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要注意なのはやっぱりあのメーカー? HDDの故障率

HDDの大容量化が進み、エンタープライズ用途では20TB品の利用も珍しくなくなった。こうなると故障したときの損失が大きい。どのブランドのどのHDDが壊れにくいのだろうか。

» 2025年05月20日 07時30分 公開
[畑陽一郎キーマンズネット]

 HDDやSSDなどを数十万台規模で運用するBackblazeは2025年5月13日(現地時間)、自社のデータセンターにおけるHDDの故障率などを統計レポートとして発表した。2025年第1四半期(2025年1月1日〜同3月31日)の間で、Backblazeは世界中のデータセンターに設置されたクラウドストレージサーバが内蔵する約31万台のHDDを監視していた。その監視データを基に、ブランドや容量ごとの故障率などを紹介する。

 Backblazeが運用しているHDDの大半を占めるのがデータ格納用だ。図1にはその概要を示した。データ保存用HDDは30万8861台あり、ブランド別ではSeagate Technology(以下、Seagate)が34.5%と最も多く、次いでToshiba(32.1%)、Western Digital(23.3%)、HGST(10.1%)だった。

図1 Backblazeが運用しているデータ格納用HDDの概要。Drive count:台数、Drive failures:故障件数、Drive Days:総稼働日数(提供:Backblaze)

要注意なのはやっぱりあのメーカー?

忙しい読者のための要約

  • BackblazeはAFRという指標で故障率を測定しており、2025年第1四半期の全HDDを通したAFRは1.42%だった
  • この期間に全く故障しなかったHDDは4モデルあった。HGST(4TB)の他、Seagate(8TB、12TB、16TB)だった。
  • AFRが4%よりも高かったのはSeagate(10TB、12TB、14TB)、HGST(12TB)だった
  • つまりSeagateは故障ゼロから高い故障率までモデルによってばらつきが激しい。
  • 長い目で見た故障率(生涯AFR)は全モデルを通して1.32%だった。
  • 生涯AFRが優れたHDDは順にWestern Digital(16TB)、HGST(4TB)、Western Digital(14TB)、HGST(12TB)だった。
  • 生涯AFRの数値が悪いHDDは順に、Seagate(14TB)、Seagate(10TB)、Seagate(12TB)、Seagate(別の12TB)だった。

具体的なモデル名は表1と表2を参照


2025年第1四半期のHDD故障率

 表1は同社が運用していたHDDのうち、特定の条件*を満たした31万3742台のデータ格納用HDDを対象に、2025年第1四半期時点の年間平均故障率(AFR)と通算の生涯AFRを計算し、モデル別、容量別に示したものだ。

*2025年第1四半期全体では31万8426台のHDDを監視していた。このうち、ブートHDD(3970台)と2025年第1四半期終了時点で稼働中の台数が100台以下のモデル、第1四半期中の稼働日数が1万日以下のモデルを除外した。

表1 2025年第1四半期におけるHDDの統計 Backblazeがデータセンターで運用中の4ブランド、30モデルを含む。項目は左からMFG:メーカー名(ブランド名)、Model:モデル名、Size:容量、Drive Count:台数、Avg.Age(months):平均稼働月数、Drive Days:総稼働日数、Failures:故障件数、AFR:2025年第1四半期の年間平均故障率(提供:Backblaze)

AFRの計算方法

 表1の右端にあるAFRの意味と計算方法を説明しよう。AFRは年間平均故障率を示しているため、数字が小さいほど故障しにくい。

 データからAFRを求めるには、求めたいモデルの故障件数をそのモデルの総稼働日数で割り、365を掛け、100倍して%表示にする。

 表1の2行目にある「HGST HMS5C4040BLE640」であれば「3÷324039×365×100=0.337(%)」、つまり0.34%だ。

 なお、この計算式から分かるようにAFRには運用中のHDDの台数は直接関係しない。


 表1から分かることは4つあるという。

 息が長い4TBモデル 4TBモデルは使用期間が長いものの、HGSTの「HMS5C4040ALE640」の故障台数はこの四半期でゼロ、同じく「HMS5C4040BLE640」のAFRは0.34%と低かった。

 20TBモデルの故障率は低い 24TBのSeagate製品「T24000NM002H」はこの四半期で8件の故障があり、完璧とはいえない。それでも、このHDDのAFRは1.11%と低い。全HDDの平均AFRは1.42%だ。20TB以上のHDD群全体の平均AFRを見ると、0.72%であり、約半分という良い成績だった。

 故障ゼロのHDDは4モデルあった このうち、Seagateの12TB製品を除く3モデルは2024年第4四半期にも故障がゼロだった。

ブランド モデル 容量
HGST HMS5C4040ALE640 4TB
Seagate ST8000NM000A 8TB
Seagate ST12000NM000J 12TB
Seagate ST14000NM000J 14TB

