帳票類のデジタル化の状況(2022年)/前編
帳票の利用状況に関して調査したところ、きん差で紙管理が過半数となっていることが分かった。なぜ企業は帳票の紙管理をやめられないのか? その理由を探る。
キーマンズネットは2022年2月2〜18日にわたり「帳票の利用状況に関するアンケート」を実施した。全回答者数299人の内訳は、情報システム部門が31.4%、営業/営業企画・販売/販売促進部門が17.1%、製造・生産部門が14.0%、経営・経営企画部門が9.0%などだ。
今回は主に“紙”で帳票管理を実施している企業の「理由」や「帳票の種類」「不満」などを調査した。最終的な帳票管理方法として現状は“紙”管理が50.7%とわずかにデジタル管理を上回っていることなどが明らかになった。
94.2%がデジタル化に着手も、やっぱり“紙”が過半数
はじめに業務で利用している帳票の管理形式について聞いたところ「部分的にデータ化しているが、紙に出力して管理している」が44.9%、「部分的にデータ化しており、紙はスキャンしてデータ化して管理している」が39.6%、「全てスキャンしてデータ化しており、データのまま管理している」が9.8%、「全て紙で運用し、紙で管理している」が5.8%となり、まとめると全体の94.2%で“部分的”にでも帳票のデジタル化を実施済みであることが分かった(図1)。
一方、最終的な帳票管理形式はデータか紙かで二分している状態で、現状50.7%とわずかに“紙”管理が上回っていた。一体その理由はなぜなのだろうか?
背景を探るべく、紙で管理している帳票の種類を調査したところ「契約書などの法務案件に関わる書類」(80.7%)、「受注・発注・納品などの商取引に関わる書類」(72.8%)、「会計・経理に関わる帳簿類」(61.4%)などが続いた(図2)。
この結果を2021年2月に実施した同様の調査と比較したところ「自社経理向けの提出書類」が12.3ポイントと大きく減少した一方で、「会計・経理に関わる帳簿類」が7.2ポイント増加したことが分かった。新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の流行でテレワーク対応が続いていることやDX(デジタルトランスフォーメーション)推進といった社会的なデジタル化の潮流もあり、自社の経理向けの提出資料や社内承認プロセスなどをデジタルで運用するフロー構築が進んでいる半面、会計や経理に関わる書類を中心にまだまだ“紙運用”が残っている業務もあるようだ。
電帳法改正で“法的縛り”は減少、なぜ紙管理を続けるのか?
法改正によって「紙での保存」が見直されつつある。その中でも過半数が紙帳票で管理を続ける理由は何か。
帳票を「全て紙で管理」「一部を紙に出力して管理」と回答した方にその理由を聞いたところ、「業務運用ルールで紙にファイリングすることになっているため」(49.1%)、「承認印の記録が必要なため」(36.8%)、「取引先が紙でのやりとりを希望しているため」(31.6%)が上位に挙がった(図3)。
この結果を2021年2月に実施した前回調査と比較したところ、電子帳簿保存法改正の影響もあってか「法律により、紙での保存を義務付けられている帳票があるため」が19.5ポイントと大幅に減少した。関連して「承認印の記録が必要なため」も10ポイント近く減少していた。
一方、割合がほぼ変わらなかった項目では「業務運用ルールで紙にファイリングすることになっているため」や「取引先が紙でのやりとりを希望しているため」で、増加していたのは「データ化するための予算がないため」と「手書きの書類が残っているため」だった。この結果からテレワーク対応やDX推進、電子帳簿保存法の改正を追い風に“帳票のデジタル化”の有効性や必要性の認知は広がり一部対応が進められているものの、取引先がデジタル対応できていないことや予算不足から取り組みが進みにくく、完全にデジタル移行するに至っていないという現状が見て取れる。
前回調査記事はこちら
前回調査から続く紙運用の“3大不満”
フリーコメントにも紙運用での苦労や不満が寄せられた。前年から傾向は変わらず「保管場所」「検索性」「ファイリングコスト」の3つに集中している。具体的な声を見ていくと、保管場所については「社内規定で書類の保存年限が決められており保管場所に苦労している」や「保存に場所をとる。物理的な移動が必要なので決済が遅い」などがあり、検索性については「検索がしにくいため探すのに時間を要する」や「監査時など原紙を提出する際に準備に膨大な時間を要する」が挙がった。検索性には保管場所も関係しており、保管場所が複数に分散されている場合は決済スピードにも影響するケースがあるようだ。
ファイリングコストについては「在宅勤務が増えてきたが紙を扱う業務では出社が必要になる」や「誰かがPCで作成したものを紙で受け取ってシステムに入力しているため、PC入力が2度必要」「新旧書式などが統一されにくい」といった不満があった。紙文書を仕分けする人的コストはもちろん、人に依存するため、緊急事態宣言下などでのテレワーク対応がしにくかったり、書式や管理方法が統一されづらかったりといったリスクもあるようだ。他にも「データ活用ができず業務効率化のネックとなっている」といった声も多数寄せられた。
「全てデータで管理」「最終的にデータ化して保管」とした回答者に、帳票をデジタルで管理する理由を聞くと「書類保管スペースに関わるコスト削減」(63.1%)や「紙の出力などに関わるコスト削減」(48.4%)などが続いた。“紙運用の不満”で挙げられた3つの課題を解消するための理由が続いていることが分かる(図4)。
後編では、帳票をデジタル管理している方の回答結果を中心に取り組み背景や運用の実態を紹介したい。また2021年末に突如電子帳簿保存法の2年宥恕(ゆうじょ)が発表されたことへのリアルな反応についても触れていこう。
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