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休息11時間未満が56回――法改正を待たず問われ始めた「休ませ方」

2026年の通常国会への労働基準法改正案の提出は見送られた。しかし、労災認定基準や裁判例は既に、労働時間の長さだけでなく連続勤務や休息の取り方まで重視している。法改正を待たずに勤怠管理を見直すべき理由を、社会保険労務士と弁護士が解説した。

» 2026年08月04日 07時00分 公開
[土肥義則キーマンズネット]

 働き方改革以降、人事労務の担当者は労働関連法の改正対応に追われ続けてきた。次の焦点とみられていた労働基準法の改正案は、2026年の通常国会への提出が見送られた。改正を見込んで社内規定の改定や勤怠管理システムの改修を準備していた担当者は、ひとまず胸をなで下ろしたかもしれない。

 だが、安心するのは早い。改正案が消えたわけではなく、議論の中身はほとんどそのまま残っているからだ。しかも、審議会でどんな議論があったかは、行政の運用や裁判の判断でも参考にされる。法律になる前から、実務にじわじわ効いてくるということだ。

 では、いま何を押さえておけばいいのか。2026年6月16日にフリーが開催した「freee 統合ワールド 2026」では、社会保険労務士法人ASCOPEの社会保険労務士・衛生工学衛生管理者である上田真準氏と、法律事務所ASCOPEのパートナー弁護士である高橋顕太郎氏(正しくは、はしごだかの高)が、現在の制度と裁判例を基に実務上のポイントを解説した。

法律にならなくても、あなたの職場に効いてくる

 改正案は、労働政策審議会が審議して答申をまとめ、国会で可決されて初めて成立する。議論自体はかなり進んでいたが、政府内には労働時間規制の在り方を巡る別の方針もあり、すり合わせがつかない論点が多く残った。今回の見送りは、その整理のための一時停止とみられる。

では、何が決まっていて、何がまだなのか。

確定している事項

  • ストレスチェックの対象拡大(全事業場への義務化)
  • 高年齢労働者の労働災害防止指針の強化

確定していない事項

  • 勤務間インターバルの義務化
  • 「つながらない」権利
  • 連続勤務の制限(14日連勤禁止)
  • 裁量労働制・フレックスタイム制の見直し
  • 過半数代表者の選出
社会保険労務士法人ASCOPE 社会保険労務士・衛生工学衛生管理者 上田真準氏

 上田氏は、現在決まっていない論点こそ、制度化された場合に備えて先に準備する意味があると指摘した。法案は提出されなかったものの、議論が白紙に戻ったわけではなく、その内容は今後の制度設計や実務にも影響し続けるという。

 高橋氏は、裁判では条文の文言だけでなく、制度がどのような問題意識からつくられたのかという立法趣旨や議論の方向性も判断材料になり得ると説明した。審議会の議論は、今後重視される可能性のある論点を把握する上でも重要だという。

 2人は、法案の提出が見送られたからといって準備を止めるべきではなく、改正議論の狙いを理解し、よりよい職場づくりを続けることが重要だと強調した。

過労死の物差しは「時間の量」から何に変わったか

 政策の方向性は、大きく2つある。

  • 柔軟な働き方を広げる(裁量労働制の見直し、テレワーク、副業・兼業への対応)
  • 健康を守る手だてを強める(安心して働ける環境づくり、副業・兼業時の健康確保、データヘルスや健康経営の支援)

 働き方を柔軟にするほど、その裏側で健康を守る仕組みには、より高い実効性が求められる。この健康確保の取り組みは、「量」と「質」の両面で少しずつ強められてきた。

 「量」への対策は、長時間労働を抑えることが軸だ。時間外労働の上限規制や労働時間を客観的に把握する義務、三六協定の運用強化などが進んだ。ここに「質」への対策が加わる。ストレスチェック制度や面接指導の基準引き下げ、産業医と職場の連携強化などだ。疲労をためこませず、不調を早めに見つけて手を打つ方向に変わってきた。

 その象徴が、過労死などの認定基準の変化だ。かつては、時間外労働が直近1カ月で100時間超、または2〜6カ月で月平均80時間超、という「時間の量」が主な物差しだった。いまは、量に加えて質も見る「総合評価」に変わり、勤務間インターバルの不足や不規則な勤務、連続勤務なども判断材料に入ってきた。

 上田氏は、行政が既に、勤務間インターバルの不足や連続勤務を過労死などのリスクを高める要因として捉えていると説明した。現時点では労災認定における評価要素だが、今後、一般的な労働時間管理のルールとして法制度に取り込まれる可能性があるという。

法律事務所ASCOPE パートナー弁護士 高橋顕太郎氏

 高橋氏は、労働時間の把握にはタイムカードなどの打刻記録を用いるのが原則だが、それが勤務実態を反映していない場合には、別の客観的資料から実際の労働時間が認定される可能性があると説明した。

 この実例が、2012年のプロッズ事件(東京地裁判決)だ。タイムカードは実態を示していないと判断され、PCのタイムスタンプやメールの送信記録から、退勤打刻のあとも働いていた事実が認定された。タイムカード以外にも、PCログや業務メール、入退館記録、業務日報、出退勤の連絡などが証拠になる。ポイントは、「機械的な正確さ」と「業務との関連性」の2つの軸で見られることだ。

 「質」への対策では、問題が起きてから動くのではなく、早めに介入する流れが強まっている。産業医の面接指導も、2019年の改正で対象が広がった。それまでは「月100時間超の時間外・休日労働があって、本人の申し出がある」場合だったが、「月80時間超+申し出」に引き下げられた。研究開発業務では、月100時間超なら申し出がなくても面接指導が義務になった。

