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100万台超の無線デバイスを低遅延で接続可能に!  新無線アクセス方式「STABLE」5分で分かる最新キーワード解説(1/4 ページ)

多数の無線デバイスが同時接続しても遅延を最小限にして十分な品質で通信できる「超多数接続・低遅延」技術として国立研究開発法人情報通信研究機構(NICT)が開発に取り組んだ「STABLE(ステーブル)」について解説する。

» 2018年11月21日 08時00分 公開
[土肥正弘ドキュメント工房]

 高速・大容量化にまい進してきた無線システム技術の次のターゲット、それは多数の無線デバイスが同時接続しても遅延を最小限にして十分な品質で通信できる「超多数接続・低遅延」技術だ。これを可能にする新無線アクセス方式の開発を国立研究開発法人情報通信研究機構(NICT)が取り組んでおり、世界に先駆けて屋外実証実験を成功させた。この「STABLE(ステーブル)」という技術について具体的に見ていこう。

「STABLE」とは何か

 現在、スマホや各種センサー、情報家電、コネクテッドカー、ドローンなど、多様・多彩な無線デバイスがネットワーク接続を前提に続々と登場している。一方で、通信に利用できる電波の周波数は限られているため、各種無線端末がどのように周波数を分けあって使うか、周波数利用効率をどう高めていくのかが大きな課題としてクローズアップされている。この課題を解決するための技術が、NICTが開発した無線アクセス方式「STABLE」だ。STABLEは、多くの端末が同一周波数で同時にデータ送信しても、基地局側で正確に各端末の通信を分離し、別々の通信として素早く処理できるような技術となっている。

図1 各種の無線端末が高密度に存在する環境で周波数利用効率を格段に改善する「STABLE」(資料:NICT) 図1 各種の無線端末が高密度に存在する環境で周波数利用効率を格段に改善する

同一周波数、同一時間領域で基地局アンテナ1本あたり5台の端末を接続

 現在、無線基地局のカバーエリア内に存在する無線端末との接続には、通信の「周波数をずらす(周波数分割多元接続)」か「時間をずらす(時分割多元接続)」か、どちらかの方法または両者の方法を併用して複数の無線端末が基地局との同時接続している。しかし近い将来にはIoTの進展でエリア内の端末数が爆発的に増えることが見込まれている。例えば3GPPが仕様を策定している「5G」においては、「1平方キロメートルあたり100万台超」の無線デバイスが接続できる世界が想定されている。つまり1平方メートルに1台、何かの無線デバイスがあって、それぞれが別々の通信をしていても十分な品質で送受信できるような無線通信環境が理想とされているのだ。

 そのような環境では、従来の無線アクセス方式では帯域が逼迫して、うまくつながらない端末が大量に出てきてしまう。そこで、従来の方法とは異なり、同一周波数・同一時間で複数の端末が同時に通信しても、基地局側で素早く信号を分離して別々の通信として成立させる無線アクセス方式(NOMA:Non-Orthogonal Multiple Access/非直交多元接続)が必要とされるようになった。「STABLE」はNOMA実現のための1つの試みだ。NICTはこの方式での多数端末接続を図2のような屋外環境で試行した。その実証実験では、1本のっ基地局アンテナを用い、同一周波数、同一時間領域で、基地局のアンテナ1本あたり5台の端末の接続が可能なことを確認した。5台の中には固定端末が3台、車両に搭載して時速30キロで移動する端末が2台含まれている。

図2 横須賀リサーチパークにおける屋外伝送実験(資料:NICT) 図2 横須賀リサーチパークにおける屋外伝送実験(資料:NICT)

 この実験では、5台の端末から1秒あたり500回の送信を行い、基地局側でデータの分離処理を行って、データ伝送成功率と遅延(データ分離までに要する時間)を計測。2.5GHz帯を利用し、チャネル帯域幅を1.4MHzに設定、端末側の送信電力200mWで計測した結果、移動端末の走行ルート全体にわたる同時接続成功数は平均4.5台、端末あたりのデータ伝送成功率は90%以上(実験ではデータの再送処理は行わない条件とした)、データの分離処理に要する時間は3.9ミリ秒以下であることが実証された。

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