意外とみんなクラウド派……? SAPリプレース企業の現在【読者調査】
SAP ECC 6.0のメインストリームサポートの終了が迫り、多くの企業がいわゆる「SAP 2027年問題」への対応を迫られている。読者調査を基にERPの利用実態とSAPリプレース企業の現在に迫る。
矢野経済研究所が2024年7月に発刊した「2024 ERP市場の実態と展望」によると、ERPパッケージライセンス市場は、企業におけるDX推進やインボイス制度、電子帳簿保存法改正などの法対応を背景に2022年から拡大傾向にあり、2024年には前年比8.2%増の1536億6000万円に達すると予測されている。また、「SAP ECC 6.0」(以下、ECC 6.0)のメインストリームのサポートが2027年に終了する「SAP 2027年問題」によって移行を迫られる企業も多い。
そこでキーマンズネットは「ERPの利用状況に関するアンケート」(実施期間:2025年4月11〜25日、回答件数:173件)を実施した。前編となる本稿は、企業におけるERPの利用実態と課題を基にSAPリプレース企業の現在に迫る。
「クラウド型」ERPの導入が1年で20%増
はじめにERPの導入状況を聞いたところ「利用している」(49.1%)、「現在は利用していないが、導入予定」(8.1%)、「現在は利用しておらず、導入予定もない」(42.8%)と続き、約半数の企業で導入されていることが分かった。2024年の前回調査では、「現在は利用していないが、導入予定」が12.0%と約4ポイント高く、「利用している」は41.1%と8ポイント低い結果となり、導入予定の企業で実際の導入が進んだとも見て取れる。
従業員規模別では、501人を超える中堅企業群から導入率が半数を超え、5001人以上の大企業群では80.4%と大多数で導入されている。反対に企業規模が小さくなるほど「現在は利用しておらず、導入予定もない」の割合が増え、100人以下では「現在は利用しておらず、導入予定もない」が68.8%と、従業員数に比例して導入率が高まる製品群であることも分かる。
なお企業年商別では、50億円を超える規模から導入率が半数を超える傾向にあり、従業員数500人以上または年商50億円以上辺りが、ERP導入ニーズが高まる目安となりそうだ。
次に導入形態を聞いたところ、「オンプレミス」(34.4%)が最多で、次いで「プライベートクラウド」(23.2%)、「パブリッククラウド」(21.2%)となった。他にも「SaaS」(18.2%)や「ハイブリッドクラウド」(11.1%)を合わせ、クラウドERPを利用している割合は73.7%とオンプレミスを大きく上回る。2024年3月に実施した同調査との比較では、オンプレミスが14.8ポイント減少した一方でクラウドが19.8ポイントも増加しており、オンプレミスからの移行が顕著に進んでいる(図1)。
「2027問題」への対応状況は?
導入している製品やサービスとしては「SAP ERP」(20.0%)や「SAP S/4HANA Cloud(Private Edition)」(9.4%)、「SAP S/4HANA Cloud(Public Edition)」(9.4%)といったSAP製品が多く、「自社開発」(10.6%)も上位に挙がった(図2)。SAPのECC 6.0のサポート期間終了期日の2027年末が迫っているが、依然として導入率が最も高い。
SAP ERPを利用中の人に今後の利用状況を聞いたところ、約半数が「分からない」(52.9%)と回答した。次点で「リプレースを予定」(23.5%)、「SAPの延長サポートを利用予定」(17.6%)、「SAPの延長サポートを利用中」(5.9%)と続き、「第三者保守サービスを利用中」や「第三者保守サービスを利用予定」との回答はなく、SAPの公式サポートの採用が増えた可能性がある。なお、回答件数が17件と限られているため、参考程度に留めたい。
ERP製品選定時の重視ポイントは「標準機能の充実」(24.2%)や「業務プロセスの標準化」(23.2%)、「システムの一元化」(23.2%)、「経営情報の可視化」(15.2%)が上位に続いた(図3)。
SAP製品を選んだ人が重視しているのは「標準機能の充実」や「業務プロセスの標準化」が多く、豊富な機能とテンプレートにより、さまざまな部門や業務間のデータを横断的に連携でき、業務の効率化につなげられる点が選ばれる理由なのだろう。
一方、自社開発では「コストが安い」や「UI/UX設計が良い」「システムの一元化」が選ばれる傾向にあった。他社製品やサービスを利用することによるコストの増加、操作性や使い勝手の悪さに伴う運用変更の煩雑さ、カスタマイズの困難さなどへの懸念を読み取れる。
導入ERPの満足度は半数を下回る
次に、導入しているERPの満足度を調査したところ「とても満足している」(3.5%)と「満足している」(43.5%)を合わせた満足度は47.0%にとどまり、半数を下回る結果となった。フリーコメントを分析すると、不満の理由は3つに大別できる。
1つ目は使い勝手の悪さで、「UIが見にくい。システムが会計系とその他で異なり分かりにくい」や「エンドユーザーに分からない単語が多用されている」「使いにくいためユーザーの工数がかかっている」との声があった。
続いて2つ目はカスタマイズのしにくさで、「カスタマイズが原因で業務改革のボトルネックになっている」や「個別システムへの対応性が良くない」「実業務にシステムがそぐわないため、システム向けに無駄なオペレーションが増えた」といった声が寄せられた。自社開発でなければどうしても柔軟なカスタマイズが難しく使い勝手を解消できないジレンマがあるのだろう。
3つ目はコストの高さに対する不満で、「運用保守コスト。バージョンアップ費用が高額」や「毎年ライセンス費用が値上がりする」のように、運用コストの高騰に頭を抱える企業も少なくないようだ。一部「システムが老朽化している」や「導入後30年近くで古い」といったケースもあり、運用コストがかさむ要因にもなっている。
こうした不満はERPの課題としても認識されており、別問で課題を聞いたところ「運用に人手がかかっている」(30.6%)、「システムが老朽化している」(28.2%)、「保守やライセンスのコストが大きい」(27.1%)などが上位に続いた(図4)。
特に2024年3月に実施した前調査との比較では「運用に人手がかかっている」が6.4ポイント、「システムが老朽化している」が4.0ポイントとぞれぞれ増加しており、DXへの取り組みを中心にAIなどの新たなテクノロジーの活用が急がれる中、企業を取り巻く環境の変化にERPが対応しづらい様子も垣間見えた。こうした背景もあり、レガシーシステムからのリプレースニーズも高まっている可能性がある。
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