KDDIの新サービスは、なぜパブリッククラウドサービスを採用したのか。プロジェクト責任者と開発担当者に選定事情を聞いた。
電力の小売り自由化を機に、さまざまな企業が独自サービスを開発、顧客囲い込みをねらっている。その中の1社であるKDDIは、移動体通信サービスauのユーザー基盤を生かし、「auでんき」サービスを提供している。このサービスのバックエンドに選んだのがAmazon Web Services(AWS)だったという。
2016年6月1日〜3日、グランドプリンスホテル新高輪 国際館パミール(東京・品川)を会場に、アマゾンウェブサービスジャパン主催によるイベント「AWS Summit Tokyo 2016」が開催された。
6月1日は「Enterprise Day」と銘打たれ、企業におけるAmazon Web Services(AWS)の導入事例や、エンタープライズ用途を前提としたAWSの最新技術の紹介などが行われた。
本稿ではそれらの中から、「エグゼクティブトラック」に登壇したKDDI商品・CS統括本部サービス企画本部長 中桐功一朗氏らによる事例セッション「KDDIの新規事業「auでんき」をクラウドスピードでサービスイン」の内容を紹介する。
2016年4月からの電力小売の完全自由化に伴い、KDDIも新サービス「auでんき」で電力小売市場に新規参入した。同社の個人向け通信サービスであるauの既存ユーザーを中心に、全国に張り巡らせたサービス網や分かりやすい料金体系、auのケータイやスマホとセット利用した場合のキャッシュバックサービスなど、他社にはないさまざまな特徴を打ち出した電力ビジネスを展開している。
このauでんきの目玉サービスの1つが、「auでんきアプリ」と呼ばれるスマホアプリだ。
中桐氏は、このauでんきアプリについて、「電気は社会インフラとして、当たり前のように毎日使われている。しかし、その供給は目に見えないもの。ユーザーが電気を使っていることについて、身近に感じる機会は少ない。そこでアプリを使って電気の利用量をリアルタイムで可視化し、お客さまにより電気を身近に感じてもらおうと考えた」と説明する。加えて、「ポイントサービスを提供することで、周辺サービスを利用して――例えば省エネグッズのポイントプログラムからの購入を促進するなど、アプリを通じて省エネ生活をサポートする」とその付加価値を示した。
この仕組み全体では、auの顧客情報はもちろん、スマート電力メーターの情報、既存ポイントプログラムシステムとの接続などをも必要だ。しかし、サービス設計やシステムへの落とし込みまでには厳しい要件が課せられていたという。
というのも、「何をどう使っていくか」「強みはどう作るか」といった細かなサービスデザインは、全くのゼロから考える必要があったからだ。電力小売り自由化のスタート時に参入する、という制限時間は決定しているが、他の仕様は走りながら構築していくしかなかったと中桐氏は振り返る。
「これから立ち上げるサービスなので、ユーザーを今後どれだけ獲得できるか分からない。従って、あまり多くの開発コストは掛けられないし、まずは小さく始めながらも、将来のユーザー増に耐えられるだけの柔軟なスケーラビリティが必要。さらには、2016年4月のサービス開始に絶対に間に合わせられるよう、スピード感のある開発が求められる。このように、auでんきアプリの開発陣には、かなり無理難題を押し付けることになってしまった」(中桐氏)
このプロジェクトの開発陣営を指揮したのは、技術統括本部プラットフォーム開発本部 クラウドサービス開発部 フレームワークグループグループリーダー 平岡庸博氏だ。「かなり無理難題」を解決すべく、平岡氏が白羽の矢を立てたのが、AWSだったという。
従来のシステム開発手法と同様に、システムのキャパシティープランニングを行っていては、とてもサービスリリース期日に間に合わない。そもそも、キャパシティーといっても、サービスをローンチしてから、どれだけ需要が増えるかは全く読めない状況だ。かといって、最大値で設計するとなれば、現在のauユーザーの全てが利用しても耐える巨大なシステムにしなければならない。
急激な利用者増や負荷増大時に強いのが、リソース調達を仮想的に行えるクラウドインフラだ。最小構成で立ち上げて、自動スケールさせるようにしておけば最小コストで済む。そこで、ITリソースはAWSで調達し、仕様やキャパシティーに変更が加わるごとにリソースを追加していくことで、柔軟なスケーラビリティを担保することにしたのだという。
さらに開発体制も、パートナー企業に開発作業を丸ごと委託するのではなく、自社要員も開発に参画してパートナー企業とともに作り上げていくアジャイル開発手法を取り入れ、スピーディーな開発を目指した。
auでんきアプリの開発プロジェクトは、従来の新規プロジェクト運営の手法をとっていれば1年以上かかっていたところが、AWSのインフラを使い、アジャイル開発手法を採用したことで、平岡氏によると、開発期間を約6カ月に短縮できたという。
AWSを選択したことで、ITリソース調達コストを最小限に抑えられたのはもちろんだが、開発期間も短縮できたことから、開発コスト全体では当初想定していた見積額のわずか3分の1ほどのコストで済んだという。
中桐氏はauでんきアプリ開発プロジェクトについて「将来的なインフラのアジリティや機能進化の可能性を確実に担保できるAWSを採用した意義は非常に大きい」と振り返る。
KDDIでは今後、auでんきのサービスを通じてユーザーから得たIoTデータやビッグデータなどをAWSのインフラ上で有効活用し、より価値の高いエネルギーサービスを顧客に提供していきたいとしている。
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