こうしたセキュリティ上のメリットは、そのまま経営リスクの低減につながる。また先ほど挙げた「ITインフラの迅速な立ち上げ」は、ビジネスの機会損失を減らし、企業全体の収益向上に寄与する。IT部門におけるネットワーク管理の効率化は、そのまま人件費の削減につながる。このように、SDNの導入メリットの多くは、そのまま経営メリットに直結する。
さらには、VMware NSXのように仮想化ソフトウェアでSDNの機能を実装したソリューションを導入すれば、これまで物理ネットワーク機器が担っていたネットワーク機能の多くを、ソフトウェアが代替してくれる。そのため、従来の物理ネットワーク構成よりネットワーク機器の数を減らしたり、あるいはスペックを低くしたりでき、IT機器の調達コストを削減する効果も期待できる。
企業経営にとって極めて重要なBCPや災害対策を考える上でも、SDNは大きな役割を果たす。災害対策システムを構築する際によく問題になるのが、本番サイトから災害対策サイトへフェイルオーバーさせる際のIPアドレスの切り替えだが、SDNを使えばIPアドレスの変更を必要としない柔軟なサイト切り替えが可能になる。
SDNは特定の製品ジャンルを指すものではなく、さまざまな技術を組み合わせたネットワークのフレームワーク全体、あるいはときにはアプリケーションレイヤーまでも含めたシステム全体のアーキテクチャを指すこともある。そのため実に多種多様な技術要素を含んでおり、その全体像をつかむのは容易ではない。
そこで以降では、SDNを理解するための手掛かりになりそうな技術キーワードを幾つかピックアップしてみた。
SDNを実装する方式には、大きく分けて「ホップバイホップ」と「オーバーレイ」の2種類がある。ホップバイホップは、OpenFlowコントローラーとOpenFlowスイッチによって仮想ネットワークを構成する方式で、オーバーレイは仮想化ハイパーバイザーに仮想スイッチを組み込んでネットワークを仮想化する方式だ。
それぞれに一長一短があるため、SDNの導入を検討する際にはまずこの2つの方式のどちらが自社の環境やニーズに即しているかを慎重に検討する必要があるだろう。
SDNの頭脳であり、ソフトウェアによってネットワーク全体を制御する役割を担うのが「SDNコントローラー」だ。オーバーレイ方式の場合は、仮想化ソフトウェアの管理ツールの機能として提供されることが多い。
その使い勝手や可用性などは、そのままSDNの運用効率や信頼性に直結する。また下位レイヤーのネットワーク機器や、上位レイヤーのアプリケーションなどとの連携インタフェースはそれぞれ「ノースバウンド」「サウスバウンド」と呼ばれ、特にノースバウンドのインタフェースはベンダー独自の実装が多いため、導入検討に当たってはその仕様が自社のニーズと合致するか、よく確認しておいた方がいいだろう。
前出のヴイエムウェアやシスコシステムズをはじめ、現在数多くのベンダーがSDN市場に参入しているが、主要なネットワークソリューションベンダー、ITベンダーでは共同でオープンソースのSDNコントローラー「Open Day light」の開発を進めている。利点は、標準仕様として利用できること、互換性などの技術的な課題について組織を超えて協調しやすいことなどが挙げられる。
現時点でSDNを導入するとなると、やはり高い信頼性と実績を持つ商用ベンダー製品を選ぶことになるだろうが、将来的にはオープンソース製品が普及する可能性もある。
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