ロボットが停止し、事業運営に影響を与える事故に発展した――RPA導入企業でこうした出来事が多発している。トラブルのないRPAを目指すなら、推進の各フェーズで必ず実践すべきことがある。
ITリテラシーが高くない現場でもRPAの開発や運用を成功させるにはどうしたらよいのか――連載1回目の前回は、RPAを横展開する際に起きがちなトラブルから、高品質なRPAとは何かを説明した。今回は、これを実現するために各フェーズで留意すべき点を紹介する。
RPA導入は、シンプルに「企画」「設計・開発・テスト」「運用」の3つのステップに分けられる(図1)。以下の手順とポイントを実践することで、前回説明した「高品質なRPA」の実現が可能になる。
1つ目の企画のステップでは、業務プロセスにおける人とロボの適切な業務分担計画をまとめる。具体的な手順は以下の通りだ。
(1)RPAの適用対象業務を決める
業務プロセス全体を俯瞰し、ITシステム、人、ロボがどの業務を受け持てば最も効率的な業務フローを実現できるのかを再構成する。これはBPR(ビジネスプロセス・リエンジニアリング)と呼ばれる。BPRによってロボが担当する業務範囲を決定したら、ロボの業務や状況を把握できるようにロボの台帳管理を開始するとよい。ロボの台帳は「対象のロボ名」「作業内容」「連携するシステム名」「インプット・アウトプットすべきデータ」などを記載する。その後、運用の際に「稼働したタイミング」「設定どおりに動いていたか」「ロボのメンテナンス記録」などを随時更新する。
(2)RPA導入による投資対効果(ROI)の予測値を算出する
対象となる作業を、全て人の手で行った場合の作業頻度や時間を整理し、RPA導入によるROIの予測値を算出する。ロボの開発や保守費用、ライセンス料やサーバ維持にかかる費用を考慮することも重要だ。
RPAにおけるROIは、時間やコストなどの定量的な軸で判断されることが多い。しかし、実際にはRPA化によって人がどれだけ付加価値業務に集中できるようになり、従業員の意識改革や組織風土改革、働き方改革につながるかという定性的な軸も重要だ。特に、経営層や現場層が一体となってRPAを推進し展開する際には、付加価値の高い業務に集中できている度合いや改革の状況を可視化し、共有したい。
(3)RPA化すべき業務の順番やスケジュールを決め、運営体制を決定する
RPA化すべき業務は、(2)で説明した予測値や可視化の結果を基に、ROIが高い順に進めるとよい。定期的な報告会で進捗や効果を把握できるようにスケジュールを引くことで、組織全体としてRPA化の停滞を防げる。また、RPA化を行う業務ごとに、ユーザー部門の担当者、開発担当者、運用保守担当者を定めるとよい。規模が小さいうちは少人数体制で対応できるが、RPAを社内で展開する際には、デジタル部などの専任組織の導入が必要ということも考えておきたい。
設計・開発・テストでは「止まらないロボ」「手離れのよいロボ」を作り出すことをゴールとする。そのための手順は以下の通りだ。
(1)人とロボの作業分担を決める
それぞれの業務での手順を洗い出し、無駄作業の見直しを進める。BPRの段階よりも、より細かい粒度で人とロボの作業分担を決め、人による手作業を後回しにするなど順番を整理する。他の類似業務で稼働しているロボを利用することも検討する。
(2)エラーハンドリングを検討する
ロボが正常に作業できずエラー停止してしまう原因として、例えば「ロボが開こうとしているファイルが存在しない場合」「ファイルパスが変わっている場合」などが挙げられる。このようなエラーは業務停止や作業事故に発展し得るものであり、エラー停止時の対応方法を決めておくことが必要だ。人の運用でカバーする場合もあれば、エラーパターンに応じた処理をロボに任せる場合もある。ロボの設定が複雑になるようであれば人が対応すればよいし、エラーの頻度が高いようであればロボに任せるとよい。この手順は「止まりづらいロボ」を実現するために重要となる。
(3)作業分担に基づいてロボを開発する
RPAツールを用いながらロボ作業を実装する。この際、命名規則やコメント付与ルール、変数の扱い方、ロボットファイルに記述する処理ボックスのレイアウト(例えば「BizRobo!」や「PegaRobotics」では検討が必要)などを、コーディング規約としてまとめ、開発チーム内で共通認識しておけることが望ましい。このプロセスは、「手離れのよいロボ」を実現するために重要である。
(4)狙い通りにロボが動くかをテストする
狙い通りに人とロボの作業分担ができているか、エラーハンドリングが進むかをテストする。特にロボが連携する外部システム(図2)でデータ受け渡しのエラーがないか、そのパターンの網羅性を高めてテストを行っていく。
(5)人の分担作業について文書化する
ロボの起動方法、エラー停止時の対応(人による代替作業、エラー復旧の手順)、保守や機能追加などの変更管理手順などをまとめる。第三者が対応できるように、情報を不足なく書き出すこと、最新情報を反映しておくことが大切だ。