 企業側には、不調の芽を早く見つけて手を打つ仕組みが要る。その健康確保措置の「型」としては、「労働時間の把握」→「アラート」→「面接指導(産業医連携)」→「就業上の措置」→「その後のフォロー」という流れとなる。

 高橋氏は、長時間労働がうつ病や自殺につながるリスクがあるため、企業が従業員の労働状況を把握し、状況に応じた対応を取っているかが問われると指摘した。対応を怠った場合、慰謝料や休業損害、逸失利益などの民事責任を問われることもあるという。

最大48連勤も可能な今 先につぶすべき3つの穴

 2人が「対応が必要になる」と見るのは、主に次の3点だ。

1.休日と連続勤務の見直し

 現在の「4週4休制」では、休日の置き方しだいで最大48日の連続勤務が可能になる。これを「14日を超える連続勤務は禁止」に変える案が議論された。また、必ず与えるべき「法定休日」を事前に決めておく義務は今はないが、これを義務化する方向も話し合われた。

 企業に求められる実務対応は3つだ。

  • 連続勤務日数をリアルタイムで把握する。月末にまとめて数えるのではなく、システムで毎日カウントし、日数に応じて段階的にアラートを出す
  • 休日出勤を承認する段階で止める。申請の時点で連続勤務を計算し、規定を超えそうなら承認フローを止める。後から気付くより効く
  • 「振替休日」と「代休」を区別する。事前に振り替えれば通常賃金、事後の代休なら35%の割増賃金になる。手続き不備で代休扱いになるのを防ぐ

2.休息の確保

勤務間インターバルは、いまは「努力義務」にとどまる。これを「原則11時間は空ける」とする案が議論された。あわせて、勤務時間外にメールや電話、チャットで仕事の連絡が飛んでくる状態も休息を奪う。ここから「つながらない権利」に注目が集まり、ガイドライン整備が話し合われた。

 企業に求められる実務対応は3つだ。

  • 休息時間をリアルタイムで把握する。終業から次の始業までを常に自動計算する(例えば23時に終わって翌朝8時に始めれば、休息は9時間しかない)
  • 時間外の連絡ルールを整える。「原則として時間外のメール・電話・チャットはしない」などと、就業規則やガイドラインに書き込む
  • 現場の管理職の意識を変える。研修などを通じて、休息をとらせる大切さを腹落ちさせる

3.過半数代表者を正しく選ぶ

 三六協定や労働時間・休日のルールに関わる「過半数代表者」は、いまは事業場ごとに選ぶのが原則だ。これを、企業単位での選び方も視野に入れて見直す案が議論された。焦点は、その選び方が適正だと証明できるかどうか。もし選出が無効と判断されれば、三六協定そのものが無効になり、労基法違反で刑事罰を受けることもある。

 正しく選ぶための注意点は4つだ。

  • 経営者と一体の管理監督者を選んでいないこと
  • 投票や挙手など、過半数の支持がはっきり分かる民主的な手続きで選ぶこと
  • 「三六協定を結ぶための代表者を選ぶ」と、目的を明示していること
  • 投票結果や議事録など、選び方の記録を残しておくこと

背景にある主な裁判例

 この議論の裏には、休息や連続勤務を重く見る裁判の流れがある。

電通事件(2000年、最高裁):長時間労働に加え「休息の機会がなかったこと」を重く見て、損害賠償を認めた

プロッズ事件(2012年、東京地裁):タイムカード以外のPCタイムスタンプやメール記録から、実際の労働時間を認定した

国・岡山労基署長事件(2023年、福岡高裁):発症前1カ月に休息11時間未満の日が7回、インターバル5時間ほどの日もあったことなどから、業務が原因と認めた

静岡県警事件(2025年、最高裁):連続勤務と休息の欠如を重く見て、県の安全配慮義務違反を認めた

東大医科研付属病院事件(2026年、東京地裁):14日の連続勤務があり、発症前6カ月で休息11時間未満の日が56回あったことから、業務が原因と認めた

 いずれも、労働時間の長さだけでなく、休息がどれだけとれていたか、連続勤務がどうだったかが重く見られている。しかも休息が名ばかりでなく、実際に休めていたかまで問われる。法律で義務になる前から、こうした事情が判断に効いている。「条文に書かれていないから放っておいていい」とはならない。

法改正を待たず、実務から整える

 上田氏は、法改正の成立を待つのではなく、既に動いている実務の方向性に合わせて、社内の運用を整えることが求められると締めくくった。法改正がなくても行政の運用は更新され続ける。労災認定では、労働時間の「量」だけでなく、「質」「休息」「連続性」も考慮され、安全配慮義務については法改正の有無にかかわらず企業の対応が問われるからだ。

 企業の担当者がいますぐ始められるのは以下の3点だ。

自社の制度を見直す

 振替休日と代休の整理と法定休日の位置付け、時間外連絡のルール、過半数代表者の選び方を点検する

勤務実態を見える化する

 連続勤務日数と休息時間をリアルタイムで把握し、後から集計するだけでなく、アラートや事前の歯止めまで組み込む

管理職に浸透させる

 労働時間・休息・時間外連絡のルールを、研修などを通じて現場に根づかせる

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本記事は制作段階でChatGPT等の生成系AIサービスを利用していますが、文責は編集部に帰属します。

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