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100万台超の無線デバイスを低遅延で接続可能に!  新無線アクセス方式「STABLE」5分で分かる最新キーワード解説(2/4 ページ)

» 2018年11月21日 08時00分 公開
[土肥正弘ドキュメント工房]

1平方キロメートルあたり162万台の端末が収容可能に

 同時接続数が「5台」と聞くと少なく感じるかもしれないが、実用段階においては、マルチユーザーMIMO技術や周波数分割多元接続技術など別の技術と組み合わせることが、この研究の前提となる。既存技術の1つであるマルチユーザーMIMO技術(MU-MIMO)では、空間分割多元接続によって、現在のLTEで最大4台(上り回線)の同時接続が可能になっている。また周波数分割多元接続技術を併用することで、実験で使用したチャネル帯域幅を70倍(周波数帯域幅100MHzの場合)チャネル使用することが可能になる。つまり、5×4×70で1400台の端末が同時接続可能になるという計算だ。

 これに加え、「STABLE」が備える超低遅延化技術がものをいう。「STABLE」はセンサーデバイスなどの小容量データ通信を前提にして、20バイト程度のデータ伝送を1ミリ秒以下(無線区間の遅延時間)で可能にすることを目指して成功した。3GPPが超多数接続利用で想定しているシナリオは各端末から1回あたり20バイト程度のデータを送信するというものだが、「STABLE」では同程度のデータを1ミリ秒で送信できる。1秒間で最大1000台の端末が送信できることになり、1400×1000で合計140万台の端末が接続可能ということになる。

 3GPPが想定する超多数接続シナリオの基地局距離は1732メートルだが、これを3セクタ構成で運用するとすれば、図3のように1セクタあたりの面積は0.866平方キロメートル。その中で140万台の端末が接続できるので、1平方キロメートルあたりに換算すれば162万台という数になる。つまり計算上、3GPPが想定するシナリオを十二分にクリアする超多数端末接続が実現できるのである。

図3 3GPPの超多数接続シナリオにのっとった3セクタ構成での接続端末数試算(資料:NICT) 図3 3GPPの超多数接続シナリオにのっとった3セクタ構成での接続端末数試算(資料:NICT)

「STABLE」方式の技術概要

 「5G」のような無線システムでは、高速・大容量化技術がクローズアップされることが多いので触れておくが、その方向性と、多数端末接続・低遅延を目指す取り組みはユースケースが異なる(過去記事「5G」参照)。各種センサーやコネクテッドカーなどの移動体が行う通信では、むしろ比較的小容量でリアルタイム性が要求され、超多数端末が接続できることのほうがより重要になる。

 例えば高速・大容量化の方向では、従来よりも高い周波数帯域で得られる広い帯域幅を利用することが1つの解決策となる。しかし移動体通信などサービスカバレッジの広さが求められるユースケースでは、電波の伝搬距離が比較的短い高い周波数帯は向かない。一方、Massive MIMO(多数のアンテナを利用する空間分割多元接続技術)は高速・大容量化と多端末接続を同時に可能にする技術だが、低い周波数帯においてはアンテナ素子のサイズが大きくなり、基地局においては現行の4アンテナ構成が現実的であり、端末局においてはアンテナの多素子化が難しい(端末局アンテナの数は1本)。

 また、符号分割多元接続(CDMA)も多端末同時接続に役立つ技術だが、こちらは端末が増えるほど長い符号を使用する必要があるため、周波数帯域を広く使うか、遅延が大きくなるのを我慢しなければならない。

 こうした事情から、比較的低い周波数帯でアンテナ1本で多数端末接続を可能にし、かつ低遅延を求めた結果、実現したのが「STABLE」だ。

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