OpenAIは組織運営を支える情報基盤としてNotionを採用している。OpenAIの「光の速さのイノベーション」にNotionがどのうように貢献しているのか。
生成AI「ChatGPT」で世界を席巻した OpenAI――その急速な組織拡大とプロダクト開発を支えた情報基盤が「Notion」だ。OpenAIはNotionをどう活用し、組織運営を効率化しているのか。Notion Labs Japanの杉田信幸氏(アカウントエグゼクティブ)と小島清久氏(ソリューションエンジニア)が語った。
杉田氏はまず、企業が抱える情報管理の課題について言及した。
「企業で利用されるSaaSは平均88個、2000人以上の大企業では247個という調査結果があります。われわれはこれを『SaaS中毒』と呼んでいます。SaaS中毒は、作業効率の低下や情報のサイロ化、イノベーションの阻害など、企業活動の根幹に関わる問題を引き起こします」
こうした課題を解決する手段として杉田氏はNotionが有効だという。Notionは、ドキュメント作成やデータベース管理、ワークフロー構築を1つのプラットフォームで実現する。ブロックをレゴのように組み合わせてUIや機能を柔軟に設計できるため、「シンプルさ」と「多機能さ」のトレードオフを解消した点が評価され、世界のユーザー数は1 億人を突破している。
一般的に、Notionを個人で利用するユーザーはメモやタスク管理から使い始めるが、企業においては、個人から、チーム、部署横断のプロジェクトまで拡大し、最終的には組織全体を支える「コネクテッドワークスペース」へと発展させることで効果を最大化できる。議事録や社内Wiki、プロジェクト管理など、さまざまな用途で活用し、Notionにデータを集めることで、社内業務を一つの場所に集約可能だ。
業界をリードする革新的な企業の多くがNotionを活用しており、「ChatGPT」を提供するOpenAIもその一社だ。同社は、数百人規模の研究所だった頃にチームの情報を一元化するツールとしてNotionを選択。現在は、リサーチや開発、市場進出(Go-To-Market)戦略など、あらゆる業務がNotionに集約されている。杉田氏はこれを、組織全体を動かす「Company OS」と表現する。
杉田氏はOpenAIの幾つかのチームにおけるNotionの活用例を紹介した。
OpenAIでは「新メンバーがいかに早く戦力化できるか」が大きな課題だった。従来は組織構造やシステムを理解するまでに数週間を要していたが、現在はNotionに集約された情報とNotion AIの検索機能を活用することで、その時間を大幅に短縮。入社初日から研究に専念できるようになった。杉田氏はこのユースケースを「Day Oneの貢献」と呼ぶ。
エンジニアリングチームの「午前3時のセーフティネット」という事例も印象的だという。あるエンジニアがオンコール当番をしていた夜中の3時、ChatGPTの応答時間が著しく遅延するというインシデントが発生した。本来なら複数のエンジニアをたたき起こして対処しなければならない緊急事態だったが、そのエンジニアは6カ月前の同様のインシデントに関するドキュメントをNotionで素早く検索し、わずか数分で問題を解決した。
こうした経験を通じて、Notionは単なる「あったらいいもの」から、サービス運用の安定性を支える重要な資産へと変わったという。
リサーチチームにおいては、リサーチャーが実験結果を構造化されたテンプレートに文書化し、エンジニアリング仕様に流し込むことで、コンセプトから展開までの切れ目のない連鎖を作り出している。この合理化されたパイプラインにより、技術革新のサイクルが数週間早まり、画期的な機能がかつてないほど早くユーザーに届くようになった。
データサイエンスチームでは、膨大なデータをNotionに集約して、重要なインサイトを日々生み出している。「Mode」や「Databricks」といったデータツールのダッシュボードを直接埋め込み、レポート準備時間を1時間以上節約した。「重要なのは、組織内の誰もがそれをいつでも見られるということ。これにより最適な意思決定が最速で実現します」(杉田氏)
GTM(セールス&マーケティング)チームは、セールスやマーケティング、カスタマーサポートに関する大量のコンテンツをNotionのチームスペースに集約している。Notion Alを使えば、製品ローンチに向けた営業活動の準備から、新メンバーのオンボーディングまで、あらゆる業務で必要な情報にすぐにアクセスできる。
「急速に拡大する組織では、複雑さやカオスが同じスピードで生まれます。Notionを使えば、入社初日のメンバーでも3年目のベテランでも、全員が同じレベルの情報で活動できる環境を整えられ、カオスは起きません」(杉田氏)
定量的な効果としては、モデルイテレーションを59%高速化、データサイエンティスト一人当たり週69分の工数削減を実現し、Notionのデーリーアクティブユーザーは93%に達した。
杉田氏によると、OpenAIがNotionを徹底活用することで、Notion自体の機能強化も加速している。Notion AIは2022年、OpenAIの大規模言語モデルにいち早くアクセスし、わずか1週間でAIライティングアシスタントのプロトタイプを完成させた。このときの知見に加え、OpenAIが日々寄せるフィードバックが、Notion AIの開発に直接反映される──こうした好循環が生まれている。
ウェビナー後半では、小島清久氏によるデモを通じて、OpenAIが実践しているようなワークスペース構築の方法が紹介された。
中核となるのは、Notionの「データベース」を活用した情報の構造化だ。データベースはページを管理、整理するNotion独自の仕組みで、各項目は独立したページとして存在しているが、プロパティを用いることで相互に関連付けられ、検索や絞り込みも行える。
「まずページを一つ一つ作成し、それらを関連付けて構造化し、最終的に集合体へと育てます。こうして完成した仕組みこそが大きな情報資産になります」(小島氏)
デモでは「主要データベースWiki」から各種データベースへアクセスする構造が示され、目標データベースから関連するプロジェクトやタスクへの双方向の関連性が確認できた。
「このようにページ同士を関連付けることで、目標からプロジェクト、タスク、議事録まで双方向に関連性を持たせて見られます。Jiraなど外部ツールとの連携も可能です」
こうして構造化したデータベースを束ねることで、最終的にはNotionを統合ダッシュボードとして利用することも可能だ。Notionでは、プロジェクトの進捗や顧客フィードバックなど蓄積した情報を、テーブルやガントチャートなど多彩なビューで可視化できる。Notion AIを使えば、必要な情報の所在を検索したり、各ドキュメントの内容を自動要約したりすることも可能だ。
最後に杉田氏は、OpenAIが実践したポイントとして、「1つのチームで作られた共有ワークスペース」を組織全体に広げたこと、「全てのチームの知識、ワークフローをつなぐ中心的ハブ」の構築、「個人の才覚を集合的な知性の『空間』に変え、光の速さのイノベーションを実現」の3つを挙げた。
「OpenAIのチームのNotion活用アプローチは、まさにツールと手法、組織の改善によって、複雑で緊急性の高い問題に向き合うという、コンピュータパイオニアのダグラス・エンゲルバートの理想を体現しています」と杉田氏は締めくくった。
本記事は、Notion Labs Japanが開催したウェビナー「Notion企業活用事例ウェビナー OpenAI社」の内容を編集部で再構成した。
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