日本生命で働くRPA「ロボ美ちゃん」。2016年には入社式まで行われ、話題をさらった。導入から1年たった今、どのような効果が出ているのか。「バラ色の世界ではない」と語る同社の活用事例を紹介する。
2016年4月、日本生命の入社式で、新入社員の「ロボ美ちゃん」の入社が祝われた。「ロボ美ちゃん」は、業務を自動化するソフトウェアロボット。RPA(Robotic Process Automation)ソリューション「Biz Robo!」上で動作し、同社の事務作業を担当する。
RPAは、システムへの入力や確認といった単純な作業を肩代わりする。業務の効率化はもちろん、メリットとしてシステム化するよりも低コストで済むこと、ロボット作成にプログラミングの知識が必要ないことなどが注目を集め、最近では導入事例も増えてきた。
7月27日に開催された「RPA Summit 2017」では、日本生命保険 宮本豊司氏が登壇、導入のいきさつや導入前に考慮すべき点などを説明した。本稿ではその内容を紹介したい。
同社では、PC内で動く2台のロボットと、データセンターのサーバ内で動く4台のロボット、計6台が稼働中だ。導入対象となった部門Aでは16の業務が自動化されている。宮本氏は、導入のいきさつや導入前後で業務がどのように変化したかを説明した。
RPAを導入した部門Aは、新規申し込みの受付や、保全手続き、支払いといった事務全般を担う部署だ。紙の申込書の記載内容を基幹システムへ入力するような反復作業が多く、複数人が重複して作業や確認を行っていた。「品質を重視してのことだが、これでは効率が悪かった」(宮本氏)
新規契約の伸びによって業務量が増え、いよいよ業務の見直しが急務となったが、システム化するほどの大規模な投資では費用対効果が出ず、人員追加となると社内スペース確保が難しい。そこで同社が注目したのがRPAだ。
PC型のRPAであるロボ美ちゃんが担当したのは請求書の受付業務。保険の契約者から送られてくる保険金の請求書から、10桁ほどの証券記号番号をシステムに入力し、受付の記録を残すという作業だ。
「以前は全行程を人手で行っていたが、ロボットでの自動化後は、従業員の作業は請求書に貼られたバーコードをスキャンするのみになった」(宮本氏)従業員がバーコードをスキャンすると、そこに埋め込まれたの証券記号番号をRPAが受け取り、自動で業務システムに入力する。「人間とロボットの連携をスムーズにするため、新たにバーコードを使うことによって、情報をRPAが扱えるデータへと変化させたことがポイントだ」(宮本氏)
また、契約内容の変更作業もロボ美ちゃんを活用することで効率化した。RPA導入以前は、コールセンターで変更を受け付けた担当者がコールセンターシステムに内容を入力し、従業員がその情報をもとにシステムへあらためて変更内容を入力するという段階を踏んでいた。「このフローでは、最終的にシステムへ入力するまで変更内容を確定していなかった。ミス防止のためだが、これでは効率が悪い」(宮本氏)
自動化後には、コールセンターで入力された内容を確定情報とし、これをCSVファイル形式にデータ化、ロボットがシステムへ自動入力するというフローになった。「自動化によって、必然的に情報の確定するタイミングを早めなければならなくなった。結果的に効率も上がった」と宮本氏は話す。
上記で紹介したのはPC内で稼働するRPAの事例であるが、サーバ内で稼働するRPAも業務の効率化を助けている。担当するのは新規契約の登録作業だ。新規契約が増える繁忙期には、外部委託先から納品される顧客契約データを自社システムに入力する作業も行う。
RPAによる大きな収穫は、繁忙期の外部委託が可能となったことだと宮本氏は話す。「RPA導入以前は、外注したくとも、納品データを自社システムに入力するデータ連携作業の負担を考えると外部委託に踏み切れなかった」(宮本氏)
RPAでその間を埋めることで外部委託が可能になったと宮本氏は話す。
気になるのはRPAのもたらす効果だが、部門Aでは成果も上々だった。図4は業務ごとにロボットと人間の作業時間の差を換算、年間での業務削減率を表にしたもの。ロボ美ちゃんは業務によって59%から94%の業務削減率を記録している。
業務が効率化されることで、各担当者、管理者、経営者それぞれがメリットを享受した。担当者は、単純作業から解放される上、単純ミスをするのではないかというストレスが減ったという。管理者側も、より付加価値の高い仕事を配分できる他、短期スタッフ管理の負担が軽減した。さらに経営者は、新たな効率化の施策を入手することで、企業の働き方改革や時短で働く女性の活躍を推進できるようになったと宮本氏は語る。
