人事・人材管理システムの利用状況(2021年)/後編
オフィスでの勤務が中心だったコロナ禍以前は、物理的に接していたため、働きぶりや就労状況がある程度は把握できてはいたが、テレワークを中心とした就労環境にシフトすると、それが一気に“見えなく”なった。それによって、企業は新たな人事問題に直面している。
キーマンズネットは2021年2月15日〜3月5日にわたり、「人材管理/人事管理」に関するアンケートを実施した。全回答者数83人のうち製造・生産部門が31.3%、情報システム部門が27.7%、総務・人事部門が10.8%、営業・販売部門が6.0%などと続く内訳であった。従業員規模での分類では、100人以下が25.3%と最も多く、次いで101〜500人が20.5%、501〜1000人が19.3%、1001〜5000人が15.7%と続いた。
今回は企業における人事・人材管理についての「現状課題」や「対策状況」を調査した。なお、グラフ内で使用している合計値と合計欄の値が丸め誤差により一致しない場合があるので、事前にご了承いただきたい。
非対面になったことで人事が一番頭を抱えていること
前編では、2019年に実施した同様の調査結果と比較して、この2年間で人事系SaaS(Software as a Service)の利用が伸び、既存システムのリプレースを検討する企業は「ワークスタイルシフトへの対応」や「従業員満足度向上」を目的としていることなどについて触れた。後編では、「人事課題」にフォーカスし、コロナ禍における人事、労務管理や採用、育成を含めた、企業における課題に関する調査結果を紹介する。
まず、全体に対して、人事、人材管理における現状の課題はどこにあるかと尋ねた項目では、「人材の育成が困難になった」37.3%、「従業員満足度やモチベーションが低下した」「従業員の健康管理」が同率で30.1%、「テレワークによって個人の実績評価が難しくなった」26.5%、「離職率が高まった」18.1%、「求人への応募が減った」14.5%と続き、その他の意見では「コミュニケーション不足」が挙がった(図1)。
この結果を2019年6月に実施した同様の調査と比較したところ、前回は人材確保や従業員の満足度低下を課題に挙げる割合が高い傾向にあったが、今回は人材育成や評価、モチベーション管理などに課題がシフトした。テレワークなど働き方の多様化に対応する必要性が増したため、これまで物理的な対面コミュニケーションによって人材育成や人事評価を行ってきた企業において、メンバー評価者が新しい人事課題と向き合わざるを得なくなった結果とみられる。
約6割の企業で人事課題に対して「有効な手が打てていない」
前項で紹介したコロナ禍によって生じた現状課題に対して、各社はどのような手を打っているのだろうか。
次に、対策状況について尋ねたところ、「特に対策はしていない」が42.2%、「対策に向けて調査中」が20.5%と、約6割の企業でいまだ有効な手が打てていない状況が見て取れる(図2)。一方で対策を進めている企業の施策としては「管理組織の変更」15.7%、「休暇制度やインセンティブ制度の拡充」14.5%、「目標管理制度の導入」13.3%などが上位に続いた。
コロナ禍の影響により半ば強制的に対応せざるを得なくなったため、テレワーク環境の構築に時間や予算を要し、その先のテレワーク環境下における人事課題にまで目を向けられていなかった結果ではないだろうか。
PCなどの業務端末の準備やネットワーク環境の整備、セキュリティの運用設計など、テレワークの環境構築といっても相応の時間と予算を投下せざるを得ない。また優先度の高い突発的な対応であったことも考えると関連部門には相当な負荷が掛かっていたことだろう。こうした状況を鑑みると、テレワーク環境の構築が一段落したことで、より顕在化したコミュニケーションや管理制度の人事課題に、今まさに直面しているという企業も一定存在するのではないかと推測できる。
サービス残業の“見えない化”に人材の最適配置、今、直面している人事の課題
全体に対して、労務管理や採用、育成を含めた人事にまつわる現場の課題を尋ねたところ、大きく分けて3つに整理できる。
1つ目は人事、労務管理面で「テレワークに合った勤務管理システムを利用しているが、業務実態と合っているのかが分からない」「テレワーク中の勤務状況の可視化」といったリモート環境下における勤怠管理における課題だ。特に「体調や精神状態など、対面で接していたから分かっていたことが、在宅勤務だと見えなくなった」「在宅中の勤務状況は本人の報告を信じるしかない」といった声にみられるような、就労環境の変化によって表出した悩みが目立った。
2つ目は人材採用、育成の観点で、「リモート面接で、カメラに映る表情や態度だけで判断するのが難しい」や「テレワークにより育成スピードが鈍る」「非対面でのOJT」といったリモート環境によって生まれた課題に関する意見だ。他には「人員計画が存在せず、場当たり的な採用に頼っている」「育成方法、ノウハウの伝授方法に乏しい」など組織、人事戦略が行き届いておらず、採用や育成に問題が頻出しているケースもあった。
そして3つ目は人材管理面で「配属先のマッチング率や離職率」「人員配置の最適化」を課題に挙げる声だ。背景には「職種がさまざまで、統一した基準を作れない」「個人のパフォーマンスを客観的に評価する方法が見つからない」といった成果管理や評価がうまくできていないといったケースや「能力や特性の把握がこれまでは紙やExcelベースでの管理だったが、コロナ禍にきてそれが限界にきている」「人材データが管理されていない」など、従業員のスキルや実績、指向性などのデータ管理が不十分なようだ。中には「人材管理という考えを持った人がいない」「社長の独断で異動がある」といった、根深い課題を提起する声もあった。
新しい生活様式、新しい経済環境に対応するため、企業は変化を迫られている。一方で、過渡期だからこそ未来を見据えた組織、人事戦略を実行することで、競合優位につなげられる可能性もあるだろう。今回挙げられた人事、人材課題を参考に、いま一度自社の組織戦略や運用を見つめ直すきっかけにしてもらいたい。
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