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Microsoft 365 Copilotを“日常使いのAI”に変える、「エージェント」とは?

Microsoft 365 Copilotは何でも頼める柔軟なAIだが、その自由度の高さが逆に活用の障壁となることもある。ユーザーのハードルを下げ、Copilotを「使いたくなるAI」に変えるのが「エージェント」だ。個人の活用が進めば、組織全体のAI活用にも広がる。

» 2025年09月26日 07時00分 公開
[太田浩史内田洋行]

 「Microsoft 365 Copilot」(Copilot)を使っているものの、「どのように指示を出せばいいか分からない」「使うたびに指示を考えるのは面倒」という声を聞く。負担になるのは、単に指示を入力するという手間だけではない。本質的な課題は「どんな作業をCopilotに任せるべきかを判断すること」だ。

 これは単なるプロンプト作成ではなく、自身の業務プロセスのどこにCopilotを適用すべきかといった、業務を見直す視点に近い。そのためにはCopilotをよく使い、Copilotが得意とするところやまだイマイチなところなどを肌感覚として身に着ける必要がある。しかし、何に使えばと悩む利用者にとっては、Copilotを使い始めること自体のハードルが高く、まさに鶏が先か卵が先かの問題になってしまっている。

著者プロフィール:太田浩史(内田洋行 エンタープライズエンジニアリング事業部)

2010年に内田洋行でMicrosoft 365(当時はBPOS)の導入に携わり、以後は自社、他社問わず、Microsoft 365の導入から活用を支援し、Microsoft 365の魅力に憑りつかれる。自称Microsoft 365ギーク。多くの経験で得られたナレッジを各種イベントでの登壇や書籍、ブログ、SNSなどを通じて広く共有し、2013年にはMicrosoftから「Microsoft MVP Award」を受賞。


「何でもできる」がCopilot活用の足かせに

 生成AIであるCopilotは、私たちの多様な指示に対して柔軟に振る舞うことが特徴であり、「何でもできそう」という印象を与える。しかし、その自由度の高さが逆に利用者にとってのハードルになる。自由度が高いということは、何をすべきかを自分で考える必要がある。そしてそれは、これまでの業務に加えて考える必要があり、それぞれの利用者にとっては少なくない負担に感じることもある。結果として「かえって手間や時間がかかる」と感じ、Copilotを利用しなくなるという本末転倒な状況に陥っている例もある。

図1 Copilotを業務で活用するには実際に試して特徴を理解することが大事だが、それぞれの事情で最初の一歩を踏み出せないユーザーも多い(出典:筆者作成の資料)

Copilot活用のハードルを下げる簡単な方法、それが「エージェント」

 そこで注目したいのが「エージェント」だ。エージェントとは、あらかじめ指示を設定し、特定の役割を担うCopilotアプリを作成できる機能だ。「この場合はこうしてほしい」「この作業はこう進めてほしい」といった指示をあらかじめ組み込んでおくことで、実際の業務で使うときは簡単な指示だけで済むようになる。毎回「何を頼むか」「どう頼むか」を考える必要がなくなり、Copilot活用のハードルを大きく下げることのできる仕組みだ。

 エージェントの利点は、用途をあえて限定することで、利用者にとって分かりやすくなることにあると筆者は考えている。「議事録作成」「英文翻訳」「人事規定の検索」などといった明確な役割を持たせることで、Copilot活用の第一歩を踏み出しやすくなる。もちろん既にCopilotを使っている利用者にとっても、エージェントを利用することで特定の用途を繰り返し何度も依頼しやすくなるメリットがある。

図2エージェントは、Copilotを特定の作業に特化させてラベル付けをすることで、利用者にとっても用途をイメージしやすく分かりやすくする仕組み(出典:筆者作成の資料)

会話を通じてエージェントを作成

 Microsoft 365 の「Copilot Chat」を利用しているユーザーであれば、すぐに自身のエージェントを作成できる。エージェントの作成方法もCopilotらしく、どのようなエージェントが欲しいかを会話で伝えるだけだ。すでに作り慣れているのであれば、構成から指示やナレッジなどをそれぞれ自身で直接入力した方がやりやすいという人もいるだろう。ここではいずれかの方法で、このエージェントが果たすべき役割や行動のルールやガイドライン、参照すべき情報を設定していく。特別なプログラミング言語なども不要で、使い慣れた日本語でそのまま設定ができるのはうれしい。

