「BI使いこなしまくり」のカブドットコム証券は「データの前処理」ツールも使いこなしまくっていた(2/2 ページ)
カブドットコム証券は業務分析に主要なセルフサービスBIツールを使いこなす。その中でも分析前の「もやっとした」情報にも使いやすい前処理ツールがあるという。活用例を紹介する。
ファイルサーバにある大量コンテンツ全てのアクセス権の可視化
カブドットコム証券社内には20年も稼働したファイルサーバーがあり、ファイルとフォルダは数万件におよび、アクセス権の付与状況の把握が困難だった。コンプライアンス面を考慮してファイルサーバー管理ツールを使った権限確認が可能な状況を整備したのだが、操作が複雑で時間がかかるのが課題だったという。
そこでIT部門に依頼してファイルサーバ管理ツールのデータをCSV形式で取得して把握する方法を試みたが、アクセス権の付与状況を簡単に把握するのは難しかった。ところが同じデータをPrepに渡すと、権限設定情報、セキュリティグループへの権限設定状況、フォルダへの権限設定状態を簡単に整理して可視化できた。
セキュリティグループごとのビューの表示、項目のドリルダウンなど、Tableauユーザーにはなじみのある使い勝手でファイルビュワーのように使える仕組みができた。その作成にかかったのは1〜2日程度。「サクサクと作れた」とのことだ。
事例2 ビジネスチャットのログ分析
Prepはデータ準備に使えるツールだが、用途によってはTableau Desktopで調整してからPrepにデータを渡した方が効率が良いケースもあるようだ。Slackの監査ログの分析の場合がその例だ。
同社は数年前からビジネスチャットツール「Slack」を利用している。Slackのメッセージ監査を行うには、サービス提供元のSlackにログ取得申請を出す。Slackが開示するログデータは約2万のJSONファイルだ。ファイルは多数のフォルダに分かれている状態だ。
当初、Prepで処理したところ、データ数が多いことから処理に時間がかかった。このように時間がかかるデータは、一度Tableau Desktopで読み込んでしまうことで以降の処理を高速化できる。2万ファイルのデータを読み込でしまえば、あとはhyper形式(Tableauの高速分析エンジン「Hyper」に対応するファイル形式)の1つのファイル(=データベース)に落と込める。これをPrepに渡せば処理はスピードアップする。
時系列に整理されたデータからは、誰と誰がどのようなメッセージをやり取りしていたかなどのチャットツール利用状況が簡単に把握可能になった。この方法はなかなか気付かないかもしれない。ツールの併用と少しの工夫で時間短縮が可能になった好例だろう。
事例3 タスク時間管理アプリとTableauを連携させた生産性向上も
カブドットコム証券はPrepだけでなく、Tableauそのものを使った業務改善も実践中する。プロジェクトごとに誰がどのくらいの作業時間を割いているかを明確化する試みだ。具体的にはストップウォッチのように作業時間を記録するアプリ「toggl」の記録をTableauで分析し、プロジェクトごとの実作業時間を把握する。
そのデータをTableauに渡せば、簡単にプロジェクトごとの実績所要時間やカテゴリー別の分析が可能だ。働き方改善のヒントを得るツールとしても活用している。
同様に「Office 365」の「MyAnalytics」などを使えばさらに詳細な就業状況データも取得可能だろう。スマートフォンの測位情報を使えば「位置データ」も同様に取り込める。
この延長上の仕組みとして「会議の準備フローのどこにどれだけの時間がかかっているか」を視覚化する試みも進める。準備フローそのものはワークフローツールでフローイメージを描き、その上にTableauから所要時間(計測された実時間)を、フロー図上の各ブロックに専門性ごとに色分け(5段階)し、時間数に応じてサイズを連動させた円を重ねて表示するようにした。気になる部分をクリックすれば詳細が表示され、改善点の検討に役立つ。
事例4 各地の情報をPrepで一元化して高速分析できるように
都道府県別の売上や明細を記載したExcelファイルの内容を可視化したいという要望に応えるため、ExcelデータをPrepで統合、整理して、Hyperで高速処理した事例もある。
同社の各拠点から送られてくる大量のExcelファイルにはそれぞれ多数のシートが含まれる。全てのファイルの情報を統合して集計した結果を「3日後に欲しい」とリクエストされることもあるという。
対象とするExcelファイルが「あまりに大量かつ複雑なデータなのでPrepで処理可能かどうか心配したが、やってみたらできた」(石川氏)
「データソースが汚いものほど、基本はPrepで処理すべき」「ファイルI/O負荷を考慮してデータを渡すこと」など、製品の特性による注意点は幾つかあるが、Prepのように前処理に特化したツールは、業務部門のセルフサービスBIユーザーにとって、必要不可欠なものだ。今後も多様なユースケースが出てくることだろう。
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