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DX構想の実現を前提としたRPA活用術――ホームセンター大手・カインズが実践するロボット活用

» 2019年09月09日 10時00分 公開
[相馬大輔RPA BANK]

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都内で2019年6月7日に開かれたイベント「RPA DIGITAL WORLD TOKYO 2019」の基調講演では、RPA(ロボティック・プロセス・オートメーション)活用の最先端を走る登壇者から、この技術が「デジタルトランスフォーメーション(DX)への取り組みで、より洗練されたテクノロジーに移行するまでの過渡期を担う」との見方が示された。

確かにRPAのベースは、既に成熟しきった技術だ。もっともそれは、RPAの活用が一時的流行で終わることを意味するものではない。

過渡期的な状況は、業務を刷新するたびに必ず発生する。そうした局面を柔軟に乗り切る手段としてRPAに可能性を見いだし、自社のDXで活用を始めているのが、ホームセンター業界大手の株式会社カインズ(埼玉県本庄市)だ。

同社のRPA導入経緯とここまでの活用状況、今後同社でRPAが果たす役割について、担当者らを取材した。

■記事内目次

  • DXを見据えた全社展開。必要条件は、稼働時間・アクセス権限の集中管理
  • RPAの実績から、「業務の分析と再構築」を担う専門チームの創設を構想
  • 適材適所でのRPA活用を前提としたDXを

DXを見据えた全社展開。必要条件は、稼働時間・アクセス権限の集中管理

全国28都道府県で約220店舗を展開し、ホームセンター業界で大手の一角を占める株式会社カインズ。1989年の設立以来M&Aによらない成長を続け、品質を高めたプライベートブランドの充実などで独自の企業文化を確立している。

同社を含む物販チェーン6社などで構成する「ベイシアグループ」のIT活用は現在、大きな変革期を迎えているという。

というのも、基幹システムを各社で共通化し、その構築と運用をグループのIT部門がまとめて担う現行体制の一方、それぞれ変化の激しい事業環境に直面している各社では、最新テクノロジーを主体的、かつ迅速に採り入れ、独自に施策を進める必要性も増しているためだ。

このためカインズは2018年に「業務インフラ改革本部」を設置。機能に即してシステムを再配置することも視野に業務フローの再構築を検討するのと並行して、足下では既存のシステム環境を前提とした改善にも着手した。

「業務改善においては、既存のシステム間で生じている連携作業を極力自動化し、効率を高める必要がありました。ちょうど、システム構築よりも早く・容易に実装できるRPAが注目されていた時期で『ここで使わない手はない』とツールの検討を始めました」。

そう振り返るのは、同本部のRPA担当部署「ITイノベーション推進室」で室長を務める野原昌崇氏だ。

具体的なRPAツールの選定は2018年5月にスタート。簡便な「デスクトップ型」と、挙動の安定性や管理統制に優れる「サーバー型」から複数の製品を試用した結果、サーバー型が好適と判断。その中でも国内シェアが高く、同社の環境で安定して動作することを評価して「BizRobo!」を選び、2019年1月から本格運用に入っている。

同社が本格導入にデスクトップ型ではなくサーバー型ツールを選んだ経緯を、野原氏は次のように説明する。

「PC1台単位で導入するデスクトップ型のテスト導入では、事業部ごとにツールの試用版を開放し、現場主体での運用を検証しました。実際に28種類のロボットが完成するなど一定の成果が得られましたが、長期的な運用を考えたときには懸念も残りました。例えば、全社展開に欠かせない稼働時間・アクセス権限の集中管理が十分できないこと、また開発成果を社内で共有するのが難しいことなどです」

「ロボットの管理面と並んで大きかったのが、社内の『スキル』の問題です。RPAの継続的な運用では、ツールの操作以上に、対象業務を分析して再構築する能力が重要となります。接客など臨機応変な対応が主体の小売業で、こうした能力はもともと出番が少なく、新たなスキルを広めるよりは適性ある社員を選抜して取り組みたいと考えたことも、集中管理に向いたサーバー型を選ぶ要因となりました。最終的には、デスクトップ型の試用中に作成されたロボットも、BizRobo!を使って実装し直しています」

現在、同社のロボット開発は、まず担当業務での活用を希望する社員が「ITイノベーション推進室」に審査を申請。これが通ると、事業部単位で選ばれたRPA担当者がロボットの仕様をまとめ、同室のエンジニアが実装する流れになっている。

株式会社カインズ ITイノベーション推進室 室長 野原昌崇氏

RPAの実績から、「業務の分析と再構築」を担う専門チームの創設を構想

2019年4月現在、同社は経営企画部や財務部、人事部、Eコマース事業部などの35業務をロボット化。手作業から解放された人的リソースの合計は、1ヶ月あたり500時間相当にのぼる。

