「情シスをやめます」と言われたら
現役情シスに思い切って聞いてみた 「ぶっちゃけ、今なにが一番しんどいですか?」
現役の情シス担当者は、日々の仕事をどう感じているのか。今回「情シスSlack」に突撃したところ、会社からは見えない現場の泥臭いホンネと「辞めたくなる」と思わせる原因が見えてきた。
前回の記事では、ひとり情シスの退職をきっかけに、それまで見えていなかったIT運用上の課題が一気に表面化するケースを取り上げた。では、現役で情シスとして働いている人たちは、日々の仕事をどう感じているのだろうか。
そこで今回は、日本ビジネステクノロジー協会が運営する「情シスSlack」に、思い切って突撃してみた。「ちょっとした愚痴でも構いません。今の体制や仕事について、言いたいことはありませんか?」。そんな軽いノリで現役情シスに聞いてみたところ、返ってきたのは、普段なかなか表に出てこない現場のホンネだった。
※本稿で使用しているイメージ画像は「Nano Banana」で生成した。
「根回しがしんどすぎる」――情シスを疲れさせるのは、技術だけじゃない
情シスといえば、サーバやネットワーク、クラウド、セキュリティなど、ITに関する専門知識を駆使して仕事をするイメージが強い。ところが、実際の現場で時間を奪っているのは、必ずしも技術的な問題だけではない。
「根回しがしんどすぎる。もう少し可否の基準を定めて、そこからぶれないようにしてほしい」。そんなホンネを、情シスSlackユーザーは漏らした。
「このシステムを導入したい」「この運用を変えたい」「セキュリティ対策を強化したい」と考えたとしても、技術的に正しいだけでは物事は進まない。誰に説明するのか、どの部署の承認が必要なのか、予算はどこから出すのか、経営層にはどんな根拠を示すのかまで考える必要がある。
つまり、情シスはシステムを管理しているだけではない。社内のさまざまな部署に説明し、場合によっては説得し、利害を調整しながら、ようやく一つの施策を前に進めている。
特に少人数の情シスでは、この「技術以外の仕事」まで担当者に集中しやすい。専門知識を使って問題を解決することが本来の仕事だったはずなのに、いつの間にか社内の調整役まで担うようになる。だからこそ、「根回しがしんどすぎる」という一言は、単なる愚痴ではない。それだけ情シスの仕事は、会社から見えている以上に広がっている。
「増員してください」→「まずは効率化できない?」の悪夢
そして、根回しの先に待っているのが、人員の問題だ。
情シスSlackに問いかけると、「経営陣からコストセンターとして見られ、増員や外部委託の提案が受け入れられない」という声がかえってきた。情シスからすれば、管理するシステムは増え、クラウドサービスも増え、セキュリティへの要求も高まっている。それでも、担当者の人数だけは変わらない。
限界に近づいた担当者が「人を増やしてほしい」と相談すると、「まずは今の体制で効率化できないか」と言われる。もちろん、効率化そのものは重要だ。だが、効率化するためには、現状の業務を整理し、問題点を洗い出し、新しい仕組みを考え、導入し、従業員に使ってもらうまでの時間が必要になる。
目の前の問い合わせ対応で一日が終わっている担当者に、「その仕事を効率化する仕組みも作ってください」と求めれば、仕事は減るどころか一時的に増えてしまう。ここに、情シスが抱える難しさがある。
「仕事が増える、人は増えない」だけでは説明できない
今回の回答をさらに見ていくと、情シスの負担は単純な「人手不足」だけでは説明できないことが分かる。
ある情シスからは、「事業会社には情シスを希望して入社する人がいない」という声が寄せられた。さらに、「情シスも人事ローテーションの一環なので、専門職としてこの仕事に従事する人がいないことを前提に仕組化する必要がある」という声もある。
これは採用が難しいという話だけではない。そもそも会社の中で、情シスという仕事をどう位置付けているのか、という問題でもある。
ITが事業の基盤になっている一方で、情シスは専門職としてではなく、社内の人事ローテーションの一つとして扱われる。担当者が変わることを前提にしているのに、そのための仕組みは用意されていない。こうした矛盾が、現場の負担をさらに大きくしている。