図3 チャットを通じてエージェントを作成できる。ここでは「ユーザーから送信された英語の文章全文を日本語に翻訳し返答する他、要点や趣旨を正しく理解し、内容に合わせた項目ごとに見出しをつけ整理した概要を作成し合わせて返答するエージェント」を作成してほしいと伝えた。要は文章を英語から日本語にするエージェントだ。(出典:筆者作成の資料)

一度作れば手放せない!エージェントの使いどころ

 そうして作成したエージェントは、Copilot Chatの利用時に呼び出して利用できる。あらかじめ基本的な指示は済んでいるので、あとは動作のきっかけや作業に必要な追加情報を与えるだけだ。いつも同じような作業をCopilotに依頼していた経験があれば、エージェントを作成しておくことで楽になることを実感できるだろう。

図4 エージェントを呼び出せば、簡単な指示だけで動作する。この翻訳エージェントは、元の英文を送るだけで日本語訳と要約を作成してくれた(出典:筆者作成の資料)

 また最近では、「Microsoft Outlook」や「Microsoft Word」「Microsoft Excel」「Microsoft PowerPoint」「Microsoft Edge」などのさまざまな場所で利用できるCopilot Chatからも同様に、エージェントを呼び出せる。例えば、言語翻訳に得意なエージェントを一度作成しておけば、Outlookでメールを読むときや、Edgeで英語ページを読まなければならないときなど、ツールを切り替える必要なくすぐに利用できる。

図5 エージェントは、さまざまな場所のCopilot Chatから呼び出すことができる。作成した翻訳エージェントをOutlookから呼び出せば、英語のメールを即座に翻訳、要約してくれる(出典:筆者作成の資料)

エージェントは“共有”で真価を発揮する

 社内でのCopilot活用を推進する上で最も重要なポイントは、エージェントの活用方法を共有することだ。Copilotを利用した便利さは個人の業務に閉じがちだ。「メールの下書きを作成させた」「議事録を作成させた」という使い方は、使っている本人は便利でも、他の人からはイメージしづらいこともある。

 しかしエージェントは、そうした個人が感じた便利さを、誰でも容易に再現、共有できる。「Copilotで英語の文章を翻訳してもらったら便利だったよ」と使い方を教えるよりも、エージェントを共有し簡単な使い方さえ伝えれば、すぐにその効果を体感できる。そこで興味や関心を持ってもらえればしめたものだ。さらに活用したいというモチベーションを生むきっかけになるだろう。

図6 個人が作成したエージェントは数ステップの手順で同僚や部内などで共有できる。他の人にも役立つようなエージェントや、これからCopilotを使い始めたいという人が気軽に試せるエージェントなどを共有すると効果的だ(出典:筆者作成の資料)

 エージェントを共有するには、共有範囲を設定しURLを作成するだけだ。共有範囲を組織全体としたようなものは、会社全体で共有している「Microsoft Teams」のチャネルや「Microsoft Viva Engage」のコミュニティーなどにURLを投稿しておけば、誰でもそのエージェントをCopilot Chatに取り込んで利用できるようになるだろう。

 社内で作成されるエージェントを組織的に管理し、将来的に機能強化や用途を拡大したい場合は、「Microsoft Copilot Studio」(Copilot Studio)を利用するといいだろう。本来 Copilot Studioの利用には別途専用のライセンスが必要になるが、Microsoft 365 Copilotのライセンスには、Copilot Studioの一部機能の利用権が与えられている。全ての機能を利用できるわけではないが、Microsoft 365 Copilot内での利用に限定しエージェントを作成できる。

小さな一歩が大きな変化に エージェントで始めるAI活用

 社内のCopilot活用を推進し業務に定着させるには、まず「使ってみる」ことが不可欠だ。しかし、何から始めればいいか、何を頼めばよいか分からないというハードルは高い。それを乗り越える一つの方法として、エージェントが有効だ。

 エージェントは単なる便利機能ではなく、Copilot活用の第一歩を踏み出すためのきかっけであり、さらには組織全体に活用を広げるための仕組みでもある。個人の工夫をエージェントという形にして共有すれば、誰か一人の知見が同僚や部門、そして会社全体に広げられる。これは、Copilotを個人のツールから組織の力に変える大きな一歩につながる。

 まずは、よく行う作業を選び、それをエージェントにしてみよう。ほんのささいな業務でも構わない。筆者が初めて作ったエージェントは、キーワードを幾つか与えると、朝礼のスピーチの流れを考えてくれるというものだった。そんな小さな一歩が、Copilot活用の大きな推進力になる。

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