COBOL 4000万行をAIが解析 レガシー刷新は「数年」から「数カ月」へ
レガシーシステムの刷新は、現状調査や依存関係の整理だけでも膨大な工数がかかる。AWSは、こうした作業をAIエージェントで自動化する「AWS Transform」を提供している。VMwareやメインフレーム、Windowsの移行はどこまで短縮できるのか。
老朽化したシステムの維持に人員と予算を取られ、DXや生成AIの活用に手が回らない。こうした状況から脱するにはレガシーシステムを刷新する必要があるが、その作業自体にも多大な時間とコストがかかる。
特に厄介なのが、長年使われてきたシステムの現状把握だ。膨大なコードを読み解き、アプリケーション間の依存関係や業務ロジック、アクセス権限を洗い出した上で、安全な移行計画を立てなければならない。仕様書が残っていなかったり、システムを理解する担当者が退職していたりすれば、調査だけでプロジェクトが停滞することもある。
では、こうした人手に頼ってきた作業をAIエージェントに任せれば、レガシー刷新はどこまで短縮できるのか。AWSが公開した事例では、数年がかりとされてきたメインフレームの刷新期間を数カ月に短縮したほか、アプリケーションの調査時間や移行計画の作成工数を大幅に減らしたケースもあるという。
仕様書も担当者もいない――AIはレガシー刷新の「どこ」を引き受けるのか
アマゾン ウェブ サービス ジャパンのソリューションアーキテクトである石橋香代子氏は、現在、多くの日本企業が老朽化したレガシーアプリケーションやインフラを技術的負債として抱えていると指摘する。
こうした状態から脱し、より多くのリソースをDXやAI活用といった「攻め」のIT施策に投じるため、各社はシステムの移行やモダナイゼーションに取り組んでいる。
石橋氏は、これらの変革を実現する上ではクラウドの活用が欠かせないと語る。Foundryの調査レポート「Cloud Computing Study 2025」では、71%のIT意思決定者が、クラウドの機能によって過去1年間に持続的な売り上げ増加を実現できたと回答した。また、66%が今後12カ月間にクラウドベースのAIサービスへ投資する予定だとした。
同氏によるとクラウド移行への道のりは、「Assess」(評価)、「Mobilize」(準備)、「Migrate&Modernize」(移行とモダナイゼーション)という3つのフェーズで構成される。まず評価フェーズで各種の調査を通じて変革の根拠を明確にし、次に準備フェーズで計画立案やPoC(概念実証)を進める。その上で、マイグレーションやモダナイゼーションを実行し、大規模な変革を加速させていく。
重要なのは、技術的負債を解消すること自体を最終目的にしないことだ。移行やモダナイゼーションによって生まれた余力を新たな施策へ再投資し、効率化とイノベーションのサイクルを回すことで、組織の競争力につなげる。
「私たちが目指しているのは、技術的負債をただ返済するだけでなく、返済によって浮いた余力を競争優位へと変えていくことです。戦略的なマイグレーションと継続的なモダナイゼーションに取り組み、そこから得られた余力を再投資へ回す。この効率化とイノベーションのサイクルを回すことで、組織運営を変革できるのです」(石橋氏)
このサイクルを加速させるためにAWSが提供しているのが「AWS Transform」だ。AIエージェントを使い、大規模なマイグレーションやモダナイゼーションに伴う調査や計画、文書化、コード変換などを自動化する。講演時点では、世界の企業で135万時間の手作業を削減し、26億6000万行のメインフレームコードを分析した実績があると石橋氏は説明する。
VMwareとメインフレームの移行作業をAIで自動化
AWS Transformは、対象となるシステムや用途に応じた機能を備えている。その一つが、VMware環境の大規模な移行を支援する「AWS Transform for VMware」だ。同サービスは、VMware環境の構成やアプリケーションの依存関係を調べ、移行単位の計画作成やランディングゾーンの作成、ネットワーク設定の変換、Amazon EC2のインスタンス選定などを支援する。
「アセスメントから移行計画、ランディングゾーンの作成、ネットワーク変換へと至る一連の移行プロセスを、AIエージェントがスムーズに連携させます。適切なサイジングによってコストとTCOを削減し、専用のAIエージェントがコンテナなどへのリプラットフォームも後押しします」(石橋氏)
AWS Transform for VMwareの活用事例として、石橋氏はオーストラリアのバイオテクノロジー企業CSLを紹介した。同社は、30カ月で17カ所のデータセンターから撤退するという目標を掲げ、AWS Transformを移行計画の策定などに活用している。AWSが公開している事例によると、1072のアプリケーションを対象とした初期の移行計画作成を10倍に高速化し、運用コストも約30%削減できる見込みだという。
一方、老朽化したメインフレーム資産のモダナイゼーションも、多くの企業にとって悩みの種となっている。この領域では「AWS Transform for mainframe」を使うことで、初期分析や技術文書の作成、業務ロジックの抽出、コードの分割、移行計画の策定、コードのリファクタリングといった一連の作業を支援できる。
AWS Transform for mainframeは、「リファクタ」「リイマジン」(再構築)、「リプラットフォーム」といった移行パターンに対応し、一部の工程を自動化する。
「メインフレームのモダナイゼーションはこれまで、数年がかりの困難なプロジェクトとされてきました。しかし、AWS Transform for mainframeを用いることで、複数の移行パターンに対応し、その期間を数カ月へと大幅に短縮できます」(石橋氏)
Toyota Motor North Americaでは、4000万行を超えるCOBOLコードを解析した。講演によると、AIエージェントによる分析を通じて検討・計画のプロセスを75%高速化するとともに、COBOLコードから業務知識を抽出する時間も90%短縮したという。
SAPとWindowsアプリケーションも刷新の対象に
