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RPA×AI-OCRを進化させる、世界初の「PC内蔵スキャナ」──独占取材・台湾Avisionの担当者に聞く【前編】

» 2020年02月26日 10時00分 公開
[相馬大輔RPA BANK]

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ソフトウエアで定型業務を代替するRPA(ロボティック・プロセス・オートメーション)の活用に取り組む企業において、担当者の多くは「OCR(光学文字認識)」との併用を念頭に置いている。2019年12月に開催された「RPA DIGITAL WORLD 2019 WINTER in TOKYO」の来場者に、検討中のソリューションを尋ねたアンケート(774人による複数回答)では「RPAの全社展開」「OCR」が、ほぼ拮抗していた(順に390件、363件)。

紙帳票などに記された情報をデジタルデータとして速く・正確に取り出せる仕組みが、RPAを含むデジタライゼーション全般の基礎となることは、もはや論を待たないところだ。ただ一方、人工知能の応用で高まった認識精度に期待が集まる「AI-OCR」の導入は19年下半期に伸び悩み、RPAを本格展開済みの企業に限っても採用率は「19%」にとどまっている(RPA BANK「第4回RPA利用実態アンケート調査レポート」)。

高い関心にもかかわらずAI-OCRの普及が足踏みしている背景にはいくつかの要因が考えられるが、その一端をハードウエアからのアプローチで打破する試みが、このほど動き出した。世界初となる「PC内蔵型ドキュメントスキャナ」の製品化を決定した台湾Avision(虹光精密工業股份有限公司)に、RPA BANKは現地で独占取材。担当者へのインタビューを全2回に分けてお届けする。初回となる本記事では、まず新製品の概要をお伝えしたい。

(写真左から)林士庭(Alex Lin)氏(プロジェクトマーケティング部 副部長)、施伯昇(Brian Shih)氏(マーケティング企画部 シニアマネージャー)、盛士超(Martin Sheng)氏(マーケティング企画部 マネージャー)

■記事内目次

  • 「エッジコンピューティング」を携え、世界有数のスキャナメーカーがRPA市場に参入
  • 「PC内蔵」「ネットワーク接続不要」のメリットとは
  • 開発中の機種から派生させたスピード開発で、今年9月の発売を予定

「エッジコンピューティング」を携え、世界有数のスキャナメーカーがRPA市場に参入

─最初に、貴社の簡単な紹介をお願いします。

盛士超(Martin Sheng)氏(マーケティング企画部 マネージャー): 当社は世界有数のシェアを誇るドキュメントスキャナをはじめ、プリンタや複合機などを手がけるメーカーで、台湾証券取引所に上場しています。本社がある台湾・新竹市と、中国・蘇州市に生産拠点があり、自社ブランドおよび主要プリンタメーカーからの受託の双方で豊富な実績があります。日本においては現在、代理店を経由してモバイルスキャナなどのAvision製品を販売しています。

このたび、RPAならびにAI-OCRの分野に向けた製品の発売を決定し、量産に向けた準備を進めていますが、こうした特定分野にフォーカスした自社ブランド製品の開発は初めての試みです。急成長するRPA市場に向けたソリューションを、当社の新たな柱に育てていきたいと考えています。

─新製品のラインアップと特徴についてお聞かせください。

施伯昇(Brian Shih)氏(マーケティング企画部 シニアマネージャー): 現在計画している製品は大きく2タイプあり、オートフィードつきの両面読み取り対応ドキュメントスキャナと、A4対応のプリンタ複合機をベースにしています。このうち開発が先行しているのはスキャナタイプで、「AI300」というシリーズ名のもと、スキャン速度が異なる3機種をラインアップする予定です。

スキャナや複合機としての基本性能に加え、今回の製品の大きな特徴となるのが「PCとして動作する」という点です。本体のタッチパネルからはもちろん、外付けのモニタ、マウス、キーボードを接続して通常のWindows/Linux PCとしても使うことができます。

さらに重要なポイントとして、エッジコンピューティングでのAI活用を実現するIntelの技術「OpenVINO」をサポートしている点も挙げられます。「エッジコンピューティング」とは、クラウドコンピューティングの対極にある概念で、データの処理を利用者の近くで行うことを意味します。

「エッジコンピューティングのコンセプトに基づき、ネットワークに接続しない状態でAI-OCRによる文字認識が行えるスキャナ/複合機」は、世界で初めての製品となります。同様に「PCを内蔵しているスキャナ/複合機」も、今回の私たちの製品が世界初となります。

