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スプレッドシートでGemini入門 関数生成にデータ分析……使って分かる活用アイデア【実践レビュー】

生成AI「Gemini」が「Google スプレッドシート」に組み込まれ、シームレスに使えるようになりました。今回は実際にサンプルデータを使って、Geminiとスプレッドシートで何ができるのかを探っていきます。

» 2025年06月04日 10時00分 公開
[谷井将人キーマンズネット]

 表計算ツールと言えばMicrosoftの「Excel」ですが、最近では「Google スプレッドシート」をよく使うという企業も多いでしょう。クラウド型なので社内でデータを共有するのに便利ですよね。

 スプレッドシートに「Gemini」が組み込まれたことでよりスムーズに生成AI機能を利用可能になり、AIがシートを操作したり、データを分析したりできようになっています。

 今回は実際にサンプルデータを使って、スプレッドシートとGeminiで何ができるのかを探っていきます。現状見つけた活用アイデアは以下の3点です。

  • 職場の「関数職人」の立場を奪う? 関数を生成する方法
  • これでBIはもう不要に? データ分析での活用法
  • アンケートのフリーコメントを分析し、回答傾向を把握する方法

スプレッドシートでGeminiを使う方法

 スプレッドシートを開くと、ユーザーアイコンの左隣に星型のボタンが表示されます。これを押すとGeminiが立ち上がります。こうして開いたGeminiはスプレッドシートの内容を取り込め、ソースとして生成に使えます。

photo Gemniのアイコンを押すと、画面右側にGeminiとやり取りできるチャット画面が表示される

 利用の際は自社のAI活用ポリシーなどに従ってください。

職場の「関数職人」の立場を奪う? 関数を生成する方法

 Excelもスプレッドシートも、慣れないと関数の組み立ては結構大変です。SUM関数くらいなら簡単ですが、VLOOKUP関数は日常的に触れていないとどんな関数か、どんな書き方をするのか思い出せないこともあるでしょう。こういうときには関数に自信がある人が重宝されたりするのですが、これはGeminiに奪われる仕事かもしれません。

 Geminiを使って、商品名と発注数を入力するだけで先方担当者と商品識別ID、発注額が自動的に表示される仕組みを作ってみましょう。

photo 完成形

 まずスプレッドシートにサンプルデータを用意します。A列が商品名、B列が商品識別ID、C列が商品価格、D列が担当者です。

 Geminiには「F4に商品名、G4に発注数を入力すると、F7に担当者、G7に商品識別ID、H7に発注額を自動的に表示する関数を組んでほしい」と指示を出しました。発注額は「○○万××円」の形式で表示してほしいので、それもリクエストしました。そうしてできたのが以下の関数です。

  • F7: =IFERROR(VLOOKUP(F4,A2:D101,4,FALSE),"該当する商品が見つかりません")
  • G7: =IFERROR(VLOOKUP(F4,A2:D101,2,FALSE),"該当する商品が見つかりません")
  • H7: =IF(ISERROR(VLOOKUP(F4,A2:C101,3,FALSE)),"該当する商品が見つかりません",IF(AND(INT(VLOOKUP(F4,A2:C101,3,FALSE)*G4/10000)=0,MOD(VLOOKUP(F4,A2:C101,3,FALSE)*G4,10000)=0),"",IF(MOD(VLOOKUP(F4,A2:C101,3,FALSE)*G4,10000)=0,TEXT(INT(VLOOKUP(F4,A2:C101,3,FALSE)*G4/10000),"0")&"万",IF(INT(VLOOKUP(F4,A2:C101,3,FALSE)*G4/10000)=0,TEXT(MOD(VLOOKUP(F4,A2:C101,3,FALSE)*G4,10000),"0")&"円",TEXT(INT(VLOOKUP(F4,A2:C101,3,FALSE)*G4/10000),"0")&"万"&TEXT(MOD(VLOOKUP(F4,A2:C101,3,FALSE)*G4,10000),"0")&"円"))))

 表記を細かく指定した影響で、H7セルに記入した関数が特に複雑ですね。Geminiに聞けばこの関数の構造を自然言語で説明してくれるので、重大な問題のある文になっていないかは最低限チェックできると思います。

