「属人化地獄」に陥る情シスの共通点は? 調査で見えたリアル:ITサービス管理ツールの利用状況(2024年)/後編
「問題が何度も発生するのを防ぐことができない」「インシデント対応に時間がかかりすぎる」――。キーマンズネットの調査から情シスが直面する課題が浮かび上がった。
コロナ禍以降、働き方の多様化やSaaSの導入が進む中で、社内のヘルプデスク業務や、ITサービス管理の煩雑化が増している。情報システム部門にIT戦略やDX推進計画の立案などの役割を期待する動きもある今、業務過多の傾向は進むばかりだ。
しかし、前編で取り上げたように、こうした課題を解決する際の選択肢の一つとなるITサービス管理(ITSM)ツールの導入率は全体で約1割にとどまっているのが現状だ。前後編の後編となる本稿では、キーマンズネットが実施した「ヘルプデスクおよびITSMツールの利用状況」(実施期間:2024年8月13日〜30日、回答件数:158件)のアンケート調査結果を基に、ITサービス管理ツールを実際に利用している企業の運用課題や、ヘルプデスク業務とITサービス管理で起きたトラブル事例を中心に紹介する。
「属人化地獄」に陥る企業の共通点は?
調査でヘルプデスク業務やITサービス管理に関するトラブルや困りごとを聞いたところ、「属人化」に起因する困りごとに関するコメントが多く寄せられた。回答者には「ある共通点」があった。それは何か。
属人化に関するコメントを多く寄せた回答者には、ITサービス管理(ITSM)ツールを導入していないという共通点があった。
もちろん、ITSMツールを利用すれば、ヘルプデスク業務やITサービス管理に関するあらゆる課題が解決するわけではない。ITSMツールの利用者は具体的にツールで何を管理し、どのような運用課題を抱えているのか。
まず、ITSMツールの利用者と、利用を予定している層を対象に管理対象、あるいは管理を予定している対象を聞いたところ、「インシデント管理」(63.0%の割合が最も高く、「変更管理」(42.6%)、「インシデントの問題管理」(37.0%)、「構成管理」(35.2%)が続いた(複数回答可)。
一言に「ITSMツール」と言っても、搭載機能に幅がある。自社にとって欠かせない機能を尋ねたところ、やはり「インシデント管理」(57.3%)が最多となり、「変更管理」(38.9%)、「インシデントの問題管理」(33.3%)、「構成管理」(31.5%)が上位に挙がった(複数回答可)。
この回答結果を、ツールを導入済みの企業に絞ったところ、「インシデント管理」や「問題管理」といったインシデント対応を特に重視する傾向にあった。
一方で、今は利用していないが、具体的に検討を進めている企業に絞ると、「変更管理」や「構成管理」「サービスリクエスト管理」などより広く管理機能を求める傾向にあった。社内で発生したインシデントの管理、解消だけでなく、顧客からの問い合わせや新サービスのリリース管理といった社外対応を視野に入れ、広範囲でのITサービス管理に対する需要が高まっている傾向が見える。
ツールへの満足度 「どちらとも言えない」が最多の理由
現在ITSMツールを導入している企業に満足度を尋ねたところ、「満足」(12.5%)と「やや満足」(41.7%)を合わせて54.2%が利用中のツールに満足しているという結果になった。
評価理由として挙げられたのは「機能が自社のニーズを満たしている」「コストに効果が見合っている」「UI(ユーザーインターフェース)が直感的で、使いこなせる」という回答の3点で、特に「満足」と答えた回答者の3分の1が「コストに効果が見合っている」を挙げた。
一方で他の調査と比較すると、「どちらとも言えない」という回答が4割と最多に上った点が特徴的だ。「どちらとも言えない」と回答した層に、利用しているITSMツールの運用課題を聞いたところ、「ツールの設定方法が複雑でカスタマイズしづらく、労力がかかっている」(75.0%)という答えが最も多く上がった。数多くのITサービスを一元管理するというツールの利用目的上、ツールの設定方法が満足度に与える影響は大きいようだ。
運用課題としては、「運用方法を効率的に学べる環境が整備されておらず、習得に時間がかかっている」(29.4%)、「インシデントの自動化プロセスが十分になく、インシデント対応の自動化が進まない」(23.5%)が続いた(複数回答可)。前編で取り上げた、従業員規模1001人以上の大企業グループでは「インシデント対応にかかる時間が長い」がITサービス管理に関する課題として1位に挙がっていたことから、インシデント対応の自動化は多くの企業にとって優先順位が高い課題と言えそうだ。
また、利用者を対象にITSMツールのリプレース予定を聞いたところ、「検討したことも、する予定もない」(58.9%)という回答がトップに挙がり、「より良いものがあれば、リプレースを検討したい」(23.5%)を大きく上回った。
ツールを乗り換えるほどの不満がないとも言えそうだが、運用課題の2位に「運用方法を効率的に学べる環境が整備されておらず、習得に時間がかかっている」が挙がったことに見られるように、習熟までに時間がかかるというITSMツールの特徴が乗り換えを躊躇(ちゅうちょ)させる面もあるのかもしれない。
「トラブル時に情シスが有給中で対応できず」
回答者全体に対して、実際に経験したヘルプデスク業務やITサービス管理にまつわるトラブルや困難事例を紹介しよう。
ITSMツールを導入していない企業からは「システムトラブル時、情報システム関連人材が有給だったため対応人員がいなく困った」に見られるように、「ツールが未導入のために(業務が)属人化している」や「属人的スキルに依存しており、将来的に不安」と、専門ツールを使わない管理体制の“限界”を嘆く声もあった(自由回答)。
他にも、「インシデント対応が不十分。システムが古く機能修正ができない」「対応の管理体制自体ができていないため、連絡のあったインシデントについて受付や担当割当、Ack(確認応答)などが明確、迅速に行われずクレームになった」など、インシデント管理にまつわるトラブル事例が多く挙がった。
また「各自が導入したアプリの把握ができておらずセキュリティ上危険なアプリの利用が見られた」など、ガバナンス不全により「セキュリティの穴」が発生していると危惧する回答者もいた
一方で、ITSMツールを利用している企業はどうか。「標準のシナリオが使いづらい」「承認プロセスなどの自由度がない」「正しいと思っていた運用ルールが間違っており、そのままシステム設計をしてしまい、後で手戻りが発生した」のように、「独自業務に対するカスタマイズ性が足りない部分がある」との指摘があった。
別設問でツール利用者にツールの改善点を聞いたところ、そこでも「カスタマイズ性」「拡張性」に対する要望が複数挙がっていることから、今後ITSMツールを選定する企業はこの辺りを考慮すべきだろう。
また、「インシデント管理のツールが対応組織ごとにマチマチ」「インシデント発生時の対処が組織的になっていない」などの声から、全社で統一されたITサービス管理を実現するまでのハードルは高く、ツールを利用しながら徐々に最適化を図るアジャイル型の導入が現実解となるケースが多いことが予想される。
その視点で考えると、ITSMツールを選ぶに当たっては、他社ツールとの連携がどの程度可能なのか、カスタマイズや拡張がしやすいのか、ユーザーにとって分かりやすい操作性になっているかなどがITSMツールを選定するに当たって押さえておきたいポイントと言えそうだ。
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