担当者が変われば、前任者が持っていた知識を次の担当者が一から学び直すことになる。そして、その引き継ぎを担うのもまた、忙しい現場の情シスだ。
「そのシステム、誰が知ってるんですか?」
属人化の問題についても、情シスSlackからはリアルな話が聞こえてきた。
「導入されているシステムや仕組みのドキュメントやマニュアルが圧倒的に不足していて、先輩社員方の頭の中にそれらがインプットされているので、不明な点があればイチイチ質問しなければならないのが非効率的」という回答だ。
情シスの現場では、「そのシステムのことなら○○さんに聞いてください」という言葉が、意外なほど頻繁に登場する。担当者が休んでいると「今日は分かりません」となり、退職してしまえば「誰も分からない」という状態になる。
これは単に引き継ぎが下手だったという話ではない。そもそも、会社の情報が個人の頭の中にしか存在していないことが問題だ。
ところが、ドキュメントを作ることも簡単ではない。問い合わせに答え、障害に対応し、システムを運用し、プロジェクトを進めながら、その合間に「将来のためのマニュアル」を作る必要がある。
「落ち着いたら作ろう」と思っていても、情シスの仕事はなかなか落ち着かない。結果として、ドキュメント作成は後回しになり、属人化がさらに進んでいく。
「何かあったら自分が対応するしかない」というプレッシャー
少人数の情シスにとって、「何かあったら自分が対応するしかない」というのは心理的な負担だ。
もちろん、全ての情シスが24時間365日対応しているわけではない。だが、緊急時に代わりに対応できる人がいないという事実そのものが、担当者にプレッシャーを与える。
休みの日にスマートフォンの通知音が鳴れば、「何かあったのではないか」と身構える。旅行中に会社からメールが届けば気になってしまう。たまたま休日に管理画面を確認して、エラーを見つけてしまえば、「見つけてしまった以上、対応しなければ」と考えてしまう。
報告すれば休日対応が始まるかもしれない。見なかったことにすれば、後から「なぜ気付かなかった」と問われるかもしれない。複数人体制なら当番制やローテーションという方法も取れるが、「自分しか分からない」状態では、それも難しい。
こうした負担は、勤務時間だけを見ていても分からない。休暇を取っていても完全には仕事から離れられないという感覚が、少しずつ担当者を消耗させていく。
「ちょっと相談」が積み重なって、今日も一日が終わる
情シスの仕事というと、システム障害やセキュリティ事故のような大きなトラブルに目が向きがちだ。だが、担当者をじわじわと疲れさせているのは、むしろ日常的な細かな問い合わせでもある。
「これってどうやるんでしたっけ」「パスワードを忘れました」「このソフトを入れてもいいですか」「このシステム、エラーが出るんですけど」。一つ一つは、それほど大きな仕事ではない。
問題は、それが毎日、何度も繰り返されることだ。少人数の情シスでは、「ちょっと聞ける人」が情シスしかいないため、いつの間にか会社のITに関する「なんでも相談窓口」になってしまう。
問い合わせに答えているうちに、本来進めるはずだったプロジェクトが止まる。改善施策を考える時間もなくなる。セキュリティ対策にも手を付けられない。それでも、目の前の問い合わせには答えなければならない。
こうして、重要度の高い仕事と緊急度の高い仕事が混ざり合い、担当者は「今日を乗り切る」ことを優先するようになる。すると、将来の負担を減らすための仕事が後回しになり、結果的にさらに忙しくなる。
それでも現場は、何とかして「回している」
ここまで読むと、「情シスは大変だ」という話ばかりに見えるかもしれない。だが、今回のアンケートから見えてきたもう一つの側面は、こうした環境の中でも、現場が何とか仕事を回すための工夫を続けていることだ。
特に印象的だったのが、ヘルプデスクについて寄せられた回答だった。ある情シスは、「依頼元の従業員が同僚に渡すための資料やWIKIを渡し続ける」という方法で、問い合わせそのものを減らしていったという。
やっていることだけを見れば、非常に地味だ。同じ質問を受ければ回答し、そのたびに資料やWikiを案内する。別の従業員から同じ質問が来ても、また資料を渡す。でも、その繰り返しによって、少しずつ従業員自身が問題を解決できるようになっていく。
