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ロボットが小脳を持つと何が起こるか〜「リアルハプティクス」とIoA(Internet of Actions)(2/2 ページ)

» 2017年10月31日 10時00分 公開
[原田美穂キーマンズネット]
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力のフィードバックで適度な力加減を理解する機械を作る

 この技術は人の感覚器官を拡張するだけでなく、フィードバック情報をロボットに与えて処理させることで、ロボットに高度な処理を行わせることも可能だ。展示ではリアルハプティクスの実務への応用例の1つとして、選果システムを多く手掛けるシブヤ精機と共同開発した選果用ロボットハンドも紹介していた。

ロボットハンド部分のデモ ここではマシュマロ、イチゴ、粘土という、固さの異なる物体を判定して、つぶさずに並べている。視覚、触覚を使った判定結果を基に、ルールに則して並べていく ロボットハンド部分のデモ ここではマシュマロ、イチゴ、粘土という、固さの異なる物体を判定して、つぶさずに並べている。視覚、触覚を使った判定結果を基に、ルールに則して並べていく

 選果の行程は熟した果実を対象にするため実にデリケートだ。「サイズや品質などを選別してそれぞれを適切な出荷用の箱に詰める」という選果から出荷までの工程をロボットで自動化する場合、従来の方法であれば、吸着や吸引といった方法で特定の品物を取り除くしかないが、大きさや固さが異なるため、全てをつぶさずに取り除くことは非常に難しい。腐敗した果物は果肉が柔らかく、通常の果実と同じ力加減で触れるとつぶれてしまう。つぶれた果肉などが他の商品や機材に付着すると、そこから腐敗が進んだり細菌繁殖の原因となってしまったりするため、逐一ラインを止めて洗浄を行う必要もある。

 このように繊細な取り扱いが求められることから機械での自動化が難しいため、収穫の時期にのみ人を集め、手作業で選果することが少なくない。しかし、農業従事者の高齢化や地方の働き手が減りつつある状況では、季節変動の多い労働力を確保することそのものが難しくなってきている。画像認識とリハルハプティクスを組み合わせた選果ロボットは、こうした課題を解決し、衛生的で効率の良い選果を実現しているという。

 リアルハプティクスの良いところは、対象が不定形でもろいものであっても、対象からの力のフィードバックを検出して、その場で壊れないように持つ処理が可能になる点だ。ロボットでありながら「そっと柔らかく触れる」といった柔らかい動作を行える。

 なお、この選果の例では紫外照明と白色照明を組み合わせた特殊な照明で画像認識を行い、大きさや位置、腐敗度、傷の度合いを測定しているという。

実際の選果の様子 出典:慶應義塾大学 実際の選果の様子(出典:慶應義塾大学)

 この操作を応用すれば、選果行程だけでなく、箱詰めや出荷などの行程も自動化できる可能性が高い。同じ仕組みを利用すれば弁当工場などのデリケートかつ不ぞろいな材料を使い分けて盛りつけるような工程への応用も考えられる。

ハプティクスのロジックを組み込んだ半導体回路を開発

 これらのリアルハプティクス技術は、大西公平教授が実現した感覚伝達技術「加速度規範双方向制御方式」を各種分野に応用したもの。「堅い」運動を行う位置制御とフィードバックを得ながら(双方向性を持つ)「柔らかい」運動の力制御を同時に行うことを指す。

 現在、ハプティクス研究センターでは、学内で設立したベンチャー企業モーションリブを介して、このリアルハプティクスを実現するモーター制御やフィードバック処理を回路に埋め込んだ専用の力触覚コントローラー「ABC-CORE」を提供、複数の企業と開発プロジェクトを推進している。

ABC-CORE ABC-CORE

 ABC-COREは、位置や速度、力制御に加えて、力触覚伝送のためにモーター2台を運動同期する機能も持つ。モーターへの負荷を計測する際、トルクセンサーなどを必要とせず、推定アルゴリズムのみで処理する点が特徴だ。制御ロジックが回路に埋め込まれており、APIで操作できるようになっているため、これを利用すれば、市販のモーターを使った装置でリアルハプティクスアプリケーションの開発を行えるようになる。

 こうしたロボットの開発では、一般的にはハードウェアとソフトウェアを平行してスクラッチで開発することが多いため、APIによる操作は開発工程の短縮が期待できる。

 現在、ハプティクス研究センターおよび野崎研究室では、上に挙げた例の他、約30社と共同研究開発を進めており、一部はPoC(概念検証)を終え、実用化に向けた開発が進んでいるという。

人間の動作を記録してコンテンツとして流通させるIoA構想

 リアルハプティクスでは、人間の小脳のように運動を統合すると冒頭で紹介した。力加減の制御のような運動の統合はもちろんだが、脳には多くの動作を経験(記録)して学習し、次の動作に生かす仕組みもある。この点についても、リアルハプティクス装置を使って人間の操作を信号として検知・検出できれば、操作そのものを信号として定量的に表現、記録できる。

 ハプティクス研究センターでは、この仕組みを活用して「巧みの技能」を動作コンテンツとして記録したり、遠隔リハビリテーション、遠隔医療に活用したりといった、IoA(Internet of Actions、動作のインターネット)も実現できるとしている。

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