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RPAは「便利な自転車」 “補助輪つき”で乗りだした中小企業コマイの選択

学校やオフィス向け家具の製造販売を手がけるコマイは、専任担当者を置くのが難しい20人余という陣容の中でRPA活用方法を模索し、年間1000時間相当の省力化を達成した。さらなる効率化を見据えて社内体制を整えつつある。

» 2020年11月10日 10時00分 公開
[PR/キーマンズネット]
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 大手企業への導入が一巡したRPAは現在、国内の圧倒的多数を占める中堅中小企業への普及途上にある。

 一時の熱狂的ブームが収束した後もRPAへの関心が衰えない実態が示すとおり、RPAを活用した定型業務の自動化によって余力を創出し、これまで手が回らなかった高付加価値型ビジネスの強化に軸足を移したい企業は少なくない。

 ただ一方、不況期に備えた最小限の人員で業務を回すことも多い中堅以下の企業では「余力創出を図る新たな取り組みに割ける余力もない」状況に、しばしば見舞われる。こうした膠着をどう打開していくかが、DX(デジタルトランスフォーメーション)推進の試金石といっても過言ではないだろう。

 大阪発祥の元教材販社で、現在は学校やオフィス向け家具の製造販売を手がけるコマイ(和歌山県橋本市)は、専任担当者を置くのが難しい20人余という陣容の中でRPA活用方法を模索。試行錯誤を経て、年間1000時間相当の省力化を達成した他、さらなる効率化も見据えた社内体制を整えつつある。この間の取り組みと今後の展望について、同社代表取締役の駒井和彦氏に聞いた。

本社移転でベテランが離脱。“魔法”に見えたRPAを社長自ら研究

駒井和彦氏 コマイ代表取締役 駒井和彦氏

――最初に、貴社の概要をお聞かせください。

 私の祖父が1952年に大阪で創業した、学校用の黒板や教材類を扱う個人商店が当社のルーツです。1974年、先代である父が府内の大阪狭山市に工場を設けて学校用家具の自社生産をスタート。私が経営に加わった2005年以降は中国での委託生産も始め、オフィス家具やホワイトボードなどに商材を拡大してきました。

 現在の主力商品はオフィス用の自立型パーティションで、4年前に出店した大手ECサイト経由の販売が好調です。中でも透明タイプは、このコロナ禍で対面時の飛沫感染を防ぐ用途で大きく需要を伸ばし、思わぬヒット商品となりました。

 社員21人、パート4人の従業員は、ほぼ全員が(和歌山県橋本市)高野口町の本社工場で勤務しています。委託生産で高品質と低価格を両立する上でも、自社拠点で企画から試作、少量生産まで完結できる体制が強みだと考えており、実際に今回、海外渡航が制限された中でも、本社工場で仕上げたサンプルを「全部この通りに作って」と中国の委託先に送る方法で新商品を出すことができています。

――2018年にデスクトップ型RPAツールのライセンスを購入して社内活用の方法を探られたそうですが、導入のいきさつをうかがえますか。

 海外生産と同様のコスト削減を目的に、当社は先ごろまで数年がかりで本社工場の移転を進めてきました。大阪狭山から高野口までは車で約1時間。社員の大半はついてきてくれたものの、生活圏が異なるため、旧拠点近くに住む事務のベテランは退職してしまいました。

 理想を言えば、ある程度の入れ替わりを見越して余裕のある人員配置をしたいところですが、実際のところ当社の企業規模では、欠員が出たタイミングで補充するのが精一杯です。前任者が抜けた穴を埋めようと、新本社周辺から社員を採用して教育を始めましたが、周囲の社員には不慣れな新人のフォローというしわ寄せがいき、今度は「勝手が分からないExcel作業や電話取りが負担」と、製造部門からも退職者を出してしまいました。以前から部署間交流を積極的に行い、持ち場が固定化しない柔軟な職場を目指してきたつもりですが、今にして思えば、分担する業務の整理が不十分でした。

 2010年に私が三代目社長となって以来、いちばん苦しい思いをしていたさなかで目に入ったのが、経済誌のRPA特集記事でした。「ロボットがルーチンワークを肩代わりする」との説明を読み、社内の混乱から救い出してくれる“魔法のじゅうたん”に出会えた気がしたものです。

