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老朽化とコスト増が重荷? ERPリプレース検討が3割の実態

ERPへの満足度が低い状況でも、企業の変革意欲は高い。ERPリプレースを検討する企業のリアルな声と、ERPを企業の競争力強化につなげるための具体的な方法とは。

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 キーマンズネットは「ERPの利用状況に関するアンケート」(実施期間:2025年4月11〜25日、回答件数:173件)を実施した。前編では、企業におけるERPの利用実態と課題を基にSAPリプレース企業の現状を明らかにした。

 調査によると、ERP導入企業の満足度は47.0%と半数を割っている。特に、運用保守の手間やコストの増加、システムの老朽化といった点が、AIといった新たなテクノロジーの活用やDXを目指す企業の足かせとなっているようだ。

 しかし、ERPへの満足度が低い状況でも、企業の変革意欲は高い。本稿では、ERPリプレースを検討する企業のリアルな声に迫るとともに、ERPを企業の競争力強化につなげるための具体的な方法を探る。

ERPのリプレース検討企業は約3割、大企業帯で高いニーズ

 大企業を中心に導入が進むERPだが、競争が激化するビジネス環境において企業が柔軟に対応するには幾つかの課題があり、リプレースを検討している企業も多い。調査によると「予定している」(11.8%)と「検討中」(16.5%)を合わせ、28.3%と約3割で検討が進められている(図1)。


図1 現在利用しているERPのリプレース予定の有無

 従業員規模別では5001人以上が32.4%と突出して高く、年商規模別でみると1000億〜1兆円未満が31.6%、1兆円以上が30.8%と、全体的に大企業帯でのリプレースが進んでいる。

 リプレース予定のERPは「ハイブリッドクラウド」(25.0%)、「パブリッククラウド」(20.8%)、「プライベートクラウド」(16.7%)、「SaaS」(16.7%)と続き、合計79.2%がクラウド型ERPの利用を予定する。「オンプレミス型」(8.3%)は1割以下という結果であった(図2)。


図2 リプレース予定のERPの形態

 ERPをオンプレミスで運用している企業に絞ったところ、69.3%が「クラウド型」と回答し、中でも「ハイブリッドクラウド」の選択割合が23.1%と最も多かった。前編では、導入されたERPの約7割がクラウド型であることを紹介したが、リプレースも合わせクラウドERPの利用率は今後ますます進むと予測される。

 ERPを「リプレース予定」「検討中」とした回答者に対して検討している製品を尋ねたところ、「SAP S/4HANA Cloud(Public Edition)」(25.0%)、「SAP S/4HANA Cloud(Private Edition)」(12.5%)、「Microsoft Dynamics 365」(12.5%)といったクラウドERPが上位に並ぶ。なお、回答件数が24件と限られているため、本結果はあくまで参考情報としていただきたい。

 次に、リプレース先のERPを選定する際、どのような点を重視するかを聞いたところ「標準機能の充実」(22.0%)、「コストが低い」(17.9%)、「経営情報の可視化」(14.5%)、「業務プロセスの標準化」(14.5%)が上位に挙がった(図3)。


図3 リプレース先のERPの選定ポイント

 これを、リプレースニーズが特に高い従業員数5001人以上の大企業層に限定して見ると「標準機能の充実」(26.1%)や「業務プロセスの標準化」(21.7%)、「経営情報の可視化」(17.4%)に加え「AI機能」(15.2%)の4つが“コスト”よりも重視される傾向が見られた。

ERPを企業競争力の強化にどうつなげる?

