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脱Excelしたはずが、またExcelに戻る “先祖返り”を防ぐ2つの心得

連載「編集部、温故知新」は、キーマンズネット編集部が過去に掲載した記事を振り返り、今だからこそ見えてくる論点や教訓を整理するまとめ企画だ。今回のテーマは「繰り返す脱Excelの謎」だ。

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 「脱Excel」は、長く語られてきた業務改善のテーマだ。データの一元管理や同時編集、属人化の解消、業務の標準化――。「Microsoft Excel」(以下、Excel)から別ツールへ移行する理由は分かりやすい。しかし、別ツールへの移行後も、業務が再びExcel中心の運用に戻るケースもある。なぜ、脱Excelは途中で止まり、時にExcel運用へ逆戻りしてしまうのか。

 本稿では、キーマンズネットの過去記事を基に、脱Excelが進みにくい理由と、企業が現実的に考えるべき進め方を整理する。

脱Excelは「Excelをやめるかどうか」という単純な話ではない

 2024年7月の読者調査では、キーマンズネット読者の98.6%が「Excelを利用している」と答えた。

 改めて言うまでもないが、Excelは単なる表計算ソフトではなく、多くの業務の受け皿になっている。集計や台帳、申請、進捗(しんちょく)管理、簡易な分析、報告資料の下書きなど、用途は広い。業務部門にとっては、思い立ったときにすぐ使え、必要に応じて形を変えられる道具でもある。

 そのため、脱Excelは「Excelをやめるかどうか」という単純な話では済まない。Excelで回っている業務のうち、何を残し、何を別ツールに移し、何を廃止するのかを分けなければならない。ここを曖昧(あいまい)にしたまま移行先だけを決めると、現場は使い慣れたExcelに戻りやすい。記事では、動作の重さや使いにくさを感じながらも、Excelから離れられない読者の声を取り上げている。

移行先を決めても、業務の形が変わらなければ戻る

 2024年8月の記事では、脱Excelの移行先としてどのようなツールが選ばれているのか、また移行時にどのような課題が発生するのかを扱っていた。ここで重要なのは、移行先ツールを決めることと、業務を移行できることは別だという点だ。

 Excelで作られた業務には、明文化されていない運用ルールがある。担当者が毎月手作業で補正している値、例外時だけ使う列、上司に説明するための一時的な集計、過去のいきさつで残ったシートなどが無数にある。こうした要素を整理しないまま新しいツールに置き換えると、現場は「結局Excelで直した方が早い」と感じてしまう。つまり、先祖返りはツールの機能不足だけで起きるわけではない。業務の例外や判断の流れを移行先に載せられなかったことも、先祖返りの一因になり得る。

マクロと属人化は、便利さの裏返しでもある

 2025年7月の記事では、マクロ依存や属人化が業務効率化を阻む中で、現場におけるExcel利用の実態を調査結果から探っていた。記事タイトルにもある通り、課題を認識しながらも「使うしかない」現場の状況が示されている。

 Excelのマクロや関数は、現場にとって強力な武器だ。IT部門に依頼しなくても、担当者が自分の業務に合わせて処理を組み立てられる。Excelの価値は、小さな改善を素早く積み重ねられる点にある。一方で、その便利さは属人化と表裏一体だ。作った本人しか意味が分からないマクロ、どこから参照しているのか分かりにくい数式、担当者の退職後に誰も直せないファイルが残る。業務がExcelに残っていることよりも、「なぜそのファイルが必要なのか」「誰が判断に使っているのか」が見えなくなることの方が問題になりやすい。

 脱Excelでつまずく企業は、Excelファイルを単なる移行対象として扱いがちだ。しかし実際には、そのファイルの中に業務知識や判断ルールが埋め込まれている。ファイルをなくす前に、中身を業務として読み解く必要がある。

BIを入れてもExcelが残る理由

 Excelからの移行先として、BI(Business Intelligence)ツールを検討する企業もある。2024年8月の記事によると、読者企業のBI導入率は35.7%で、「Microsoft Power BI」が利用されている一方で、導入済み企業でもビジュアライズに使われているツールはExcelが圧倒的だったと伝えている。

