さて、この6つのデジタル筋のうち、「リーダーシップ」や「俊敏性」というテーマに基づいて山田氏が紹介した事例が、トヨタの取り組みだ。
トヨタは、国内外の販売店サービススタッフの育成や修理技術向上を目的に2016年1月「多治見サービスセンター」を開設している。センターは修理技術の品質を高めることを目的に、修理技術の研究やその成果を研修として展開する拠点でもあるが、新設した拠点で「どんな新しいことができるか」が課題だったという。
その背景には、これからのサービスが価値を提供するには、顧客が今抱える困りごとの解決だけではなく「未来のことを考えながら仕事する必要がある」との考えがあった。
元来、改善を「カイゼン(Kaizen)」として世界に知らしめたトヨタは、あるものをより効率よく品質を高めていく活動を得意とする。しかし、「未来の課題を見つけ出して設定する方法論を見いだせずにいた」という。
そこでトヨタ自動車 サービス技術部では、新しいアイデアを育てる組織風土を醸成するために、富士通が提案した「デザイン思考」の方法論を取り入れることを決断、カイゼンに加えて将来のありたい姿を目指す「カイカク(改革)」の手法に挑戦するに至ったという。
デザインファーム「IDEO」のティム・ブラウン氏が提唱して注目を集めた方法論。問題の本質を見直したりさまざまな角度から市場を見たり、市場そのものを創出したりする際に有効とされる。コンセプトや目的、本質を考えながら課題を解決する手法。ここでは、あるべき理想の姿から現実会に落とし込んでいくプロセスとして定義される。
こうした経緯から、トヨタ サービス技術部では多治見サービスセンター開設前、2015年段階で「未来のエンジニアのなりたい姿」を描くワークショップを実施、サービスエンジニアリングの将来像を描くことで、現在実施すべきことがらを整理していった。
この時の結果をもとにビジョンマップを作成、サービスセンターがオープンした2016年にはビジョンマップの実現に向けて、「サービス技術開発ラボラトリー」というオープンイノベーションの場を作り、具体的な行動を進めている。
現在、サービス技術開発ラボラトリーは、アイデアを出し合いながら試作品を作る場として機能している。例えば、多治見サービスセンターは全国からサービスエンジニアが集まる研修施設でもあることから、サービス技術開発ラボラトリーで検討した試作品を展示、実際のサービスエンジニアから具体的な意見を得る場を作ることに成功している。検討プロセスを部門に閉じず、関係者に広く意見を募り、よりよい整備方法の最適化や、新しいテクノロジーを活用したメンテナンス手法の発見につなげているという。
なお、富士通では、デザイン思考による共創の場として「Digital Transformation Center(DTC)を、東京、大阪に開設している。さらにロンドン、ニューヨーク、ミュンヘンなどにも広く展開しており、2017年度にはトヨタの例にあるような「共創ワークショップ」を652件実施、プロジェクト化数も300件に達したとしている。
この他「ビジネスとの融合」や「データからの価値創出」というテーマではサンスターらによる「IoT歯ブラシ『G・U・M PLAY(ガムプレイ)』」の事例や、関西電力によるAIを組み込んだ「スマートメーター」の事例が、「人材」や「エコシステム」については、富士通自身のデジタル人材育成や、Pivotalと共同で顧客のデジタル人材育成プログラム「デジタルビジネスカレッジ」開講の例が挙げられた。
この他、ブロックチェーン基盤を提供する、丸の内エリアの産学連携による街づくりプロジェクトではオープンデータや企業間でのデータ流通の試みも進めている。
ここまでで直近の共創や協業事例を多数挙げた山田氏は「デジタル革新支援のため、技術体系『MetaArc』強化を目的にグローバルのパートナーやベンチャーとの連携を拡大する」と今後の意気込みを語り、基調講演を締めくくった。
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