2021年9月13日、RPA BANK はキーマンズネットに移管いたしました。
移管に関する FAQ やお問い合わせは RPA BANKをご利用いただいていた方へのお知らせ をご覧ください。
「RPAで業務効率が上がるらしい。わが社でもできないか」。勤務先で突然そう告げられ、何から始めればよいか頭を抱えている方は多いのではないだろうか。
RPA(ロボティック・プロセス・オートメーション)ツールは、日々目まぐるしく進化を続けている。解説書を手に取っても、実際のツール選びに関する記述はごくわずか。ネットで最新情報を探しても、断片的な内容があちこちに散らばっているため全体像が見えづらい。
「ツールについて一通りのことを、ざっと知りたい」というとき参考となる資料がなく「何をどこまで押さえればよいか」が分かりづらいのが実情だろう。
そこで今回、30社を超えるRPA導入支援実績を誇り、2017年8月に初開催された「RPAロボットコンテスト」(RPA BANK主催)での優勝経験も持つ株式会社ビッグツリーテクノロジー&コンサルティング(BTC、東京都港区)を取材。
執行役員の湯川政延氏に、RPAツールの種類、そして選定時の勘どころについて解説いただいた。
―ここ1、2年で、業種も規模も幅広い企業がRPAを採り入れるようになり、市場に出回るRPAツールも増えてきました。選択肢が多いのはよいことですが、これから導入検討を進める担当者にとっては、自社に合うツールを見つけるのが難しくなった印象もあります。
そうですね。数多くのRPAツールがバージョンアップを重ねて性能向上を続けてきた結果、現在は「どのツールを選んでも、ほぼ同じことができる」状況に近づきつつあります。
しかし、だからといってツール選びに意味がなくなったわけではありません。
例えば「東京から大阪へ移動する」というとき、新幹線や飛行機、夜行バス、自家用車など、いくつもの手段が考えられますが、移動目的や同行者の顔ぶれ、日程、予算といった個別の事情によってベストの選択は変わってきます。RPAツールについても、これと同じことが言えるのです。
各社のRPAツールには、それぞれ開発背景とコンセプトがあり、力を入れているポイントが異なります。ロボットの作業中に人間が手を触れない「完全自動化」を重視する製品がある一方、人間とロボットが「協働」することを前提にツール開発を行うメーカーもあります。
RPAを検討する全ての企業において「業務効率化」「生産性向上」を通じた会社の成長を実現していくという大まかな目的は共通しているかもしれません。
しかし「現場主体で全社的な展開をしていきたいのか(ボトムアップ型)」「経営主体で全社的な展開をしていきたいのか(トップダウン型)」など、具体的な内容や、そこまでのアプローチは各社の経営環境(会社規模、組織体制、経営戦略など)によって異なるはずです。
当たり前のようですが、目を引く機能に踊らされるのではなく、「自社でやりたいことが簡単にできるか」ということを念頭に、ツールの相性を確かめることが大切です。ツール選びは重要ですが、それはあくまで目標実現のための手段であるということは覚えておきたいです。
第一歩としては「RPAツールが大きく分けて2種類ある」ことを知っておくのがよいでしょう。
―2種類とは、どのようなものですか。
「サーバー型RPA」と「デスクトップ型RPA」です。「RPA」と言うとき、狭義ではサーバー型のみを指し、デスクトップ型のRPAツールは「RDA」(ロボティック・デスクトップ・オートメーション)とも呼ばれます。
この2つは、人間が処理していた作業を肩代わりしてくれるソフトウエアロボットの「活動場所」に違いがあります。
サーバー型RPAツールの代表的なものとしては「Automation Anywhere」「BizRobo! Basic」「Blue Prism」などが挙げられます(アルファベット順、以下同じ)。
一方、デスクトップ型RPAの代表的なツールとしては「RPA MinoRobo」「WinActor」などが挙げられます。
また、「Pega Robotic Automation」「UiPath」「WinDirector」などデスクトップ型・サーバー型双方の使い方ができるツールもあります。デスクトップ型のツールに、サーバーから作業指示が出せるオプションを設定するのがよくある構成です。
以上はすべて、導入企業自身で利用環境を構築するRPAツールについての説明ですが、インターネット経由のサービス(SaaS)として利用できる「SaaS型RPA」もあります。「BizRobo! DX Cloud」「BizteX cobit」「WinActor Manager on Cloud」などが挙げられます。
―デスクトップ型とサーバー型には、それぞれどのような特徴がありますか。
両者のメリットとデメリットをまとめると、次のようになります。
デスクトップ型のメリット
デスクトップ型のデメリット
サーバー型のメリット
サーバー型のデメリット
―自社にとって、デスクトップ型・サーバー型のどちらが向いているか、また具体的にどのツールが最適かを、どのように判断すべきでしょうか。
