自社のソフトウェア開発体制をどうすればイノベーティブに変えられるか。開発部門の課題を「APIで会話する」ことで解消したキヤノンの事例を紹介する。
2016年6月1〜3日、アマゾンウェブサービス ジャパン主催のイベント「AWS Summit Tokyo 2016」が開催された。6月1日の「Enterprise Day」には、企業におけるAmazon Web Services(AWS)の導入事例や、エンタープライズIT分野におけるAWSのさまざまな最新技術の紹介が行われた。
本稿ではそれらの中から、「エグゼクティブトラック」に登壇したキヤノン 映像事務機事業本部 映像事務機DS開発センター所長 川本浩一氏による事例セッション「AWSがもたらす開発部門の変革について」の内容を紹介する。
キヤノンは2011年より、クラウド型のドキュメントサービス「Canon Business Imaging Online」を顧客に提供してきた。
当初はホスティングサービスを使い同サービスのクラウド基盤を構築・運用してきたが、徐々にスカラービリティやコスト、開発や運用の効率といった面で課題が目立ち始めたため、パブリッククラウド基盤への移行を検討し始めたという。
しかし川本氏によれば、このとき「パブリッククラウドへの移行によって、Canon Business Imaging Onlineの開発組織そのものの在り方にも変革をもたらすこと」を同時に目標として掲げたという。
「当時の開発部門では、担当モジュールごとに開発組織の部分最適化が進むと同時に、各組織間の関係も混沌(こんとん)としていた。また『全てを自分たちで作る』というレガシーな開発手法にとらわれるあまり、世の中のイノベーションについていけず、結果としてお客さまになかなかタイムリーにサービスを提供できていなかった」(川本氏)
そこで、AWSの採用と同時に、CI(継続的インテグレーション)プラットフォームを導入し、開発チーム、評価チーム、セキュリティチーム、運用チームが同じプラットフォーム上で互いに連携しながら開発作業を進められる環境を構築した。
CIは、ソフトウェアのビルドやテストを高い頻度で繰り返すことで、問題の把握や対処を効率化し、品質を高めていくソフトウェア開発の手法の1つ。この手法を効率よく実施するための環境として、「Jenkins」のような自動ビルドツールや「Chef」のような構成管理ツールが採用されることが多い。これらのツールが重宝される理由は、ビルドやテスト、デプロイをコマンドラインやAPIを介して自動的に行える点にある。
川本氏らの場合、チーム間の連携は、APIを通じたシステム間連携はもちろんのこと、AWSが提供する「AWS CloudFormation Template」「Amazon CloudWatch」「AWS Trusted Adviser」といったツールを通して「可視化されたデータを共有」することで、互いの共通認識を深めていったという。
こうしてデータを基に意思決定を行う組織文化が徐々に根付き、開発や運用の課題が明確に認識できるようになったことで業務改善が進み、結果として自社製品やサービスのイノベーションも生み出せるようになったという。
「AWSは豊富なAPIを通じて全ての運用や操作を自動化でき、また全てのレイヤーでデータが取得できる点が大きな魅力。ただそれ以上に印象深いのが、AWSが提唱する『APIでコミュニケーション』という発想の秀逸さ。この考え方は、単にアプリケーションの開発手法を変えるだけでなく、組織の在り方をも変える威力を秘めていることを身をもって体験することができた」(川本氏)
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