ある情シスは、数百人規模の会社であれば、一人一人のレベルを上げるために何千回と対応を重ねることで、数年程度かけて問い合わせ件数を減らすことができたという。
派手なAI導入でも、大規模なDXプロジェクトでもない。「同じ質問に何千回も答えないために、何千回も資料を渡す」。情シスの改善とは、案外こういう泥臭い積み重ねなのかもしれない。
「俺がいなくなったら終わる」を、少しずつなくしていく
このエピソードは、「情シス辞めます、と言われたら」という今回のテーマにもつながってくる。担当者が持っている知識を、本人の頭の中だけに置かず、少しずつ会社の共有資産へ変えていくことが重要になる。
FAQやWikiにまとめるだけでも、「○○さんに聞かないと分からない」という状態を減らすことができる。システム構成や運用手順、過去のトラブル対応などを記録しておけば、担当者が異動したり退職したりしたときにも、その情報を手掛かりに業務を引き継げる。
最近では、こうしたドキュメントを生成AIのRAGに活用するという発想もある。今回の回答者からも、社内システムについて体系的かつ網羅的にドキュメント化できれば、それをRAGに利用し、日々の業務を効率化できるのではないかという声があった。
ただし、AIを利用すれば属人化が魔法のように消えるわけではない。AIに読ませる「正しい情報」がなければ、そもそも十分に活用することもできない。だからこそ、最初に必要なのは、担当者が知っている情報を会社の資産に変えることだ。「○○さんがいないと分からない」という状態を、一つずつ減らしていく。その積み重ねが、結果として「誰かが辞めても回る情シス」につながっていく。
情シスが辞めたくなるのは、「仕事が嫌いだから」なのか
今回のアンケートを眺めていると、情シスが辞めたくなる理由は、単純に「仕事が大変だから」という一言では片付けられないことだ。
人が足りない。仕事は増える。根回しに時間を取られる。情報は残っていない。休みづらい。それでも、システムが動いていれば「問題ない」と思われる。そして、トラブルが起きたときには情シスが真っ先に呼ばれる。
それでも現場は、FAQを作り、Wikiを書き、社員に何度も説明しながら、何とか会社のITを回している。その努力があるからこそ、会社からは「システムが正常に動いている」という結果だけが見える。
だからこそ、「すみません、退職します」という言葉だけを切り取ってはいけないのかもしれない。
会社からすれば突然の退職でも、本人にとっては突然ではない。そのずっと前から、「もう少し人がいれば」「もっと情報が残っていれば」「もう少し会社に理解してもらえれば」という小さなサインが積み重なっている。
「ひとり情シスの退職」は、問題の始まりではない。それまで誰かの頑張りによって見えなくなっていた問題が、一気に表面化する瞬間なのだ。
だから、「ひとり情シスが辞めてしまった。急いで後任を探そう」だけでは、根本的な解決にはならない。新しい担当者を採用しても、その人が同じ環境で一人で抱え込めば、数年後には同じことが起きる可能性がある。必要なのは、「誰かが頑張れば回る情シス」から、「誰かが休んでも、異動しても、退職しても回る情シス」への転換だ。
そのためには、情シス担当者だけに「もっと効率化して」「もっとドキュメントを残して」と求めるのではなく、会社側も仕事の量や優先順位、権限、予算、人員、外部委託の使い方まで含めて考える必要がある。
情シスの「もう限界です」は、単なる個人の弱音ではない。それは、会社のIT運用が個人の頑張りに依存しすぎていることを知らせるサインなのかもしれない。
では、実際にどうすれば、「頑張り続けなくても回る情シス」をつくれるのか。次回は、情シス担当者だけに負担を押し付けるのではなく、会社側も含めて、属人化を減らし、担当者が一人で抱え込まなくても済む体制をどうつくるのか、具体的な方法を考えていく。
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もし「情シス辞めます」と言われたら……
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