ラクスが発表した調査によれば、従業員数「301〜400人」規模の中小企業の経理は、コロナ禍であっても約半数が「週5日以上出社している」と回答したという。一方で、「全く出社しない経理部」を実現した企業があるという。
日本の紙・ハンコ文化が業務のデジタル化や働き方改革の取り組みを妨げているとやり玉に上がるケースが増えた。特に新型コロナウイルス感染症(COVID-19)が流行し、テレワークシフトが進む中、総務や経理など一部の従業員は押印や郵送のために出社せざるをえなかった。クラウドなどを活用してほとんどの業務はデジタル化できているものの、特定の総務・経理業務だけがアナログな現状に対して多くの批判が向けられた。
2001年に施行された「電子署名法」(電子署名及び認証業務に関する法律)によって電子文書への電子署名をハンコと見なすことが可能になった。また、1998年に制定された「電子帳簿保存法」(電帳法)も2020年までの段階的な改正によって、税金関係の帳簿書類を電子データとして保存することも認められた。その間、電子契約や電子保存のためのソリューションもさまざまなベンダーから提供されてきた。紙のペーパーレス化やハンコの電子化はすぐにでも取り組めるのだ。
ではなぜ「脱紙」や「脱ハンコ」が思ったほど進んでいないのか。「その背景には、ツールや仕組みの導入だけでは解決しにくい業務課題がある」と指摘するのは経費精算システム「楽楽精算」を展開するラクスの本松 慎一郎氏(BOクラウド事業本部長 兼 楽楽精算事業統括部長)だ。
「われわれが最近実施した調査では、経理担当者の約7割が『平常時でもテレワークできる体制が必要だが、なっていない』と回答しました。経理のテレワーク化という変化への適応はまだ不十分で、経理業務を中心にバックオフィス領域には非効率な業務が多く残っています。ハンコ問題は氷山の一角に過ぎません。いま求められるのは『脱 紙・ハンコ』の本質を捉えたうえで変化に対応していくことです」(本松氏)
ラクスが運営するオウンドメディア「経理プラス」で実施したアンケート調査「テレワーク推進状況の実態」(実施期間:2020年4月20日〜24日)によれば、従業員数「301〜400人」の企業規模に勤める経理担当の約半数がコロナ禍であっても「週に5日以上出社している」と回答したという。
半ば強制的にテレワークに移行したことで紙・ハンコ問題がクローズアップされたが、問題の本質はそれを解決できずにいた業務の在り方そのものを見直すことにあるということだ。
ラクスの顧客の中には、コロナ禍を乗り切り、業務の在り方を見直すことに成功した企業もあるという。
本松氏が成功企業の1社として紹介するのが、科学研究機器・半導体プロセス装置、分析機器の輸入販売・保守を手掛けるオックスフォード・インストゥルメンツだ。従業員数約80人の同社は、経費精算の課題に対応するために、楽楽精算を利用して業務の電子化を進めていたところだった。そんな中でCOVID-19が発生したため、ツールの導入と業務の見直しを急ピッチで進めたという。
「オックスフォード・インストゥルメンツでは、2月から出勤を月に1回または週に1回に抑えて在宅勤務の試験を実施しました。ポイントになったのは楽楽精算の『ワークフローオプション』を用いて稟議(りんぎ)書の電子化など、経費精算以外の業務についても電子化を進めたことです。また、3月からは『電帳法オプション』を導入して、請求書や領収書の電子化をさらに進め、完全テレワークに対応しました。その後、緊急事態宣言の発令により従業員の9割がテレワークへ移行しましたが、経理は全く出社せずに業務を完了できたとのことです」(本松氏)
請求書発送先が官公庁などの場合は紙の請求書が必要になり、どうしても出勤せざるを得ない部署はあった。それでも、緊急時を想定した試験的な在宅勤務の実施と、請求書や領収書、ワークフローを電子化したことで、同社はコロナ状況下においてスムーズな事業継続を実現できたという。
本松氏は「アフターコロナ・ウィズコロナ、第二波に備えつつ、まず経理の働き方をアップデートすることで、企業の変革につながります。紙やハンコは意味なく使っていたわけではありません。それぞれ目的をしっかり理解した上で、できるところから電子化していくことが正しい進め方です」と話す。
中小企業において、紙やハンコから電子化への取り組みを進めやすいのが、稟議書や経費精算書の分野だ。
