ペタヘルツ高周波現象が直接捉えられるようになったことで、何が変わるだろうか。現在は電子振動の観測ができたという段階なので、どのように現象を制御するのか、さらにどんな応用ができるのかを予想するには早すぎる。
しかし、物理現象はまず観測から始まり、次に制御方法が編み出され、社会に貢献できる応用が広がるというのが常道だ。観測ができたからには、応用までの夢が広がるのは当然だ。
1つの可能性は、半導体が今まで果たしてきた役割を、さらに高度化、高速化することだ。本研究に携わった専門家の意見では、10〜100ペタHzといった高速な周波数で光に応答するデバイスが登場する可能性も考えられる。CPUに利用するチップだったら、スーパーコンピュータを凌ぐ性能のPCが出来上がるかもしれない。なかなか実用段階に至らない量子コンピュータよりも、基本原理としては従来技術の延長上にあるペタヘルツ高周波現象利用コンピュータの方が早く実現する可能性だってある。
もう1つの可能性は、半導体に新しい機能性を付け加えることだ。電子分極に伴う電子振動は反射、吸収、屈折、回折、光電流、光放射といった多種の物理現象を引き起こす。これらの現象を利用した新しい半導体の利用法が見つかるかもしれない。
今回の研究には窒化ガリウムが使われたが、他の物質にも同様の技術応用はできる。フォトダイオードの機能性を変えることも可能だろう。例えば、同じ材料で青色、赤色、緑色などの各色での発光を実現し、制御できるかもしれない。
また。、太陽電池や人工光合成などにも応用できそうだ。物性研究などに使われる放射光による観測とは光のエネルギーに格段の差があるが、同様の目的に利用できるシーンもあるだろう。
こうした可能性はともあれ、研究チームは地に足のついた研究を、当面は高速現象の観測を中心にして今後も続けるという。また、半導体ナノワイヤ、量子ドット、グラフェンなどの新材料にも研究を広げる考えだ。
NTTの技術者に研究の動機を聞くと「究極の光を作りたい」との答えが返ってきた。超短時間幅のパルスは「究極の光」の1側面だろう。これを研究していると、今まで予測もしなかった物理現象が見えてくるという。
しかし、その説明ができないことが多いとも漏らす。例えば、半導体のトンネル効果をアト秒単位で観測すると、理論上はないはずの遅延が見えるという。これまで常識を覆すような発見が、アト秒パルスによって成し遂げられる可能性もあるというわけだ。
ガリウム(Ga)と窒素(N)の化合物。ガリウムナイトライド。価電子帯の最高エネルギーから伝導帯の最低エネルギーまでのエネルギー準位の差(バンドギャップ)が3.35eVと大きい(シリコンの3倍)のが特徴で、青色ダイオードや半導体レーザーに利用される他、高耐圧、高電流密度、高速スイッチングが可能などの優れた特性により、パワー半導体デバイスとしても注目される半導体だ。
「ペタヘルツ高周波」との関連は?
バンドギャップが広く、高い熱伝導率、高い温度許容性、耐電圧性に優れ、光学的な損傷にも強いため、光利用の実験のために扱いやすい。ペタヘルツ高周波観測のサンプルとして利用された。
アト秒パルスは照射する高強度フェムト秒パルスの半周期ごとに発生するため、通常は多数のアト秒パルスが連なるパルス列になる。二重光学ゲート法では高強度フェムト秒パルスの半周期分だけを直線偏光にし、単一アト秒パルスを作り出す。
「ペタヘルツ高周波」との関連は?
二重光学ゲート法を用いた単一アト秒パルスによって、固体物質中の電子振動=ペタヘルツ高周波を世界で初めて捉えることに成功した。なお、単一アト秒パルスの波形の評価については、「アト秒ストリーク法」という手法が用いられた。これはアト秒パルスを希ガスに照射し、放出された光電子の運動エネルギーを、アト秒パルスと同期したフェムト秒パルスの照射によって計測する技術。これによりアト秒パルスの波形、スペクトル、位相などが含まれたアト秒ストリーク波形が得られる。
現在のところ最も短い時間幅のパルスを発生できるレーザー光源のこと。アト秒の時間幅で単一化(孤立化)された光パルスを生み出せる。アト秒パルスは、真空紫外、極端紫外、軟X線の波長領域(波長3〜100ナノメートル)において発生する。
「ペタヘルツ高周波」との関連は?
ペタヘルツ高周波は、フェムト秒パルス光源と単一アト秒パルス光源の使い分け(前者をポンプ光、後者をプローブ光として用いる)によって計測された。
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