 また、2025年12月の記事では、BIと表計算ツールがデータ分析業務でどのように使われているのかを扱い、Excelや「Google スプレッドシート」が欠かせない存在であることを前提に、両者の利用実態を見ている。

 ここから分かるのは、BIを導入すればExcelが自然になくなるわけではないということだ。BIは、定型化されたデータの可視化や共有に向いている。一方で、現場ではデータを見ながら仮説を立てたり、説明用に表を作り替えたり、会議前に数字を一時加工したりする場面がある。そうした作業では、Excelの自由度が選ばれやすい。

 この場合、Excelが残ること自体を失敗と見るべきではない。問題は、BIで扱うべき正式な数値と、Excelで加工された一時的な数値の境界が曖昧になることだ。どちらが正なのか、どの数字を意思決定に使うのかが決まっていなければ、BI導入後もExcel中心の業務が残りやすい。

ローコード/ノーコードも「脱Excelの受け皿」だけでは不十分

 ローコード/ノーコードツールも、脱Excelの移行先として語られることが多い。2024年12月の記事では、「脱Excel」のためにローコード/ノーコードツールをどう使うかを取り上げ、導入効果を低く評価したユーザーの共通点にも触れている。

 ローコード/ノーコードツールは、現場に近いところで業務アプリケーションを作れる点に強みがある。Excelで管理していた申請、台帳、進捗確認などをアプリケーション化しやすい。ただし、Excelの表をそのまま画面に置き換えるだけでは、脱Excelは進みにくい。入力項目や承認ルート、更新権限、履歴管理、例外処理を決めなければ、結局は「アプリケーションに入れる前の下書き」や「後で修正するための控え」としてExcelが残る。

 ローコード/ノーコードツールを脱Excelに生かすには、Excelの置き換えにとどめず、業務の流れを再設計する視点が必要になる誰が入力し、誰が確認し、どの状態になれば完了なのか。そこまで決めて初めて、Excelから移す意味が出る。

先祖返りの理由は「現場が保守的だから」ではない

 脱Excelが戻る理由を「現場の抵抗感」だけで説明するのは適切ではない。過去記事を並べて見ると、Excelが残る背景には現場なりの合理性がある。

 Excelは業務の変化にすぐ対応でき、例外処理にも強い。担当者自身で修正でき、関係者に渡しやすく、会議資料にも転用しやすい。こうした利点があるからこそ、多少の不満やリスクがあっても使われ続ける。

 一方で、その柔軟さが、統制や継承、データ活用の壁になる。属人化したマクロ、正本が分からない集計表、誰も全体像を把握していないファイル群は、業務の変更や担当者交代のたびに負債として表面化する。

 脱Excelの難しさは、Excelが「便利すぎる」ことにある。だからこそ、単に禁止したり、移行先を指定したりするだけではうまくいかない。

今すぐ始められること

 最後にまとめとして、脱Excelを進めたい企業が今すぐ始められることを整理する。

1.Excelファイルを「残す」「移す」「やめる」に分ける

 まずは、全てのExcelをなくそうとしないことだ。現場で一時的に使うメモや個人作業用の集計まで含めて禁止すると、かえって実務が回りにくくなる。

 優先して見るべきなのは、複数人が更新するファイル、承認や判断に使うファイル、マクロや複雑な関数に依存するファイル、担当者しか意味を説明できないファイルだ。これらを「残す」「別ツールに移す」「廃止する」に分けるだけでも、脱Excelの対象は見えやすくなる。

2.ファイルではなく「判断の流れ」を確認する

 Excelファイルを移行する前に、そのファイルがどのような判断に使われているのかを確認したい。具体的には、誰が入力しているのか、誰が確認しているのか、どの数字が正式値なのか、どの列やシートが実際に業務で利用されているのか、そして例外発生時に誰が修正対応しているのか、といった点だ。

 ここを確認せずにツールだけ変えると、現場はExcelを並行利用し続ける。逆に、判断の流れが整理できれば、BIやローコード/ノーコード、ワークフロー、データベースなど、どの移行先が適しているかも判断しやすくなるだろう。

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