特に大きな成果を上げているのが、商品管理体制の強化に取り組む「棚割業務改善部」でのロボット活用だ。カインズが扱う商品総数の3分の1近い7万SKUを対象に、売価変更のデータ登録作業をロボット化。従来の手作業に比べ、作業速度を1件あたり最大4倍にスピードアップさせることに成功した。

「ロボットによる処理でエラーが出た項目を社員が確認し、再度手作業で登録する手間まで考慮しても、効率の向上は想定以上」と、同部部長の島田輝之氏は語る。ロボットへの移行により、同部の社員全体で月200時間相当の余力が得られたほか、臨時スタッフを加えなければ不可能だった週数千件規模の登録も通常の人員配置で処理できるようになった。

登録データが多い場合の増員手配にかけていた日数が不要となったことで「より機動的な価格政策に対応できる体制」(同)も獲得。社内では、ロボット化が単なる効率化にとどまらず、事業面で打ち手の選択肢を広げたことが、とりわけ高く評価されているという。島田氏は「既存業務の代替だけでなく、更新が滞っている登録データを洗い出して修正するといった新規の業務でもロボットを活用していきたい」と、さらなる活用にも意欲的だ。

株式会社カインズ 棚割業務改善部 部長 島田輝之氏

同社がRPAから得た成果と並んで特筆すべきなのは、「ロボットの実装」という新たな業務が、かえってトータルでの事業効率を落とさないよう一定の制限を設けている点だ。具体的には、ロボットへの代替で手作業から解放される時間を稼働1回単位で試算。その「15倍」を開発時間の上限とし、さらになるべく多頻度の作業への採用を優先しているという。

手っ取り早く効果が得られるポイントを取り尽くせば、今度はより低頻度・少量の作業でも見合うよう、さらなる開発効率の向上が求められる。それだけに「稼働1回で短縮できる時間と開発時間との比率を15倍から10倍以下まで縮めるのを目標に、過去の開発成果が流用しやすい仕組みづくりに着手しています」と、ITイノベーション推進室のRPAエンジニアである田畑隆之介氏は語る。

加えて、ロボット実装の前段階で時間を要している「業務の分析と再構築」についても、これだけを集中的に担う専門チームの創設を構想中という。

株式会社カインズ ITイノベーション推進室 田畑隆之介氏

適材適所でのRPA活用を前提としたDXを

さきに触れたとおり、同社は新組織のもと、将来的な業務システムの再配置を計画している。クラウドやAIの活用にも積極的だ。DXで業務全体が徐々に洗練されていくなか、既存業務の代替や補完で成果を上げてきたRPAに、将来的な活躍の場はあるのだろうか。

そんな疑問に、野原氏は「サーバー型ツールの中でも国内導入実績が多いBizRobo!を選んだのは『ずっと使い続けたかったから』。国内の導入数が多ければ、サービスが突然終了になるような事態も考えにくいため、長期的な利用に適していると考えたのです。その時々で形は変わっても、RPAの出番が消えることはないでしょう」と明言。同社が温めているロボット活用の構想を列挙した。

野原氏によると、今後期待できるRPAの活用領域は「他技術と組み合わせた大幅な業務改善」「システム更新の支援」という大きく2分野に分かれる。

RPAと他技術を併用する業務改善の例としては「販売効率を高める棚割の実現」がある。これは、商品の画像から外寸を自動算出するソフトを新たに導入し、売り場の陳列棚の空きに関する社内データと突き合わせて空間効率を最大化するアイデア。RPAは、商品外寸と空きスペースの照合に応用したい考えで「もし実現できれば、圧倒的な費用対効果が出せるポイント」と、島田氏も期待をかける。

RPAを用いたシステム更新の支援では、旧環境で当面必要なシステム連携のほか、新環境へのデータ移行をロボットで自動化したい計画。さらに野原氏は「いったん始めると改修が困難なシステム開発に先立って、プロトタイプをRPAで組むことも考えています」と明かす。手早く実装でき、試行錯誤を重ねても負担が少ないRPAで事前にさまざまな仕様を試し、システムが真に必要とする機能を見極めたいとの考えだ。

「DXに取り組む過程で頻発する過渡的状況を、変幻自在に姿を変えながら支え続けるデジタルレイバー(仮想労働者)」―。同社におけるロボット活用の実践、そしてその基底にある戦略から浮かび上がるのは、間接業務の効率化だけで終わらせない “1歩先”をゆくRPA活用モデルだった。

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