以下の観点と照らし合わせて、総合的に判断すればよいでしょう。
このうち最初の「現在のIT環境」とは、
などを指します。さまざまな開発コンセプトで設計されているRPAツールは、それぞれ得意な処理・苦手な処理があるので、最新の仕様をチェックし、実際の業務で問題なく動作するかをPoC(概念実証)の段階でテストしておくことが重要です。
その次にある「RPA導入プロジェクトの体制」とは、簡単に言うと ・ロボットの導入部署が(システム部門などの協力を得ながら)実装や運用にも取り組むか という問題です。
現場が意欲的な場合、もっとも適しているのはデスクトップ型のツールです。というのは、デスクトップ型のロボットは人間が指示したときだけ動くため、1人ひとりが必要なタイミングで、自身のアシスタントとして活用する「協働」に適しているからです。
たいていのデスクトップ型のツールは、人間のPC操作を記録し、そっくり同じ動作をさせる「レコーディング機能」を搭載しています。ロボットに何をさせられるかが手っ取り早く理解できるので、業務改善への機運も高まるはずです。
こうしたボトムアップの取り組みと対照的に、トップダウンで全社展開・大規模展開を目指す企業では、ロボットの開発運用をシステム部門も交えて組織的に進め、業務の全面自動化に踏み切る場合も多いと考えられます。作成者本人しか分からない部分が出てくるレコーディング機能をここで用いるべきではありませんし、全面自動化は人間の指示が必要ない仕組みです。必然的に、デスクトップ型ではなくサーバー型を選ぶこととなるでしょう。
さきほど「デスクトップ型・サーバー型双方に対応したツールがある」と説明しましたが、トップダウンとボトムアップのアプローチの同時並行でRPAの導入を進めた企業がこうしたツールを採用し“いいとこ取り”のコンセプトを体現したという実例もあります。
最後に挙げた「最終的なロボット活用のスケール感」とは、 ・自社でロボットの展開が成功した場合、最大でどの程度の稼働数(PC2~3台で留まるのか、あるいは全社展開を目指すのか)が見込まれるか ということです。
デスクトップ型に多い「使用端末数単位」で課金される製品の場合、導入規模の拡大は、そのままコストの増加につながります。また、ロボットの数が多くなるほど稼働状況の管理が重要となり、メンテナンスの頻度も増えてきますが、こうした保守業務に欠かせないログの記録や更新履歴の管理機能は、圧倒的にサーバー型のほうが充実しています。
このため、ロボットの全社導入・大規模展開を目指す企業は、テスト段階でデスクトップ型を採用しても、いずれサーバー型に移行することとなるでしょう。
最初からいきなり導入規模を見極めるのは難しいかもしれませんが、プロジェクトの目標や対象業務を詰めていく中で、ぜひ意識しておいてほしいポイントです。
―ツールを決める前から気が早いかも知れませんが、RPAを導入した後の展開についても簡単に教えてください。
RPAの導入をきっかけに、社内業務の自動化・効率化を進めていくにつれて「RPA単独でできること、できないこと」が分かってくると思います。そこで次のステップとして、関連するテクノロジーをRPAと組み合わせて採り入れていくことになるでしょう。
特に多いのがOCR(光学文字認識)の採用です。紙文書が介在する業務を自動処理するのが目的で、私の会社で支援しているRPA導入プロジェクトでは、4割程度が同時にOCRを検討している状況です。
BPM(ビジネス・プロセス・マネジメント)ツールとRPAの併用が検討されるケースも増えています。これは、一緒に働いている人とロボットの作業状況をまとめて把握したり、数が増えたロボットを一元的に管理したりする目的で活用されています。
―RPAと同時に、AI(人工知能)を活用するケースもありますか。
ええ。OCRの認識率を高めるために画像認識のAIを応用したソフトをRPAと併用するケースや、問い合わせ内容を分析するAIを使ったチャットボットにRPAを組み合わせている例などがみられます。
AIはいずれ、RPAの稼働状況をバックグラウンドで監視し、作業のボトルネックや実装の不具合などを自動で解消するようになっていくと思います。ただ、現状ではまだ、そこまで万能ではありません。
ですから、RPAの本格運用に入った後のメンテナンスやカスタマイズを自社で完結するのが難しい場合、当面の対応としては、技術力を持つ外部の企業から遠隔操作などを通じて診断・支援を受けるのが最善策になると思います。
自社に最適なRPAツールを選び、無事導入できた後も、トラブルシューティングや基幹システムとの連携、業務そのものの見直しといった「ワンランク上の課題」が、少しずつ顕在化してくるはずです。特定のベンダーに縛られず、またITや業務改善のノウハウも持っている外部のパートナーを、そのつど上手に活用することが成功につながると思います。
―さまざまな課題への対応策がよく分かりました。今日はありがとうございました。
Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.
製品カタログや技術資料、導入事例など、IT導入の課題解決に役立つ資料を簡単に入手できます。