「PC内蔵」「ネットワーク接続不要」のメリットとは

─今までにないコンセプトの製品ということですが、業務効率化のツールとして使う際、従来のスキャナや複合機と具体的にどのような違いがあるのでしょうか。

林士庭(Alex Lin)氏(プロジェクトマーケティング部 副部長): スキャン画像をOCRで処理する場合、通常は読み取る装置の近くに操作用のPCを用意すると思いますが、本製品はPC内蔵型なので、これ1台だけで済みます。さきほどもあった通り、外付けモニタやマウス、キーボードなどを接続して本体内蔵のPCを操作することも可能です。

画像の切り出しや補正、ファイルタイプの変更といった、スキャナとしての基本機能は専用のチップで組み込んでいますが、本製品ではそれとは別にPCとしてのハードウエアも備えているため、エッジコンピューティングに対応したAI-OCRなどの多様なソフトを、必要に応じてインストールして使えるようになりました。

ですから例えば、「スキャン画像を読み取りやすく補正してAI-OCRにかけ、文字認識の結果を人間がチェックすると、RPAツールによる後続処理が始まる」といった一連の工程を、本製品だけで完結させることもできます。

施氏: エッジコンピューティングへの対応で、ネットワーク接続されていなくてもAI-OCRが利用できるようになったのも重要なポイントです。

私たちがRPAベンダーから得た情報によると、RPAに取り組む日本企業においては、セキュリティー対策として社外との送受信を制限したり、物理的に外部ネットワークとの接続方法を設けなかったりする社内システムが珍しくないようです。

AI-OCRの多くは現在、クラウドサービスとして提供されています。これはエッジコンピューティング対応のハードウエアがまだ少なく、AIの実行環境をユーザーの手元で構築しづらいことが一因と思われますが、もし社内システムから社外のネットワークに接続できなければ、クラウドサービスのAI-OCRは全く使えないことになります。

セキュリティーとの兼ね合いでAI-OCRが直面するこうした壁を、今回の製品はエッジコンピューティングによって回避しています。したがって、AI-OCRによるデジタルデータ化の推進や、それに続く工程でのRPAの活用拡大に大きく貢献できると考えています。

開発中の機種から派生させたスピード開発で、今年9月の発売を予定

─既に量産を見据えたプロトタイプが完成しているそうですが、開発はいつごろ、どのようにして始まったのですか。

林氏: 昨年(2019年)6月、Intelからコンセプトを提案されたのが始まりです。「日本のRPA市場におけるAI-OCRへのニーズを踏まえ、Avisionのドキュメントスキャナの現行モデルを、OpenVINOでエッジコンピューティングに対応させてみてはどうか」というのが、当初提案されたプランでした。

ドキュメントスキャナは、新製品をゼロから設計すると完成までに通常5年ほどかかります。ところが幸い、今回提案を受けた時期の当社では、スキャンした画像をクラウドなどで管理する「ネットワークスキャナ」の新製品開発がちょうど佳境を迎えていました。

盛氏: そこへ多少の設計変更と改造を加えれば派生機種もつくれる見通しが立ったため、エッジコンピューティング対応のドキュメントスキャナであるAI300シリーズの開発プロジェクトがスタート。当社とIntel、さらにAI-OCR開発企業の協力も得ながら、構想から6カ月弱でプロトタイプの完成に至りました。

このプロトタイプを、さる12月に東京で開いたプライベートセミナーで披露したところ、RPAベンダーなど約10社から前向きな反応が得られたため、量産を最終決定しました。

同時に、このセミナーの場では「もっと処理速度を速く」「ファクス受信やプリントアウトにも対応を」といったリクエストをいただいたため、AI300シリーズの3機種については搭載するCPUをすべてアップグレードしました。さらにプリンタ複合機タイプも追加でラインアップすることとし、いずれも近日中に実機を日本で公開する予定です。

─具体的な販売の見通しについてもお聞かせください。

盛氏: 今夏から量産に入り、まず日本で9月から販売を開始する予定です。本製品の場合、単体でご購入いただくよりはソリューションの一要素として導入されるケースが多くなると考えていますので、具体的なパッケージの詳細は今後、日本のRPA市場を熟知したパートナー企業とともに検討していきたいと考えています。

AI-OCRソフトやRPAツールを含まないハードウエア本体のみの価格については、Avisionまで直接お問い合わせいただけたらと思います。


AI-OCRとRPAの運用を大きく変えうるハードウエアが、まもなく姿を現す。後編では、新製品が業務効率化の実践にもたらすインパクトについて詳しく紹介する。

<後編へ続く>

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