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「デジタル庁」発足と「縦割り廃止」で日本はどうなる? 2030年を描いた提言を読んだ編集部コラム

デジタル庁発足で日本のDXは進むでしょうか。2030年、デジタルネイティブ世代が30代になるときに、日本の社会はどうなるかをシミュレーションしたレポートから、いま取り組むべき課題やヒントとなる記事を紹介します。

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 2020年9月16日に菅内閣が発足しました。ITに関わる皆さんにとっては「デジタル庁」の設置や「規制改革を伴う縦割りの打破」といった新内閣の方針がどんな内容になるかが気になるところではないでしょうか。

 もともとこの数年は電子政府化を目指した官民データ活用推進基本法や「デジタル・ガバメント推進方針」に基づく各種法改正が進んでいました。その結果、「デジタル手続き法」などに基づき、すでに幾つかの行政手続きはオンライン化が実現しつつあります。

2030年の日本にはオフィス住所登記のない企業が存在する?

 この3カ月ほど前の2020年6月には自由民主党政務調査会デジタル境推進特別委員会が年次の政策提言である「デジタル・ニッポン2020」を発表していました。過去の「eJapan構想」のころから毎年発表している提言とのことで、時事的なトピックも多く含まれています。

 2020年の提言の「プロローグ」には、今から10年後、2030年の日本の姿が示されています。たった10年先ですが、そこに見えるのはなかなか厳しい現実です。2030年、インターネット普及の恩恵を受けた第一世代は50代を迎え、30代になったスマートフォン普及後の「デジタルネイティブ」世代が社会や経済を引っ張る立場になります。その一方で、団塊の世代がリタイアし、人口の3分の1が高齢者になります。加えて大規模な感染症流行のサイクルを考えると、ちょうどこの時期に今回の新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の流行と同様のパンデミックが発生すると考えられているようです。

 デジタル・ニッポン2020は、この前提条件の下で2030年のあるべき社会をさまざまな角度から示しています。例えば、今回のコロナ禍をきっかけに本格化したテレワークの体制は、次のパンデミック対策として今後も維持が必要と考えられています。またテレワークの利用が拡大した場合には「企業が『本社』として住所を登記する必要性があるか」という問題も提起されており、制度見直しでは「バーチャル企業の概念等」の導入を検討する旨が示されています。現在、既に下記関連記事などのように、拠点を分散して対面を伴わない事業運営を主とする企業や、有事の事業継続計画の中でオンラインで業務をこなす「バーチャルオフィス」を用意する組織が現れ始めています。

 今回のコロナ禍を受け、日立製作所や富士通といった国内の名だたる企業がテレワークを前提にワークスタイルを見直したことは、大きな話題となりました。自治体では、東京都の副知事である宮坂 学氏が、2020年8月28日、自身のTwitterアカウントで「物理都庁に加えデジタル空間にもう一つの都庁をつくる。そこは職員が働く場所であり都民が行政サービスを受けられる。リアル一極集中からリアルとデジタルの分散化へ。この方針が本日決まりました」と表明し、注目を集めました。

デジタルネイティブ世代が喜ぶ「昭和の心地よさ」とDXのワナ

 さて、このデジタル・ニッポン2020では、行政サービスのデジタル化を前提に、インターネットアクセスを国民の基本インフラの一つとしています。政府のDX推進は、全国民がどんな環境下でもオンラインで情報収集や手続きができることと表裏一体のものとして整理されているわけです。

マイナンバーカードとスマートフォンは行政サービスを受ける基本インフラに

 オンライン医療やオンライン授業の普及に向けた環境整備も提言されていますが、これらも全国民がインターネットにアクセスができることが前提です。これらの施策については5Gやその次の通信規格に即したインフラ整備に注力する旨が示されています。これらをどう全ての国民に行き渡らせるのか、具体策はまだ明らかではありませんが、今後通信インフラに大きな改革があるのかもしれません。

 政府のDXの先には、マイナンバーカードとスマートフォンさえあれば、確実に各種行政手続きや行政サービスをオンラインで受けられる、といった便利な未来が描かれています。

過渡期の不便で時代を巻き戻さないために

 しかし、こうした未来を実現する課程には非常に多くの困難が待ち構えています。例えば現行法を一つずつ、地道な手続きを踏んで改正していく必要があります。また、自治体や管轄省庁、事業単位でさまざまなシステムを個別に使ってきたことから、行政機関が抱えるデータをDX以前にどうサイロから脱出させるかも問題になります。マイナンバーで一部の情報は整備されたものの、住民氏名の外字を含む情報をどう一元化するかといった、地味ながら核となる技術的な問題はあちこちで残っているようです。場合によっては政府や自治体などのDXは10年がかりの巨大プロジェクトになるのかもしれません。

 DXは即日で実行できるものではなく、長く地味な準備期間が必要です。過渡期にはサービス利用者側に不便を強いるケースもあるでしょう。

 例えば身近な例では、電子帳簿保存法は何度かの改正を経て、ようやく電子的な領収書データの保管のみが許されるようになりました(関連記事:2020年10月の電子帳簿保存法改正で経理の業務はどう変わるか)。それまでは電子データと原本の両方の保管が求められたため、一時的に申請者側の手続きが煩雑になるケースもあったかと思いますが、その過渡期を突破した2020年10月からは、非常に効率の良い手続きが可能になるはずです。

デジタルネイティブ世代の時間感覚

 これからしばらく、デジタル化その先のDXを推進するための法改正が続くことが予想されます。全ての法整備が完了するまでの間は、電子帳簿保存法の過渡期と同様に、行政手続きでも同様のことが発生するかもしれません。それでもやみくもに「不便だから元に戻せ」というのでは昭和に逆戻りするだけです。平成の30年間を昭和のまま過ごした私たちは大いに反省して前に進まなければなりません。

 デジタルネイティブ世代はフィルムカメラやアナログレコードを好む傾向にあるそうです。私たちが携帯電話の電波が届かない山や島でのんびりしようと思うように、彼らは自身が直接体験したことのない昭和のライフスタイルの不便さを「ゆっくりした時間」として楽しむのだといいます。そのくらい、彼らの情報処理のスピードは昭和世代とは異なるのですね。昭和に戻ることなく、2030年にはうんと便利になるんだと信じてDXの推進を見届けたいと思います。

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