 前任者が残したどんな仕組みで動いているのか分からないスプレッドシートの関数を読み下すのにも使えそうですね。現実的にはこれが一番便利かもしれません。

これでBIはもう不要に? データ分析での活用法

 今度は簡単なデータ分析をやらせてみましょう。人材支援企業MembersECGrowCompanyの成川雄大氏が公開している「通販オープンデータ」をお借りしてスプレッドシートに取り込みました。これは通販サイトの注文データなどが3万件分入ったサンプルデータです。

 スプレッドシートの構造は、A列からカスタマーID、注文日、商品価格、アイテムID、アイテムカテゴリー、オーダー数、オーダー価格、居住地域、年齢、性別です。

photo

 このデータについて「売上基準で、売れている商品の上位を抜き出し、どんな属性の人が購入しているか分析、可視化してください」と指示してみました。

 Geminiは売り上げ上位5商品を探して、性別や年齢の分布を調査しました。生成AIはハルシネーションを起こして間違った内容を生成することがありますが、データの操作はPythonコードを書いて実行しているため、コードさえ間違っていなければ、AIが勝手にデータを捏造することはありません。

 分析結果は以下の通りでした。

  • 主な購入者層は、20代、30代、40代、70代の年齢層です。特に70代の購入者が比較的多いことが分かります
  • 男性と女性の購入者数はほぼ同数です
  • これらの結果から、売れ筋上位5商品は特定の年齢層に偏らず、幅広い年齢層の顧客に購入されていることが示唆されます。また、性別による購入傾向の差も少ないと考えられます

 データの検索や並べ替えに苦労することなく、より短時間で結論を導き出せます。

 全くデータ分析をしていない状態からなら、この機能を使うことでかなり進歩するでしょう。ただ、BIがいらないかというとそうではありません。

 筆者の主観にはなりますが、BIのいいところは多数のコネクターでさまざまなツールからデータをリアルタイムに受け取って使えることだと思います。スプレッドシートに他ツールからデータを自動的にインポートするのはなかなか骨が折れるでしょう。

アンケートのフリーコメントを分析し、回答傾向を把握する方法

 スプレッドシートと「Google フォーム」を結び付けると、アンケート結果をスプレッドシートで集計できて便利です。アンケート結果を分析するときに大変なのが自由記述欄です。数値化しにくいので一括で処理するのが難しいですよね。

 Geminiはこういうデータを分析できるのがメリットです。今度は架空のアンケート「使っているデータ分析ツールと選定理由」の回答を50件用意しました。Geminiには「データ分析ツールの選定基準として特に重視されている要素を洗い出してください」と指示しました。Geminiは回答に含まれるキーワードの出現頻度を分析して以下のような結論を出しました。

  • データ連携・接続性: 「多様なデータソースに対応しており」という記述が複数見られます
  • 可視化・レポーティング: 「経営層やビジネスサイドへのデータ可視化とレポーティングが主な目的です」という記述があります
  • 使いやすさ・操作性: 「直感的な操作で美しいダッシュボードが作成でき」という記述があります
  • 分析の目的・種類: 「プログラミングによる高度な分析と機械学習モデルの構築が必要なため」という記述からは、高度な分析ニーズがあることが分かります。
  • これらの要素は、データ分析ツールの選定において、ツールの機能性だけでなく、利用者のスキルや分析の目的に合ったツールが選ばれていることを示唆していると考えられます。

 回答数が多くなればなるほど、この結論を出すために必要な作業量は増えます。テキストの分析は専門ツールがないと大変ですから、手軽にできる仕組みがあれば非常に助かります。

 このように、スプレッドシートにGeminiが付属すると、これまで「できるといいけど時間がかかりすぎるので手を付けられていなかったこと」を実現できます。高度なデータ分析を実現したい場合や便利な分析環境が欲しい場合はBIの導入を考えた方がいいですが、データを活用する意識を醸成するときやデータの更新頻度が低いときなどは一つの手段としていいかもしれません。

 勤務先で「Google Workspace」を契約しているのなら、せっかくなので使ってみましょう。たまに聞く「Excelやスプレッドシートは得意なので定型業務を自動化して時間を圧縮しました!」という従業員の仲間入りができる可能性もあります。

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