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スパコン並みの処理能力でAI研究開発を加速する「ABCI」とは?5分で分かる最新キーワード解説(3/3 ページ)

» 2017年04月26日 10時00分 公開
[土肥正弘ドキュメント工房]
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ABCIは世界初の大規模オープンAIインフラ

 超高速処理性能のほか、ABCIではできる限りのオープン性が図られるのが特徴だ。ソフトウェア面も含んだシステム構想を図3に示す。OS、ミドルウェア、アプリケーションにはオープンソース製品またはそれに準じるオープン性の高い製品が用いられる。

ABCIの想定システム構成と基本的な要求事項 図3 ABCIの想定システム構成と基本的な要求事項(出典:産総研)

 また、上述したような独自ブレードや超高密度実装ラック、高速ネットワークなどの設備は普通のデータセンターでは対応できない。ABCIプロジェクトにはデータセンターそのものの設計も含まれている。千葉県柏市の東京大学柏IIキャンパスに建設が予定されているデータセンターは、図4のように構想されている。

ABCIデータセンターの計画 図4 ABCIデータセンターの計画(出典:産総研)

 このデータセンターの設計図もやがて公開される予定だ。このプロジェクトでは全てがオープンなのである。

 松岡氏は「ABCIはロボット、工場、ヘルスケア、医療など、国民の関心が高い分野の研究開発目的なら一般民間企業が利用することができます。1組織だけでは到底太刀打ちできない海外のAIのレベルに追い付くためには、産官学の各組織が技術やノウハウ、スキルを共有し、高め合うしかない。ABCIは各組織が協力して研究開発を行う場として提供するもの。純粋な商用運用はできませんが、その前段階の研究開発は奨励されますし、またほとんどの設計がオープンですから、研究開発がうまくいったら、同じ設計を使って自前で同じ環境が作れます」と語る。

 大企業ばかりでなくスタートアップ企業でもABCIを使ったAI研究開発ができそうだ。ゆくゆくの商用展開にもABCI利用経験は生かせるはずだ。ABCIは2018年春の稼働開始が予定されており、これほどオープンで大規模なAI研究開発に特化したインフラは世界にも類例がない。AIがビジネスの鍵になると考えている企業は多いはずだ。これを機に、AIの研究開発を少しでも前進させてみてはどうだろうか。

関連するキーワード

ディープラーニング

 あたかも赤ん坊が周囲の情報からさまざまな知識を覚えていくように、機械が自分で知識やルールを獲得していく学習手法のこと。人間の脳が持つ神経細胞の働きを機械に置き換えたニューラルネットを多階層で構成した「多層ニューラルネットワーク」が用いられる。

「ABCI」との関連は?

 ディープラーニングの大きな課題は、学習に要求される計算パワーだ。実際にはCPUとGPUを活用して高速な学習ができるようにはなったものの、ビッグデータを利用した大規模な学習には、物理的なリソースが日本では得られない。そこで、スパコン級の処理性能をもつABCIを構築し、AI技術開発に特化したクラウドサービスを、国内の産官学AI研究者や組織に向けて提供しようとしている。

第3次AIブーム

 AI研究は1960年代に登場した初期のニューラルネットから火がつき、機械学習が現実のものになったことで第1次AIブームを招来した。しかし精度がなかなか上がらずやがて沈静化する。80年代にはPrologやLispなど記号処理プログミング言語が登場したことで、知識を論理で表現できると考えられて第2次AIブームが始まった。

 日本の通産省が「第5世代コンピュータ」プロジェクトを推進したのがこのころだ。しかしこれには専門的な経験とノウハウを持つ人間によるデータ入力(ルールの設定)が必要で、全てのモノや事象に一般的に適用できず、応用の広がりは限定的だった。その後、ニューラルネットを多層で構成したディープラーニング技術が登場し、それまでのAI研究が行き詰っていた部分のブレークスルーとなった。以降のAI研究は急速な発展を遂げつつある。

「ABCI」との関連は?

 ディープラーニングはかつてのAI研究者が抱いていた「全ての知識は論理的に構成できる」という一種のドグマに対し、モノや事象に内在する非線形な法則を、演繹(えんえき)的にではなく学習で有効に知識やルールとして獲得していけるという証明を、事実として示した。

 しかしその学習を現実的な問題解決に使うためには大量の処理ノードとネットワーク、さらには大量の学習データがが必要であることも分かった。海外企業のように潤沢な計算機リソースがない日本でAI技術を発展させるには、国の主導で情報や技術を研究者が共有できる研究開発の場が必要と考えられた。それを構築するプロジェクトの1つが「ABCI」である。

フロップス(Floating-Point Operations Per Second)/AIフロップス

 コンピュータの処理性能を示す数値。浮動小数点演算が1秒間に何回できるかを指標としている。現在のスパコン界では、中国のスパコンが世界一で、倍精度で125ペタフロップスの速度を誇っている。次は米国がトップをとり、その次は日本の「ポスト京」がトップ争いに加わるかどうかといわれている。

 一般的にスパオンの性能比較には倍精度のフロップスが使われるが、倍精度演算は計算パワーを余計に使うため、現在は精度を落としてパワーを稼ぐケースが増えている。ディープラーニングは単精度または半精度などの、より縮退された精度の演算が中心になっており、AIで利用されるコンピュータの性能には、そのような短縮精度でのフロップスをAIフロップスと呼ぶ場合がある。なお、学習後の推論には、もっと精度の低い整数演算も利用可能だ。

「ABCI」との関連は?

 ABCIは深層学習に適した短縮精度の浮動小数点演算での計算が中心となる。その性能として130〜200ペタAIフロップスを狙うものとなる。

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