しかし一方で宮本氏は、RPAを導入したからといって「バラ色の世界が待っているわけではない」として、幾つかの課題も挙げた。例えば、業務時間を年間で換算するとボリュームが少ない作業の場合、自動化したところで費用対効果が小さいという課題がある。1人が年間で働く業務時間を1200時間とすると、年間50時間に満たない業務を自動化した場合、1人分の業務時間を満たすためには少なくとも24個のロボットを作成しなければならず、費用対効果が出ない。
この課題に対して、宮本氏は業務選定の重要さを説く。「現在、新たな業務選定によって、RPAでの自動化が見込める業務を269選定しているが、そのうち大きな効果が見込めるものは10業務程度しかない。いかにリターンの大きい業務選定を行うかということが1つのポイントだ」(宮本氏)
宮本氏は、導入の際にとりわけ注視して検討しなければならないポイントを話した。
スモールスタートからはじめて検証を行い、徐々に範囲を広げた同社では、RPAのトライアル導入の際、大きく分けて5つのステップを踏んでいる。ステップ1は、RPAソリューション「Biz Robo!」の概要理解、ステップ2は各課での業務選定、ステップ3が1部門での実現性の評価、ステップ4が各課1台のロボット作成、ステップ5が各課での効果検証だ。
宮本氏は、とりわけステップ3で、システムとの親和性を確認する重要性を訴える。「作成したロボットがシステムを問題なく操作できるかということは、本格導入の前にしっかり確認したいところ。例えば、システムにログインできるのか、システムからシステムへと画面遷移できるのか、画面遷移には時間がかからないか、画面の印刷ボタンを押せるのかといった細かい点まで検証しなければならない」という。
1ライセンス当たりに年間費用や初期導入コストがかかるため、費用対効果の出る業務の選定が必要だと宮本氏は強調する。
宮本氏によれば、「ロボットの作成は、通常のシステム開発とフローが若干異なる。開発における各フェーズのうち、同氏は特に設計におけるポイントを共有した。
1つ注意したいのは、ここでいうロボットの設計がプログラミングを指すわけではないということだ。RPAは、業務に必要な手順を指定したシナリオを、その通りに実行するソフトウェア。ロボットが作動するためのシナリオ作成がすなわちロボットの設計ということになる。
当然、前段階として自動化したい業務の流れを明確にしておく必要があるが、その際に「BPMN」という手法を採用することを宮本氏はポイントだとした。BPMN(Business Process Modeling Notation)とは、業務のプロセスを図形によって記す標準記法だ。業務の行程を四角や丸でグラフィカルに記すことで、誰でも直感的に理解できることが特徴である。
「BPMNで作成したプロセスマップでは、最終的に『何のボタンを押す』『何画面で何を入力する』といった細かい動作のレベルまで詳述する。このマップを使って、1つの業務の内、どの作業をロボットで自動化するのか決定していく」(宮本氏)
業務を自動化する際には、人間とRPAの連携が肝になってくる。宮本氏は「人間からRPAへと作業を橋渡しする際、データをRPAが受け取れる形態へと変換させなければならない。紙事務が多い場合には、効率的に情報をデータ化することが大切だ」と話す。
例えば同社では、紙にバーコードを印刷することで、数列などの情報をデジタルデータへと変換している。
また、作成したロボットの運用管理も重要だ。例えば、野良ロボなどが出回らないように、作成したロボットの管理は必須。怠れば、ユーザー部門が管理の範囲外で作った「野良ロボ」が増え、制御ができないという問題も起こり得るというから恐ろしい。野良ロボの問題だけでなく、基幹システムのリニューアルといった企業の変動に耐えうるため、RPAの行う作業範囲を明確にしておくことが必要だ。
保守における問題に対応するために、RPAが何台稼働し、どんな作業を行っているのか、常に管理、可視化しておくことが必要だと宮本氏は話す。
今後は、導入済みの部門を含め、自動化できる業務を増やしていく予定だという同社。「AIなども活用しつつ、さらに業務の自動化、効率化を目指していく」と宮本氏は締め括った。
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