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「ついに来たか」Microsoftが大口割引廃止 最も打撃を受けるユーザーは?CIO Dive

Microsoftは、大口顧客向けの割引価格設定を廃止すると発表した。今回の変更で最も打撃を受けるのは誰か。また、ユーザーがこの影響を回避する方策はあるのか。

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 Microsoftは2025年8月12日(現地時間、以下同)、同社のオフィススイート「Microsoft 365」やクラウドERPシステム「Dynamics 365」といったオンラインサービスの価格体系を統一すると発表した(注1)。同年11月1日以降、またはユーザーの更新時に新たな価格体系が適用される。

 この変更により、「Enterprise Agreement」(EA)や「Microsoft Products and Services Agreement」(MPSA:マイクロソフト製品・サービス契約)などのボリュームライセンスプログラムを通じて適用された割引は廃止となる。オンプレミスソフトウェアの価格に変更はない。

大口割引廃止の影響を受けるユーザーは?

 今回の価格体系の変更の背景にあるMicrosoftの狙いとは。そして、最も影響を受けるのはどのような企業か。打撃を回避する手立てはあるのだろうか。

 まずMicrosoftは今回の変更について、同社のクラウドコンピューティングプラットフォーム「Microsoft Azure」(以下、Azure)で導入済みの価格モデルを基盤にしたものだと説明している。同社サービスや製品にはさまざまな販売経路があり、経路によって価格や割引率が異なる場合がある。今回の価格体系の変更は、「全ての販売経路にわたって価格の透明性と整合性をさらに高めるための継続的な取り組みを反映している」と同社は説明した。

 「この措置で最も打撃を受けるのは大手ソフトウェアベンダーだ」。調査会社Gartnerのスティーブン・ホワイト氏(バイスプレジデントアナリスト)はこう指摘する。さらに、この価格体系の変更によりSaaS(Software as a Service)製品の利用料は13.6%以上上昇すると同氏は予測する。「数万人規模のユーザーを抱えるソフトウェアベンダーであれば、利用料は10%以上増加する可能性がある。そのような企業は、小売価格でサービスを利用することは想定していない」(ホワイト氏)

 Microsoftの価格体系の変更は、米国の関税政策(いわゆる「トランプ関税」)にひも付くIT投資計画の見直しと時期が重なる(注2)。2025年8月6日、ドナルド・トランプ米大統領は、半導体輸入品に約100%の関税を課す可能性を示唆した(注3)。

 今回の発表では、米政府系機関や教育機関と提携している全世界の組織を価格改定の対象外としている。一方、欧州では、Microsoftのライセンス慣行が長年にわたって規制当局の監視下にあり、こうした優遇措置は与えられてこなかった。

 ホワイト氏は、「欧州や他国の政府はMicrosoftの動きに注目している」と指摘する。さらに、「Microsoftから離れる選択をした欧州政府の事例もある」と述べ、デンマーク(注4)やドイツのシュレースビヒ=ホルシュタイン州(注5)を例に上げた。

なぜこのタイミングなのか?

 Microsoftの価格体系の変更は、英国の競争・市場庁(CMA)が同社を追及したわずか2週間後に発表された。

 CMAは、Microsoftのライセンス慣行が英国のクラウドインフラ市場の競争を阻害していると問題視し、調査を続けてきた。2025年7月31日、CMAはその最終報告書で「Microsoftのクラウドサービスに関する価格やライセンス体系は、Amazon Web Services(AWS)やGoogleの競争力に悪影響を及ぼしている。特に関連するマイクロソフトのソフトウェアを入力として利用するクラウドサービスを購入する顧客獲得競争において、クラウドベンダーの競争力を損なっている」と結論付けた(注6)。

 Microsoftの価格引き上げは今回が初めてではない(注7)。同社は2024年4月、同年10月からDynamics 365の利用料を平均11%値上げすると発表した。2021年には、2011年に「Office 365」がリリースされて以来10年ぶりに、Microsoft 365の利用料値上げが発表された(注8)。

 ホワイト氏は今回の発表を、「大企業の顧客向けに20年以上続けてきたボリュームライセンスのレベル別価格のシステムを覆すものだ」と述べる。2018年、Microsoftは2400ライセンス未満の「価格レベルA」のユーザーに対してEA割引を廃止した(注9)。一方、2400ライセンス以上の価格レベルB〜Dについては、割引が維持されてきた。

 調査企業Info-Tech Research Groupのスコット・ビックリー氏(アドバイザリーフェロー)は「MicrosoftがEAモデルを段階的に廃止したがっているのは周知の事実だ」と指摘する。続けて「オフィス用業務ツールとエンタープライズOS分野における事実上の独占的支配力を行使し、Microsoftは最大の顧客層からも強気に収益を得る姿勢を鮮明にした。これは、Azureの成長とAIの追い風を受けたものだ」と説明する。

 ボリュームライセンスのレベル別価格が廃止された後でも、交渉力のある企業であれば個別の割引を実現できる余地は残る。一方、多くのユーザーにとって、負担増は避けられない。

 Info-Tech Research Groupのジェフ・エリオット氏(アドバイザリーディレクター)は「1万5000人以上のユーザーを抱えるソフトウェアベンダーは、これまでボリュームライセンスの恩恵を受けてきた。今回の変更は大きな痛手になる」と指摘する。

 エリオット氏によると、2025年11月の期限を前に、現行の契約条件を保持しようとするユーザーが早期更新を進める見込みだ。「長期的には、EAモデルの段階的な廃止、あるいはライセンスプログラムをさらに統合するかどうかに注意が必要だ」(同氏)

 「CIO Dive」は本件に関するコメントをMicrosoftに求めたが、返答はなかった。

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