 もっとも、こうした目的で当社がソフトを導入するならば「パート1人分の人件費相当」である月10万円が限度という事情もありました。そこで、この特集で紹介されていたベンダーから条件に合う数社に問い合わせ、国内シェアの大きいツールを、最もシンプルな料金体系で提供していた代理店と契約しました。

――自動化に対する、かなり切迫したニーズがあった中で、実際にRPAツールをどのように使い始めたのでしょうか。

 ITに詳しい人物が社内にいなかったので、社長の私がまず有料のRPA講習に参加し、ツール操作の難易度をつかむところから始めました。

 使える機能が増えるにつれ、当社でもRPAが役立つという確証は得られましたが、いつモノにできるか見通せないままライセンス費用を払い続けるわけにもいかず、最初に選んだツールのライセンス契約は数カ月でいったん解約しました。

 そこからは無料版を利用できる他のデスクトップ型ツールに切り替え、参考書と首っ引きで研究を続けました。ここでもテキストの例題に沿って、ロボットをいくつか自作するまでには至ったものの、学んだことを応用発展させて社内で実際に使いたいロボットを実装するまでには時間がかかると見込まれ、社員の誰かに習熟させるのも難しいと判断しました。

 「確かにRPAは魅力的だが、社内ですぐツールを使いこなすのは非現実的」とあきらめかけていたところ「多額の初期投資や専門技術者の確保が難しい中小企業でも、リーズナブルな維持費用だけでRPAを開発運用できる」と訴えるユーザックシステムの記事を、たまたまニュースサイトで発見。「我が意を得たり」と、すぐ連絡しました。

 同社の担当者と1カ月ほどやりとりした末、実現したい自動化にめどが立ち、同社のデスクトップ型RPAツール「Autoジョブ名人」を2019年11月に導入。そこから3カ月間の準備で、最初のロボットの実稼働に入ることができました。

「パート1人相当」の予算でロボット開発運用を依頼。「正社員0.5人分」の効率化を達成

駒井和彦氏 「Autoジョブ名人により、ベテランに頼っていた煩雑な仕入業務が自動化できた」と振り返る駒井氏

――Autoジョブ名人に切り替えて、それまで難航していた実稼働が一気に実現したのですね。

 そうですね。試行錯誤を重ねる中で「RPAがどういうもので、何に使えば効果的か」という理解が深まっていたのもありますが、当社が今回、これだけ早期にRPA化の成果を得られたのは、やはりロボットの開発と運用をツールベンダーに一任できたことが最大の要因だと思います。

 第1号のソフトウエアロボットとして作成いただいたのは、当社が受発注業務に使っているERPパッケージ「SMILE」に、日々生じる仕入先への発注データを自動登録するというものです。このロボット1体で、事務社員1人が1日の実働7時間で処理するうちの4時間分に相当する、とても煩雑な仕入れ業務を自動化することができました。

 当社の年間稼働日は約250日なので、定量的な効果としては「年間1000時間相当の余力創出」ということになりますが、実際の感覚としては「パート1人分の人件費に等しい予算で、正社員0.5人相当の仕事を処理できるようになった」という印象です。

 ベテランが担っていた業務を正常に戻す上で、これだけスピーディーに効果が出る提案をいただけたのは、本当にありがたいことでした。同じような悩みを持つ他社でも、ぜひ活用をお勧めしたいですね。

 聞いたところでは、中小企業向けをうたうAutoジョブ名人は、同じく中小企業での利用が多いSMILEとの併用事例が多いそうで、当社での導入前から既に連携のノウハウもあったようです。ですからこうした環境にある企業は特に、早期に成果を出せる可能性が高いのではないでしょうか。

――ペーパーレス化への関心が高まる昨今、RPA活用においても、紙帳票をデータ化するOCR(光学文字認識)との併用が注目されています。今回、そうした用途は検討されなかったのですか。

 確かに「手入力しているFAXでの受注を自動登録してはどうか」とも考えました。ただ、当社のような中小規模の製造業では、仕入業務の効率化が着手しやすく、また効果も大きいように思います。

 例えば、当社では製造販売している2000商品に必要な部材が累計で3万アイテムほどあり、このうち常時1000アイテム近くの部材を、合計数十社から調達しています。

 商品別に生産計画を立てる段階では、必要な部材数は、商品1個当たりの使用数と生産量の掛け算で簡単に出せます。ただ、サイズ違い商品のように使用部材が共通する場合、発注時にはそれらを足し合わせた合計数を部材別に出し、仕入先ごとに振り分けた上で発注システムに登録する必要があります。