 故障率が前四半期より微増 四半期のAFRを見ると、前四半期の1.35%から今四半期は1.42%に上昇した。比較的AFRの値が悪かったHDDは次の4モデルだ。2024年第4四半期(Q4)と2025年第1四半期(Q1)のAFRの値を示す。

ブランド モデル 容量 Q4のAFR Q1のAFR
Seagate ST10000NM0086 10TB 5.72% 4.72%
HGST HUH721212ALN604 12TB 5.15% 4.97%
Seagate ST12000NM0007 12TB 8.72% 9.47%
Seagate ST14000NM0138 14TB 5.95% 6.82%

長い目で見たHDDの故障率はどうだったのか

 表1は2025年第1四半期という3カ月間だけの故障の状況を示したものだ。ではもっと長い期間を観察したとき、何が分かるだろうか。

 2025年第1四半期末時点で500台以上のHDDがあり、総稼働日数が10万日以上のモデルについて調査した生涯故障率のデータが表2だ。表2には31万2493台のHDDの結果が示されており、モデルの数は26だった。

表2 HDDの生涯故障率 Backblazeがデータセンターで運用中の4ブランド、26モデルを含む。項目は左からMFG:メーカー名(ブランド名)、Model:モデル名、Size:容量、Drive Count:台数、Avg.Age(months):平均稼働月数、Drive Days:総稼働日数、Drive Failures:故障件数、AFR:生涯故障率(提供:Backblaze)

 表2が示す全モデルを通した生涯AFRの値は1.32%だ。これは2024年末時点の生涯AFRの値1.31%とほぼ同じであり、生涯AFRの値が安定していることが分かった。

 ただし幾つかのモデルのAFRの値が大きく変化していた。

生涯寿命が改善した4つのHDD

 表3に示した4つのHDDは生涯AFRが改善した。

表3 生涯AFRが改善したHDD。項目は左からMFG:メーカー名(ブランド名)、Model:モデル名、Size:容量、Drive Count:台数、Avg.Age(months):平均稼働月数、Drive Days:総稼働日数、Failures:故障件数、AFR:2025年第1四半期末の生涯故障率、2024 Lifetime AFR:2024年末時点の生涯AFR、Change Percentage:生涯AFRの改善率(数値がマイナスの場合改善を示す(提供:Backblaze)

 表3に挙げた最初の2つのHDDはいずれも四半期ごとの故障数がほぼ同じだった。東芝の20TBモデルとWestern Digitalの22TBモデルの故障数は2025年第1四半期の方が多かったものの、かなりの数のHDDを第1四半期に追加している。これは平均稼働月数を増やす効果があるので、故障数が増えるのは当然だという。

生涯寿命が悪化した5つのHDD

 表4に示した5つのHDDは生涯AFRが悪化した。

表4 生涯AFRが悪化したHDD。項目は左からMFG:メーカー名(ブランド名)、Model:モデル名、Size:容量、Drive Count:台数、Avg.Age(months):平均稼働月数、Drive Days:総稼働日数、Failures:故障件数、AFR:2025年第1四半期末の生涯故障率、2024 Lifetime AFR:2024年末時点の生涯AFR、Change Percentage:生涯AFRの改善率、数値がプラスの場合は悪化を示す(提供:Backblaze)

 Western Digitalの3モデルは生涯AFRが悪化したとはいえ、2025年第1四半期のAFRとしてはトップレベルだ。「WUH721816ALE6L0」(16TB)をみると0.45%から0.48%というわずかな悪化だが、もともとの数値が低いため、改善率としては悪い数字になってしまっている。

 残りの2モデルはHGSTの12TBのHDDだ。どちらも2025年第1四半期の平均AFR(1.42%)を上回り、表4の1行目に挙げた「HUH721212ALE604」は1.45%、同じく2行目に挙げた「HUH721212ALN604」は2.06%だった。これは何を意味するのだろうか。

 Backblazeによれば、HUH721212ALE604は故障率が1.45%と高いにもかかわらず「合格」だと考えられるという。なぜなら、平均稼働月数が67.1カ月(約5年半)と長いからだ。HDDなどの工業製品が従う故障曲線(バスタブカーブ)で定義された予想パターンに沿っているため、この高い故障率は正常な数字だと言える。

バスタブ曲線とは何か

 機械や装置の故障率を稼働開始から測定していくと、いわゆる「バスタブ曲線」(西洋風の風呂おけの形をした下に凸の故障率曲線)に当てはまることが多い。

 バスタブ曲線は故障率が低下する「初期故障期」、故障率がほぼ一定で推移する「偶発故障期」、故障率が上昇する「摩耗故障期」の3つの期間に区分される。このような3つの期間に分かれる理由は、故障の原因が3つ(初期に多い初期故障、後期に多い摩耗故障、一定な水準を保つランダムな故障)あり、どの時点でもその和が実際の故障率になるためだ。


 故障率が2.06%と高いHUH721212ALE604はバスタブ曲線では説明が付きにくいものの、今後も生涯AFRが増えていかない限り、大きな問題にはならないだろうという。

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