 ERPの導入はあくまで手段であり、導入後のデータ活用を見据えた計画立案や、現場の負担を軽減する入力プロセスの設計が不可欠だ。しかし、企業によっては、導入自体が目的となり、蓄積されたデータの活用や効率的な入力がおろそかになることがある。そこで、ERPを企業の競争力強化につなげている企業に向けて、具体的な取り組みを聞いた。

 特に多くの回答が寄せられたのは、会計領域における効果だ。「海外財務との接続が容易になった」という声は、グローバル展開する企業にとって大きなメリットとなる。「決算がスピーディーになった」という意見も多く、会計データの自動連携や一元管理により、決算にかかる時間を短縮し、より分析業務に注力できるようになったという。

 また、「属人化の解消」や「ブラックボックス化した業務の見える化」といった業務プロセスの改善に関する声も聞かれた。ERP導入によって業務プロセスが標準化され、担当者以外でも業務内容を理解しやすくなった結果、業務の停滞リスクが軽減されたという。

 他にも、「在庫の最適化と納期短縮をすることで顧客満足度が向上した」という成果も報告された。また、「サプライチェーン機能を活用した生産計画の顧客枠確保」という意見からは、顧客ごとの需要変動に対応した柔軟な生産体制を構築し、競合他社との差別化を図っている様子がうかがえた。

 ERP導入を成功させ、企業の競争力強化につなげている企業は、単にシステムを導入するだけでなく、その先のデータ活用や業務効率化、顧客価値の向上を意識した取り組みを実践していることが分かる。

ERPのAI機能に何を期待する?

 近年、多くのERPベンダーがAI機能の開発に注力している。製品の需給を予測する機能や、導入コンサルタントをサポートする機能など、その種類はさまざまだ。そこで、実際にERPユーザーがどのようなAI機能を期待しているのかをフリーコメントで聞いた。

 事業部門の人からは「OCRからAIが自動的に仕分けや製造実績の入力処理をしてほしい」「入力エラーチェック機能」「AIが勤怠入力をしてくれる」といった入力自動化への期待や、「システムトラブルの問い合わせをAIで解決してほしい」「操作手順のヒントを出してくれるAI」に見られる、ユーザー対応コストの効率化を望む声も多く寄せられた。

 一方、経営層と思われるコメントとしては、「需要予測、経営レポートのサマリー生成」や「データ可視化など経営情報作成の省力化」など、意思決定をサポートしてくれる機能を要望する声があった。

Fit to Standard一辺倒ではない考え方

 最後に、EERのPリプレースで重視される「標準機能の充実」について考察を深めたい。一般的には、システムの標準機能に業務プロセスを合わせ効率化を図る「Fit to Standard」や、標準機能と既存業務との合致部分は生かし不足部分をカスタマイズする「Fit and Gap」などを自社の運用や予算を鑑みて検討するケースが多いだろう。

 アイ・ティ・アールが2025年5月に公開した「アナリストVideoブログ:Fit to Standardの罠」では、従来の「Fit to Standard」一辺倒ではなく、以下の二つの新たな視点で検討を進めるべきだという。

 一つは製品標準に合わせる「Fit to Product Standard」だ。これは、拡張性に優れたERP製品が持つ業務プロセスの流れや機能を「標準」と捉え、自社の業務をその標準に合わせるという考え方だ。もう一つは自社標準に合わせる「Fit to Company Standard」だ。これは、自社が理想とする業務プロセスの流れや機能を「標準」と位置付け、その標準に合わせてERPシステムをカスタマイズしていくという考え方だ。

 基幹システム刷新の検討に当たっては、「Fit to Product Standard」と「Fit to Company Standard」の観点を踏まえ、自社にとって最適なアプローチを見極めることの重要と説いている。

 企業の業務要件は、「Fit to Standard」という考え方を適用しやすい共通領域と、そうではない自社特有の個別業務領域に分けられる。この2つを明確に切り分けて整理することで、企業が本当に実現したい理想の状態を基に、ERPの活用方法をより具体的に検討しやすくなる。

 今回のERPリプレース時の重視項目に関する調査で「標準機能の充実」に多くの票が集まった背景には、単に豊富な機能数を求める声だけでなく、「システムの標準機能をどのように捉え、活用していくべきか」という点を重視する意見も多く含まれていたと推測される。つまり、多くの企業が、自社の業務特性に合わせて標準機能を賢く選択し、適用していくことの重要性を認識し始めていると考えられる。

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