運用では、高い業務生産性を実現できるよう、安定した業務運営を行う必要がある。そのための手順は以下だ。
(1)ロボの稼働監視
ロボの安定稼働と、人とロボの分業が想定通りになされているかを監視し、「企画」段階で作成したロボの台帳を更新する。エラーでロボが停止している場合は、業務部門の担当ユーザーに通知する。
(2)業務継続の代替フローの推進
ロボがエラー停止した場合でも、業務自体が滞らないように代替フロー組む。「設計・開発・テスト」の(5)で作成する、人の分担作業を記した手順書をもとに人手で作業を進めていくことが多い。並行して、ロボの稼働を復旧させるための応急処置を行う。ちなみに停止した原因次第ではあるが、応急処置の例として、ロボサーバの再起動、OSバージョンアップやウイルススキャン終了後のロボ再起動、ロボが読み込むタグの一部改修などが挙げられる。
(3)エラーの知見化
ロボが停止してしまった原因の分析と改善策を整理し、次のロボ開発・運用に生かせるようフィードバックをする。その知見は、次のロボ開発でのエラーハンドリング検討時や、人の分担作業を文書化する際に活用する。
(4)定期的な成果まとめ
組織としての取り組みを強固にするために、作業の生産性がどの程度向上したのか、ROIがどのくらいかをまとめ、経営層から現場層まで共有する。同時に、人の価値生産性向上や従業員の意識改革や組織風土改革、働き方改革の進展状況も表現できるとよい。数値情報でまとめきれなくても現場コメントなどの定性情報を共有できればよいだろう。
これら「企画」「設計・開発・テスト」「運用」のグッドサイクルが回り始めたある企業の事例を紹介する。この企業では、基幹システムが成熟していないために、毎月の経費処理で1件当たり平均6分かかる正誤チェック作業を数百件こなしており、担当者に相当なストレスがかかっていた。この正誤チェックをRPAに代替したことで、その時間を毎月の事業数値の締め処理に充てることができ、経営報告を数日早められただけでなく、担当者のストレスも軽減できた。今では他の部門にもRPAの効果が広まり、広報部門やパートナー管理部門などは、RPA化を視野に自らの業務を可視化し始めている。この事例では、担当者と社内RPA担当者と常時連携をしながら、対応のプロセスや体制ができているため、停止したらすぐに代替フローが回る仕組みが回っている。
このように、RPAをうまく活用すれば、人を繰り返しの単純作業から解放してより付加価値の高い業務に配置転換でき、生産性は高まる。従業員一人一人の業務改善に対する意識を高め、積極的に業務改善を推進する組織風土を醸成し、本当の意味での働き方改革を実現できるだろう。そのために、ROIや投資回収といった定量化に加えて、定量化しづらい効果も含めて経営層や現場層で分かち合うことが理想的だ。
今回紹介した「目指すべきロボの品質」「RPAの品質を高める推進方法」については、最初から完璧に求める必要はない。まずはRPA導入に着手してみることが大切だ。RPA導入の効果を体感してから、あらためて「企画」「設計・開発・テスト」「運用」のステップを回していけばよい。本連載で紹介する方法論やルールを可能なところから取り込み、徐々に企業としての標準を作り上げていくスタンスでRPA導入に臨むとよいだろう。
以上では、「高品質なRPA」を実現する、RPA推進の方法とポイントを解説した。次回は、RPA推進ステップにおける「設計、開発」に焦点を当て、陥りやすい失敗事例とその解決策を紹介する。
SHIFT ビジネストランスフォーメーション事業本部 技術推進部 RPA推進グループ グループ長
大手電機メーカーで半導体検査装置の開発に従事。エンジニアとして装置の品質向上に取り組むとともに、開発プロセス改善にも尽力。その後、製造業を主要顧客とするコンサルティング会社で、多くの企業の企業価値向上および業務効率化に向けた業務支援に取り組む。SHIFTでは、エンタープライズ領域の大型プロジェクトを中心に、ソフトウェアの品質保証業務に関わるサービス開発を担当。現在は、RPA推進を専門とする部門の責任者としてRPAの導入から運用まで、企業が抱えるさまざまな課題の改善、RPAロボットの品質保証業務に注力している。共著として「開発力白書 2012(株式会社iTiDコンサルティング)」がある。
ソフトウェアの品質保証・テストの専門企業として、金融機関や保険会社、大手流通系企業や自動車メーカーに至るまで、さまざまな領域における企業のITシステムやソフトウェアの品質向上を手掛ける。製造業の業務プロセスコンサルティングを前身とすることから、プロジェクトおよびプロダクトの品質向上を目指した業務プロセス改善には、独自のノウハウと数多くの実績を持つ。2017年ごろからは、RPAロボットの開発・運用に関するご相談が急激に増え、2018年にはRPA診断改修サービス「ROBOPIT!」の提供を開始。現在は専任部署を立ち上げ、RPA事業に取り組む。
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