SAP製品の移行も、多くの企業にとって頭の痛い問題だ。SAPは「SAP Business Suite 7」のコアアプリケーションについて、メインストリームメンテナンスを2027年末に終了する予定だ。追加料金を伴う延長保守は2030年末まで用意されているものの、利用企業は移行計画を具体化する必要がある。
SAPとAWSは、既存の大規模なSAP環境をクラウド化する企業向けに「RISE with SAP on AWS」を、新たにクラウドERPを導入する中堅・中小規模の企業向けに「GROW with SAP on AWS」を提供している。
エンタープライズITで大きな割合を占めるMicrosoft製品ベースのシステムについても、「AWS Transform for full-stack Windows modernization」を使ったモダナイゼーションの手段が用意されている。
同サービスは、Windowsアプリケーションの各レイヤーを個別に変換するのではなく、依存関係を踏まえて一貫してモダナイズする点が特徴だ。
「.NETのコードやUIフレームワーク、『SQL Server』、さらにはデプロイ環境に至るまで、フルスタックのWindowsアプリケーションをモダナイズすることに特化しています。エージェンティックAIを活用することで、システムスタック全体のモダナイゼーション作業を最大5倍に高速化できます」(石橋氏)
例えば、「.NET Framework」で構築されたアプリケーション層をクロスプラットフォーム対応の新しい.NETへ変換したり、データベースをSQL Serverから「Amazon Aurora PostgreSQL-Compatible Edition」へ移行したりできる。変換後のアプリケーションは、「Amazon Elastic Compute Cloud」(Amazon EC2)のLinux環境やAmazon Elastic Container Service(Amazon ECS)などに展開できる。
情報サービス企業のThomson Reutersは、保守に多くのコストと時間を費やしていた.NETアプリケーションのモダナイゼーションにAWS Transformを活用した。AWSが公開している事例によると、同社は毎月150万行のコードを変換し、モダナイゼーションを従来の4倍に高速化した。数カ月かかっていたアプリケーションの変換を2週間のスプリントに短縮し、WindowsからLinuxへの移行によってコストを30%、技術的負債を50%削減したという。
Thomson Reutersの担当者は、AWS Transformが「自分たちのチームの延長」のように機能し、継続的に学習と最適化を重ねながら移行を後押ししたと評価している。
企業が独自に開発したアプリケーションも、技術的負債の温床となりやすい。そこでAWSは「AWS Transform custom」を通じ、組織固有のコードやアプリケーションのモダナイゼーションを支援している。
AWS Transform customでは、「Java」「Python」「Node.js」のバージョンアップなどに対応するAWS管理のビルトイン変換に加え、自然言語や参照資料、コード例を基に、組織固有のカスタム変換を定義して複数のコードベースへ適用できる。コード分析や技術文書の生成、エージェンティック対応度分析、モダナイゼーション準備度分析なども用意されているが、このうち一部の分析・変換機能は早期アクセスとして提供されている。
ツールだけではレガシー刷新は成功しない
ここまで紹介してきたAWS Transformの各種機能によって、レガシーシステムのマイグレーションやモダナイゼーションを実行するための道具はそろいつつある。しかし、ツールを導入するだけでモダナイゼーションを成功させられるわけではない。前提となるのは、自社が保有するシステムやリソース、ライセンス、アプリケーション間の依存関係を正確に把握することだ。
「モダナイゼーションを成功させるためには、正確な現状把握が欠かせません。AWSが無償で提供している『AWS Optimization and Licensing Assessment』を利用することで、実際のリソース利用状況やサードパーティー製品のライセンス、アプリケーションの依存関係などを分析し、コストとライセンスの最適化を図ることができます」(石橋氏)
ここで得られた分析結果を基に、大規模な移行プロジェクトを支援する仕組みとして「AWS Migration Acceleration Program」(MAP)も提供されている。「評価」「準備」「移行とモダナイゼーション」という3つのフェーズに沿って、AWSやパートナー企業の支援、ツール、ベストプラクティスなどを利用し、クラウド移行の加速とリスク低減を実現するという。
さらに、AWSの「Migration and Modernization Competency」を取得したパートナー企業の支援を受ける選択肢もある。日本国内でもクラスメソッドやアイレット、サーバーワークスなど、AWSに関する技術的知見と移行実績を持つ企業がエコシステムを形成している。
石橋氏はセッションの最後に、技術的負債を単に解消すべき問題として捉えるのではなく、その後の競争力につなげることが重要だと強調した。
「技術的負債を、ただ返すだけのもので終わらせてはいけません。エージェンティックAIの力を最大限に活用することで、より速く、より低リスクで、より低コストに、技術的負債を競争力へと変えていくことができます。AWSと強力なパートナーエコシステムとともに、皆さまのクラウドジャーニーとモダナイゼーションの第一歩を踏み出していただければと思います」(石橋氏)
もっとも、AIエージェントがどれだけ作業を肩代わりしても、出発点になるのは自社システムの現状をどこまで正確に把握できているかだ。ツール導入の前に問われるのは、その一点かもしれない。
本稿は、「AWS Summit Japan 2026」(2026年6月25~26日)におけるアマゾン ウェブ サービス ジャパンの石橋氏の講演「技術的負債を競争力に変える:マイグレーション&モダナイゼーション」を基に編集部で再編集したものだ。
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