オフィススペースの施行を手掛けるオカモトヤは、従業員が満足する働き方に変えるために、経営層がPDCAを回しながら各種施策に取り組んだ。
オカモトヤは1912年に創業、2019年で107年目を迎える老舗企業だ。本社を港区虎ノ門に置き、周辺企業や官公庁への事務用品の販売を中核事業としていた。しかし、2008年のリーマンショックに続く世界同時不況の影響で業績は低迷、オフィスの内装デザインなどに注力するようになった。
そこで働き方を見直すきっかけとなることが起こった。オフィスの移転やレイアウト変更は土日に実施されることが多く、従業員の休日出勤が増えていった。働き方や代休の取り方が課題に挙がるようになったとオカモトヤの鈴木 美樹子氏(専務取締役)は語る。
さらに、数年前から従業員の間で身内の介護に関する不安の声も挙がるようになり、若手社員の定着が大きな課題となっていった。女性が働き続けられる環境など、「従業員みんなが楽しく働き続けることができる」環境を作るにはどうすれば良いかを会社として考える必要に迫られるようになったという。
本稿は、「進めよう!中小企業の『働き方改革』」(主催:厚生労働省)におけるオカモトヤによる講演を基に、編集部で再構成した。
鈴木氏は、働き方改革に必要な各種制度の結成や運用は、第三者認証の取得を目指すと経営陣が従業員に宣言することで推進していったと語る。「経営陣からのトップダウンよりも第三者認証の取得を目指す方が効果がある」(鈴木氏)と考えてのことだったという。
例えばオカモトヤは、厚生労働省が推進する「くるみん認定」を2018年度に取得した。これは、子育て支援の行動計画を策定しそこに定めた目標を達成、かつ一定の基準を満たした企業が取得できるものだ。オカモトヤの経営陣はこの認定を取得すると宣言し、定めた目標を達成したわけだ。
それまでオカモトヤは、育児休暇については従業員それぞれの事情に合わせて対応していたが、くるみん認定を取得する過程で、育児休暇に関する規定を明文化する必要に迫られたという。介護休暇についても同様に規定を作成した。
残業時間の管理にも着手した。かつては総務がタイムカードで管理していたため、営業の外回りに出ている社員にとっては不便な管理形態だった。そこで、勤怠管理システムを導入し、外出先からでもスマートフォンで打刻できるようにした。在宅勤務の従業員も、PCから出退勤を登録できるようにしたという。
そして、残業時間の短縮を狙って毎週水曜日を「ノー残業デー」としているという。水曜日の朝には総務から全従業員に「今日はノー残業デーです」とメールを送り、上司の承認がない限りは残業禁止としている。
しかし、休日出勤の代休については、従業員の多くは「休みづらい」と感じていた。そこで、管理職に5日間連続強制で休みを取らせるようにした。上司が休むと部下も休みやすくなるという効果を狙ったわけだ。オカモトヤでは5日間連続休暇の制度を作り、管理職から順次一般社員に広げ、休みやすい、休まなければならない環境を作ってきたという。
オフィススペースの建築業者であるオカモトヤは、「自らが率先してフリーアドレスなどの先進的なオフィスで働いてみる必要がある」と考え、「OACIS」(オアシス:OKAMOTOYA COMMUNICATION INNOVATION SYNERGY)というオフィス空間を構築した。「この空間で実際に従業員が働いている様子を顧客に見てもらい、顧客の働き方改革の支援につなげたい」と鈴木氏は語る。
また、オフィス空間の整備に合わせるように「ISMS」(Information Security Management System:情報セキュリティマネジメントシステム)認証を取得した。外出先での作業や、在宅勤務など多様な働き方に対応するには、情報セキュリティのルール作りが必要と考え、ISMSを取得したという。
ISMSの効果として各従業員が保管していた書類をまとめて整理できたという点も挙げられるという。ISMSに従って、資料の管理、共有などの正しい方法を定めながら、書類を整理していったところ、従業員が保管していた書類が劇的に少なくなるということもあったという。
オカモトヤは以上のような施策を3カ年計画で進めてきた。働き方改革には4年前から取り組み、現在5年目に入っている。鈴木氏は働き方改革を始めるに当たって、従業員を対象としたアンケートで会社に対する満足度が「大変満足」と「満足」を合わせて50%以上となることを目標としたという。
そして2019年8月に実施した従業員アンケートでは、「大変満足」が7%(2018年は6%)、「満足」が48.8%(2018年は34.9%)、合計で55.8%が現在のオカモトヤに満足しているという結果になり、当初の目標を超える数字を残せた。
また、「働き方改革に意識を持てましたか?」という設問では、「意識が変わった」という回答が2018年から10%ほど増加して62.2%に達し、「意識が変わり、自身の行動。言葉に変化が出た」という回答が2018年から5%程度増加して15.7%となった。この結果について鈴木氏は「従業員が働き方改革に向けて行動すると、意識も変わっていく」と推測している。さらに調査結果を見ると、意識が変わることで行動や言動も変わることが分かる。変化した行動や言動がほかの従業員に影響を与えることも大いに考えられるだろう。
このようにオカモトヤでは働き方改革について、計画、実施するだけでなく、従業員からのフィードバックをさまざまな形で集めている。方針説明会を年に3回、7月、12月、4月に開催し、個人面談を年に4回実施し、ここでもフィードバックを得ている。2018年11月の面談では、働き方改革に限らず、上司との関係、自身が担当している業務の内容などについて事前にアンケートを実施し、その結果を基に、従業員と直属ではない役員で話し合ったという。
そして従業員から得たさまざまなフィードバックを2月に実施する「計画会議」で検討し、働き方改革や、組織の在り方などについて従業員の意見や役員の考えなどを翌年の計画に反映させ、PDCAサイクルを回している。
以上のような施策に取り組んできた結果、働き方改革に関する2019年4月のアンケートでは、以下のような結果が出た。育児休業の取得率は100%。過去10年間で7人のスタッフが育児休暇を取って復帰。そのうち2人が、在宅勤務をしている。残業時間は平均で24時間。94%程度の社員が有給休暇を5日消化しており、働き方改革への満足度は90.6%。
オカモトヤでは最近、テレワークや時差出勤も取り入れ始めた。今後は、健康経営優良法人の認定取得や、65歳定年の検討、副業の承認などといった施策を検討して、可能なものから導入していきたいとしている。
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