 かつての当社のように、こうした一連の作業を整理しないまま行う発注作業は、ベテランしか理解できない複雑なものとなりがちです。しかし、一つ一つの工程は単純作業の繰り返しなので、実はロボットにも任せやすいのです。

 人の手でこなすのは非常に煩雑である一方、自動化すれば格段に速く、また確実に処理できるということで、当社はまず仕入業務からRPA化に着手しました。一方で、受注業務でのロボット活用は「ケースバイケース」とみています。これは当社の場合、毎年の需要を予測しやすい学校家具などで見込み生産の在庫を持つ関係上、OCRを使ってまで全ての発注書を急いで処理しなくてもよいためです。

「ロボットに任せる段取り」を確立。対象業務を広げ、内製化も視野に

駒井和彦氏 RPAは「魔法のじゅうたん」ではなく「自転車」のような存在だと語る駒井氏

――今回たった1体のロボットで、これほどの効果を出せた理由についてもお聞かせいただけますか。

 「あとはロボットが発注システムへの登録を繰り返すだけ」というところまで、扱うデータをきれいにまとめておいたのがポイントだったと思います。

 こうした下準備をしっかりしておけば、繰り返し作業を速く、ミスなく行うRPAの強みが最大限に生かせることを、RPAツールに触る中で実感していました。そこでAutoジョブ名人の導入前から、ロボット活用を前提とした事務作業の段取りの見直しを進めていたのです。

 具体的には、発注する部材数を自動集計し、ロボットがデータ取得しやすい体裁にまとめるExcelシートを用意しました。幸い、本社工場の移転後に採用した社員の1人が「プログラミングまではできないが、Excelは使い慣れている」というスキルの持ち主だったので、彼に事情を説明して作ってもらいました。

 初めからプログラミングや、RPAツールの操作に通じた人がいなくてもロボット化はできると思います。ただ、社内の誰かがロボットの都合を理解して業務に落とし込む“通訳”の役割を果たせるかどうかで、RPAの導入効果は大きく変わってくるように思います。

――本格導入前に、社長自ら手を動かしていたことが本質の理解に役立ったのですね。今後のRPA活用拡大については、どのようにお考えですか。

 先ほど、受注作業へのロボット活用はケースバイケースと申し上げましたが、好調なEC関連の受注データ登録には新しいロボットを、近くユーザックシステムに作成いただく予定です。

 これは、増加の一途にある小口注文を効率的に処理したいのと、既にペーパーレス化されているECでは最初からデジタルデータが手に入り、後続の作業をロボット化する段取りも容易なことが理由です。

 RPAのおかげもあり、移転後の本社工場がようやく軌道に乗ってきたので、今後は社内体制の充実に向けた採用にも力を入れていくつもりです。

 これから迎えたいのは「増えた社内業務をこなす人」ではなく「次の事業の柱を企画する人」 。RPAをうまく使えば、既存事業の業務量を減らしながら、新規事業に伴う業務増も抑えられると思うので、パーティションの次のヒット商品を、少数精鋭で仕掛けたい。その中で必須となるWebやExcelマクロに通じた新メンバーが、併せてRPAの自社開発にもチャレンジできるようになればと考えています。

――他の中小企業にも、ぜひRPA活用を勧めたいとのことでしたが、検討中の企業にメッセージをいただけますか。

 思い描いたような「魔法のじゅうたん」ではありませんでしたが、人がただ歩くよりずっと楽ができる、ちょうど「自転車」のようなツールがRPAだというのが私の感想です。

 目的地までのルートを決めるのは自分たちで、乗りこなすためには練習が必要。最初はある程度力をかけなくてはならないものの、いったん走り出せばときどき軽い力を加えるだけで遠くまで行けるという自転車の特徴は、中小企業のRPA活用にもそのまま当てはまるように思います。

 まだまだ練習中の当社に対する、ユーザックシステムからのRPA開発運用サポートは、ちょうど「補助輪」のような存在でした。「いきなり自走するのは難しそうだから」とあきらめず、まずは補助輪付きで乗ってみるというのも、一つの方法ではないでしょうか。

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