発CoEの必要性を体感した。現在、3人の新メンバーを加えて市民開発チャレンジをリスタートした」(吉村氏)
中部電力にとっての「ServiceNowの価値」は?
ここまでServiceNowの活用による中部電力の「効率化と可視化」「高度化」「市民開発」の取り組みを見てきた。
中部電力はServiceNowにどのような価値を感じているのだろうか。山田氏は、「ユーザーや運用者などの『人』、問い合わせや申請、障害検知などの『こと』、PCやサーバなどの『もの』による『嬉しさ』の実現」を挙げた。
中部電力は今後、ServiceNowに集約された情報をAIが利用する仕組みづくりに取り組む予定だ。
- 問い合わせ対応: 従業員が運用担当者に問い合わせた情報がServiceNowに集約される。その情報を基にAIが自動回答する
- 障害対応: 保守担当者がAIを活用して障害記録を収集してナレッジ化する。類似の障害が発生した際に解決策に情報を生かす
- 脆弱性管理: 脆弱性を検知して可視化する。ServiceNowでチケット発行や変更管理も含めて一貫して管理する
「われわれはまだまだ駆け出しのServiceNowユーザーだが、全てがシームレスにつながる、可視化できる、変革できるという価値をServiceNowに感じている」(山田氏)
山田氏は、「今後は災害時にもServiceNowの活用による可視化や高度化によってさらに早く対応できるようになる。自動化によって手作業を減らし、正確かつ安心に業務を進めるための活動も進めていく。ServiceNowは幅広く、深いケーパビリティを持ったプラットフォームだ。 ユーザーや運用担当者のさらなる『嬉しさ』実現のために、今後も活用を進めていきたい」と語り、講演を締めくくった。
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