契約書など法的な証跡として残すべきものに対して「脱 紙・ハンコ」を進めることは現状ではややハードルが高い。電子契約などのソリューションは提供されているものの、電子化できないものも部分的に残るため、業務負荷が高まる可能性もあるためだ。
これに対して稟議書や経費精算書などの業務は、企業が内部統制のために行っているものであり、チェック機能が働けばよいというケースがほとんどだ。いわゆる丸印ではなく角印やシヤチハタを使う業務であり、電子化も進めやすいという。
「法的な証跡が必要な場合は、無理に電子化を進めずにアナログのまま残すという判断をする企業もいます。その一方で、稟議書や経費精算書といった内部統制上必要なものについては、電子化がしやすく、業務負荷の削減効果も高い。まずはこの領域について積極的に電子化を進めることを提案しています」(本松氏)
楽楽精算は約6000社での利用実績ある経費精算ソフトウェアだが、そのうち電帳法オプションを利用しているユーザーは1000社程度にとどまる。そのためラクスは、パートナー企業と連携しながら、法律を正しく理解して正しく運用するための方法を伝えるセミナー開催にも力を入れているという。
また、ラクスが持つ業務効率化のノウハウも積極的に提供している。同社は従業員数が1000人規模に成長したが売上高は500億円規模であり、中堅・中小企業としてさまざまな工夫を凝らしながら事業を展開しているという。
「経費精算という面では、楽楽精算を使うことはもちろん、社員にコーポレートカードを付与するといった施策で精算業務の効率化に努めています。本社は東京ですが、経理は関西でといった遠距離経理も行っています。営業スタイルも、これまでのような訪問メインから『ベルフェイス』のようなオンライン商談システムを利用したスタイルへと転換しはじめています。アフターコロナ、ウィズコロナを見据え、環境の変化に合わせて適応していくことこそが重要だと考えています」(本松氏)
ラクスが掲げる企業理念は「IT技術で中小企業を強くします! すぐ便利、ずっと満足」というものだ。そして楽楽精算も中堅・中小企業を対象に経理の課題を一点集中型で解決するソリューションとして支持を獲得してきた。
「経理の今あるニーズに応えることを重視した開発スタイルから、経理の潜在的ニーズを見極め、より良い解決策を提案することを重視した『攻め』の開発スタイルを強めています。2016年にリリースした電帳法への対応機能もその一つです。2020年2月頃から電帳法に関する問い合わせが増え、電帳法オプション機能の契約件数も増加してきました。経理の働き方改革をリードするサービスとして今後も機能拡張を続けていきます」(本松氏)
楽楽精算については、2022年3月までに1万社への導入を目指し、将来的には「人が行う経費精算業務をゼロにする」ことが目標だという。また、マーケットにおいても、2024年3月までに楽楽ファミリー全体で売上高200億円を目指している。
ラクス全体での取り組みとしては、ソリューションパートナーシップの強化や、バックオフィス領域でのさらなる生産性向上をはかる「BO Tech」の推進を挙げる。
「ソリューションパートナーシップは、経費精算業務をはじめとしたバックオフィス業務全体の改善につながるツールやサービスを提供する企業同士が垣根を越えて連携する構想です。経理をはじめとするバックオフィス担当者の課題解決を促進します。2020年夏には、仕訳データやラスターなどを簡単に連携できるツール『楽楽コネクタ』をリリース予定です。また、「BO Tech」は「Back Office x Technology」の意味で、バックオフィスの悩み、痛みに寄り添いながら、自社サービスに限らないITの活用でバックオフィスの業務改善、生産性向上を図っていきます」(本松氏)
製品としても、楽楽ファミリーの新サービスとして「楽楽勤怠」を10月にローンチ予定だという。
紙やハンコは全て電子化できるわけではない。だが、できるところから電子化していくことで、経理業務を効率化でき、それをきっかけに企業変革につなげていくこともできる。ラクスは、そのような「“経理から始まる”企業変革」を支援していく、と本松氏は強調する。
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